第82話 境界の前で
外縁の六つの存在は、境界膜の直前で止まっていた。
近づこうともしない。
離れようともしない。
ただ、揺れている。
---
「接触体六、停止」
観測官が報告する。
「攻撃兆候なし」
---
カイナはまだ警戒を解かない。
「距離を保っているだけだ」
---
「違う」
リオナが小さく言う。
---
「迷ってる」
---
スクリーンの波形は確かにそうだった。
進む波と引く波が交互に現れる。
---
Λが言う。
「意思決定揺らぎ」
---
レオニスが静かに呟く。
「境界という概念が、まだ安定していない」
---
エイドが境界膜の前に立つ。
向こう側の六つを見る。
---
「友」
---
その単語は、以前よりはっきりしていた。
---
外縁側の六つの波形が揺れる。
---
ひとつが、少し前に出る。
---
「……友」
---
その音はまだ崩れていた。
だが意味は明確だった。
---
観測室の空気が変わる。
---
「模倣ではない」
Λが言う。
「概念獲得」
---
アリエスが息を呑む。
「早すぎる」
---
カイナが低く言う。
「だから危険だ」
---
レインは何も言わない。
ただ波形を見ている。
---
六つの存在の揺らぎは不安定だ。
だが共通している。
---
互いに少しずつ近づき、また離れる。
---
「群れ行動」
サエルが言う。
---
「集合構造の芽」
---
リオナが小さく笑う。
---
「友達って、そういうもの」
---
その言葉に、六つの波形が一瞬だけ整う。
---
エイドが境界膜に触れる。
---
膜は揺れる。
---
だが、破れない。
---
「通る」
---
エイドが言う。
---
六つの存在が同時に揺れる。
---
だが一歩も動かない。
---
「境界」
ひとつが言う。
---
「怖い」
---
リオナが息を呑む。
---
レオニスが小さく言う。
「当然だ」
---
「境界とは」
---
「初めての壁だからな」
---
レインは静かに言う。
---
「通らなくていい」
---
全員が彼を見る。
---
「境界は」
---
「越えるためだけにあるものじゃない」
---
外縁の六つの存在が揺れる。
---
しばらくして。
---
ひとつがゆっくり言う。
---
「見る」
---
そして。
---
六つは境界膜の前に座るように留まった。
---
通らない。
---
逃げない。
---
ただそこにいる。
---
Λが静かに言う。
---
「外縁側」
---
「観測安定」
---
サエルが呟く。
---
「対話の最初の形だ」
---
戦えない参謀は理解する。
---
文明の最初の接触は、
---
言葉でも契約でもない。
---
**ただ隣にいることだった。**
---
境界膜の前で、
七つの存在が
静かに揺れていた。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




