第75話 意味の境界
第12境界観測拠点は完全封鎖された。
外から見れば、施設はそのままだ。
壁も、窓も、設備も残っている。
だが内部は――
“部屋”ではなくなっていた。
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「意味崩壊領域、半径三十二メートル」
観測官が報告する。
「拡大速度、低速」
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「低速でも拡大している」
カイナ・ロスフェルドが冷静に言う。
「これは災害だ」
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「原因は?」
レオニスが問う。
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Λが解析結果を出す。
「外縁側意味構造の侵入」
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「こちらの概念体系と不整合」
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アリエスが低く言う。
「向こうには“床”がない」
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「だから」
レオニスが理解する。
「床が床でなくなる」
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エイドが小さく震える。
境界膜の縁で、不安定に揺れている。
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「怖い」
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その単語は、明確だった。
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リオナが近づく。
「誰が?」
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「向こう」
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全員が沈黙する。
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「外縁側が?」
レインが問う。
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エイドはゆっくり頷く。
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「こちら」
「意味」
「強い」
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Λが解釈する。
「外縁側構造にとって」
「我々の意味体系が侵食」
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つまり。
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こちらも向こうを壊している。
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アリエスが呟く。
「相互意味汚染」
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カイナが言う。
「だから排除が必要だ」
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彼女はレインを見る。
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「接触体を隔離すれば」
「意味干渉は止まる可能性が高い」
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沈黙。
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レオニスが言う。
「エイドは原因ではない」
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「原因は接触そのものだ」
カイナが返す。
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「境界を閉じるべきだ」
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その言葉に、
エイドが強く揺れる。
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「閉じる」
「危険」
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「なぜ」
レインが問う。
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エイドは長く沈黙する。
輪郭が不安定になる。
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そして、ようやく言う。
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「閉じる」
「外縁」
「壊れる」
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全員が息を呑む。
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サエルが低く言う。
「閉鎖すれば」
「外縁側の構造が崩れる」
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「ノクス文明と同じだ」
レオニスが呟く。
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カイナは動じない。
「外縁より」
「こちらの文明が優先だ」
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リオナが小さく言う。
「でも」
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「向こうも、生きてる」
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沈黙。
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境界膜が、ゆっくりと波打つ。
外縁の揺らぎが、
こちらを観測している。
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レインは静かに言う。
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「境界は閉じない」
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カイナの視線が鋭くなる。
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「ではどうする」
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レインは、観測図を見る。
意味崩壊領域。
外縁波形。
エイド。
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そして言う。
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「意味の境界を設計する」
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戦えない参謀は理解していた。
揺らぎの問題でもない。
観測の問題でもない。
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文明と文明の衝突でもない。
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これは
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**意味体系の衝突**だった。
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