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金の獅子と銀の竜  作者: じゃっすん
友との出会い
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訓練場での出来事

 日を改め、レオノールは今度こそ訓練場へと来ていた。前回はシルヴァを眠らせたため、結局行けなかったのだ。ちなみにシルヴァが起きた時、服の中に潜り込んでいたレオノールを見て悲鳴を上げていた。アークバルトも叫んでいた。


「……よく来たな」


 あまり来て欲しくなさそうな顔でザギルがこちらを見るが、残念ながらレオノールは全く気にならなかった。むしろ気にしたのは自分に自信が持てないシルヴァだ。


「ご、ごめんなさい。兄上は忙しいのに」


「いや!そんなことはない。案内しよう」


 慌てて笑顔を浮かべるザギルの後を、手を繋いだレオノールとシルヴァが続く。大きな扉を潜り抜けると、そこには多くの兵士が戦っていた。模擬戦の最中のようだ。

 ラプトル隊の訓練は主に騎乗戦になるので、一対一の対人戦は初め見る。興味深く眺めていると、1人の男が集団から抜けて走ってきた。


「ザギル軍団長!そちらが噂の?」


「ああ、金獅子帝の甥御であるアクアネル公子だ。レオノール、この男は私の副官のダイゴだ」


「自分はダイゴ・ユング・ヒュピテスと申します」  


 厳つい男だ。髪は短く切られ、額から右目を掠めるように3本の傷跡が頬の下まで伸びている。正に歴戦の戦士といった風貌だ。


「くんれん みにきた」


 レオノールが目的を告げれば、直ぐに先ほど見ていた集団の元に案内される。兵たちは全員整列しており、キリリとした顔でこちらを見ていた。


「お前たち!シルヴァ殿下とアクアネル公子の前だ!気合いを入れていけ!」


「「「はっ!!!」」


 勧められた椅子に座って観戦していると、ザギルが話しかけてくる。ダイゴは既に訓練に戻って不在だ。


「ガザールの兵はどうだ?」


 正直レオノールに人間の強さはよく分からない。どれも同じように見えるからだ。ただ……時折キレイに剣を振る人間が目に留まった。


「あの にんげん、けん きれい」


「うん、目立ってるよね」 


 レオノールとシルヴァが揃って見ているのは、ダイゴと戦っている兵士だ。ダイゴの剣を最小限の動きでかわし、隙をついて反撃をしている。無駄のない動きだ。ただ途中からダイゴの動きが変わり、対応できずに剣を飛ばされていた。


「あいつは剣の腕はいいんだが、女癖がな……」 


「おんなぐせ なに?」

「女癖って何ですか?」


 ピュアな瞳×2にザギルはたじろぐ。じー、と見つめてくる目に耐えかねたのか、「私も訓練に参加してくるから、2人とも好きなだけ見ていくといい」と早口で告げると、ザギルはその場から撤退した。


「しるゔぁ くんれん しない?」


「僕は……誰かを傷付けるのが怖いんだ」


 俯くシルヴァを椅子の上に立ち上がったレオノールが撫でる。


「しるゔぁ やさしい。でも それだけじゃ だめ」


 「え?」とシルヴァが顔を上げた瞬間、ドゴォという音とともに石畳が吹き飛んだ。


「何!?」


「あそこ」


 レオノールが指差した先には巨大な茶色の体をくねらす化け物がいた。





「何だ!?」

「なぜ魔物がここに!?」

「見ろ!一体じゃないぞ!」


 それは頭のない蛇のような魔物で、次々と石畳の下から這い出してくる。グパァッと口をあければ、円形状に並ぶ牙が口の奥まで続いていた。数は全部で6体。


「陣形を整えろ!誰かあの魔物の情報を持つ者はいるか!?」


 ザギルが叫べば全員が迷いなく動き出し、一体を十数人で囲んでいく。ただ目ぼしい情報はないのか見たことがない、と言った言葉がそこかしこで聞こえてくる。


「砂漠に生息するワームがあの様な姿だと聞いたことがあります!」


「弱点と注意点は分かるか!?」 


「弱点は火魔術!酸性の液体を吐くと!」


「聞いたな!魔術師は火魔術の準備!その間は我々で抑えるぞ!」


 先陣を切ってザギルが剣で魔物を切ると、ガァンと弾き返された。


「くっ!硬い!」


 獲物をザギルに見定めたのか、魔物の口から何かが放たれる。


 ――ジュワァァァァ


 間一髪、避けたザギルが今までいた場所を横目で見れば、石畳が見るも無残に溶けていた。酸性の液体に間違いない。


「厄介なっ!」


 液体が次々と放たれ、ザギルは近寄る事も出来ない。そうしている内に更に一体の魔物が石畳を突き破って兵士たちを吹き飛ばした。


「新手か!」

「いえ!魔物の尾です!」


 そう言われて、よく見ればザギルが戦っていた魔物と繋がっている。


「気を付けろ!この魔物、思ったより長いぞ!」


「離れて下さい!」


 魔術師が叫べば、兵士たちは一斉に射線を開ける。その動きは見事で、普段から訓練されている事がよく分かる。

 空中を魔術陣が幾重にも彩り、ドドドドドド!と凄まじい音を立てて炎が魔物へと殺到する。炎と煙が視界を覆い、束の間の静寂が訪れた。

 立ち上がる熱気を腕で防ぎながらザギルが目を細めた瞬間、隣の兵が消えた。いや、喰われたのだ。


「地面の下に隠れたのか!?」


「きゃあああああっ!」

「魔物がこっちに……うあああ!」

「これでもくらえ!」


 後ろを振り返れば、魔術師たちが襲われていた。魔術で反撃した強者もいたが、ザギルが駆けつけた時には殆どが胃袋に入った後だった。





「ど、どうしよう」


「しるゔぁ わたし まもる」


 頼もしくレオノールがシルヴァを隠すように前へ出るが、小っさいので魔物から丸見えだ。ただ魔物はこちらに気付いてないのか襲って来ない。 


「ま、魔術師が……」


 遠目からだと惨状がよく見える。魔術師が喰われていく様子も、ザギルの剣が折れる様子も。


「兄上が!」


 走り出そうとするシルヴァの手をレオノールが掴む。


「だめ。しるゔぁ たたかえない。あそこ みる」


 レオノールが指差す先には、ザギルが拳で応戦する姿があった。剣での斬撃より効果があるのか、魔物は苦しげに身悶えてる。ドガンっとザギルの一撃が決まると、魔物の体が砕けた……置き土産と共に。

 酸のシャワーがザギルと兵士たちを襲い、その隙をつき、無事な魔物が兵たちを喰らっていく。半ば溶けた腕で魔物に挑むザギルの姿に、レオノールの制止を振り切ってシルヴァが駆け出した。






 シルヴァは無我夢中で走った。

 自分を憎んでいると思っていたんだ兄が、自分のことを心配していると知ってどれだけ嬉しかったか。味方はもう父しかいないと思っていたのに。


 自分が化け物だから。

 自分が殺してしまったから。


 怖かった。自分の力も、自分自身も。

 でも、とシルヴァは祈る。もう逃げないから、自分も戦うから、どうか兄上を助けて下さい、と。

 だが……そんな祈りも虚しく、シルヴァの目の前で兄は魔物の腹の中へと消えていった。


「うああああああああ!」


 シルヴァは魔物を殴る、殴る、殴る、殴る!

 それは生まれて初めて振るう全力の力。一匹、二匹、三匹……五匹。全ての魔物が地に倒れた中でシルヴァはただ叫んでいた。


「しるゔぁ おぼえておく。ちからは おそれるもの ちがう。おぼれるもの ちがう。しはいするもの」


「レオノール……?」

 

 焦点の合わぬ目で自分を見るシルヴァに、レオノールは微笑む。

 レオノールが片腕を上げれば、倒れたはずの魔物がゆっくりと起き上がり……ペイッと何かを吐き出した。


「兄上!?」


 シルヴァが慌ててザギルを抱き起こせば、くぐもった声がする。よくよく見れば溶けていたはずの腕も元に戻っており、殆ど布切れとなった服だけがかつての惨状を物語っていた。 


「うっ、いったい何が……魔物は!魔物はどうなった!?」


 目を覚まし、飛び起きたザギルにシルヴァは返す言葉を持っていなかった。その代わり、全て知っていそうなレオノールに目を向ける。その目はキリキリとつり上がっており、いつも温厚なシルヴァとは思えないほど凶暴な顔つきだ。。


「どういうこと?」


「しるゔぁ くんれん ひつよう」


 飛びかかってくるシルヴァを華麗に躱し、レオノールは魔物、改め根っこに乗って逃げ続ける。


「ちょっと待て!部下はどうなったのだ!?」


 ザギルの言葉にその存在を思い出したレオノールは反対側の根っこ――魔物のお尻部分――から次々と人間を排出する。回復効果のある蜜の中に漬けておいたので全員怪我1つない。


「一発殴らせろ!!」


「いや」


 余談だが、この日からシルヴァは自分のことを俺と言うようになったという。

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