第74話 意味の崩壊
エイドが現れてから、三日。
外縁波形は静かに増えていた。
爆発ではない。
浸透。
境界膜に沿って、意味を持った揺らぎが流れている。
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だが最初の事故は、突然起きた。
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「異常報告」
中央観測局の声が震える。
「第12境界観測拠点」
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映像が開く。
小さな観測施設。
研究員が三人。
装置が並んでいる。
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だが。
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床が、消えていた。
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いや。
消えたのではない。
意味が崩れている。
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床という概念が、
その場所から消えていた。
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研究員の一人が歩こうとする。
だが足が沈む。
落ちるわけではない。
存在確率がずれる。
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「……重力、正常」
「物質密度、正常」
「だが」
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Λが言う。
「意味構造崩壊」
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床は存在している。
だが“床として機能していない”。
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「外縁干渉」
Σが即座に結論を出す。
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施設内の机。
壁。
椅子。
すべてが少しずつ曖昧になる。
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研究員が叫ぶ。
「ここが、どこか分からない!」
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空間はある。
だが“部屋”ではない。
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「意味の定義が剥離している」
アリエスが息を呑む。
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カイナが即座に命令する。
「拠点封鎖」
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「待て」
レインが言う。
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その瞬間。
エイドが震える。
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「……違う」
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全員が見る。
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「怖い」
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リオナが小さく言う。
「向こうが」
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Λが波形を解析する。
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「外縁側の意味構造が混入」
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「混入?」
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「こちらの意味体系と衝突」
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つまり。
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外縁側には“床”という概念がない。
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だから、接触した場所で意味が崩れる。
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「概念衝突」
サエルが低く言う。
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エイドが震えている。
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「境界」
「必要」
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それは、初めての警告だった。
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境界は、閉じるためではない。
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意味を守るために存在する。
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レインは理解する。
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余白は必要だ。
だが。
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余白が広がりすぎれば、
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世界の“意味”が溶ける。
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戦えない参謀は、静かに目を閉じた。
問題は揺らぎではない。
問題は、
意味だった。
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