第24話 正しい国が、世界を壊す
最初の報せは、小さなものだった。
「国境付近で、小競り合いが発生」
「規模は?」
「軽微です。死者も出ていません」
王都では、その情報はほとんど話題にもならなかった。
国境での衝突など、珍しくもない。
それも、被害が出ていないのなら尚更だ。
だが――。
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「……速すぎる」
戦況報告書を見たセシリアは、そう呟いた。
相手国は、ヴァルケイン連邦。
軍事合理国家として知られる国だ。
「先制行動の判断が、異常に早い」
情報収集。
分析。
決断。
すべてが、洗練されすぎている。
(まるで、
“起きる前に叩く”ことを
前提にしている……)
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数日後。
第二報が届く。
「ヴァルケイン連邦が、
隣国の補給拠点を制圧」
「宣戦布告は?」
「ありません。
“防衛行動”だそうです」
理由は、明確だった。
将来的な敵対行動の可能性。
補給線の脆弱性。
先に叩いた方が、被害が少ない。
――理屈は、完璧だ。
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「問題は、そこじゃない」
セシリアは、すぐに理解した。
これは侵略ではない。
暴走でもない。
**合理的判断の連続**だ。
「これ、連鎖する……」
彼女の予感は、外れなかった。
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オルディア商盟が動いた。
「交易路の一時封鎖を決定」
「理由は?」
「戦火拡大のリスク回避」
表向きは中立。
だが、補給を断たれた国は焦る。
防衛を固める。
軍を前に出す。
また一つ、緊張が高まる。
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さらに。
「エル=サリア神政国が、
結界を最大出力に」
「難民は?」
「受け入れ拒否です」
守るための判断。
自国民を守るための、当然の措置。
誰も、責められない。
それでも――。
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「……世界が、
正しく壊れ始めている」
セシリアは、王都の地図を見下ろした。
一つ一つの判断は、正しい。
一つ一つの行動も、合理的。
だが、それが同時に起きればどうなる?
(衝突は増える。
補給は細る。
不安は連鎖する)
**誰も間違っていないのに、
世界だけが悪化していく。**
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同じ頃。
辺境領。
「各国の動きが、
妙に慌ただしいですね」
ヴァルドの言葉に、
レインは静かに頷いた。
「ええ。
最適化が始まっています」
「……最適化?」
「自国だけを、です」
レインは地図に視線を落とす。
そこに描かれているのは、
線ではなく――流れだった。
「国家単位では、正しい」
「ですが、
世界単位では最悪です」
ヴァルドは、息を呑んだ。
「戦争になるのか?」
「いえ」
レインは、首を振る。
「**戦争より、
もっと厄介なものになります**」
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その言葉の意味を、
まだ誰も理解していなかった。
だが、確実に。
世界は今、
誰も止められない速度で、
“正しさ”を積み重ね始めていた。
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