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金の獅子と銀の竜  作者: じゃっすん
友との出会い
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シルヴァの事情

 アークバルトとロイの目の前には、スヤスヤと寝息をたてるレオノールとシルヴァが仲良くベッドで眠っていた。レオノールが一緒に寝ると言って聞かなかったためだ。若干アークバルトの目付きが怖い気がするが、まあ許容範囲内だろう。


「ようやく眠ったな」


 ロイは怒涛の1日を振り返る。

 昼寝から覚めた後、レオノールに教わりながら花冠を作って遊んでいたのは可愛らしかった。その花冠はロイとアークバルトにプレゼントされ、今もテーブルの上に置かれている。


 だが、そこからが酷かった。


 今度は一緒に風呂に入る、と言い出したのだ。断固阻止しようとしたアークバルトは、グルグルに巻かれて床へ転がされ、半ば引きずられるように浴室へ連れ去られたシルヴァの悲鳴が聞こえたのは、それから直ぐのこと。

 助けを求めるシルヴァが風呂から飛び出してきて、蔓がそれを追いかける。いつの間にか拘束から抜け出したアークバルトがその前に立ちはだかるが、蔓は器用に避けてシルヴァを狙っていた。

 結局、シルヴァが「絶対に嫌だ!」と叫んだら、潮が引くように蔓も浴室へと戻って行った。シルヴァに何があったか問えば、レオノールに「わたし あらってあげる」と言われて全身洗われそうになったそうだ。


「シルヴァがここまで自分を出すのは初めて見たな」


 いつもは下を向いて、オドオドしている事が多い子だ。久々に子どもらしい姿を見た気がする。


「獣人の中で先祖返りは尊ばれる筈だろ?何があった?」


「ほぅ、貴殿がそれを気にするのか?」


 嫌味ではなく純粋にそう思った。アークバルトはシルヴァに興味がないように見えたからだ。


「チっ!レオノールが気に入ったみてぇだからな」


 成程、この男らしい。

 ロイはこれまでの事を思い起こす。シルヴァが生まれてからの出来事を……







 シルヴァが生まれた時、城内は歓喜に包まれた。

 久方ぶりの先祖返りに妻のシルヴィアも誇らしげに我が子を抱いていた。その溺愛ぶりはすごく、自分の名の一部を息子に継がせてもいいか、と私に頼んできた程だ。

 もちろん私も快く頷いた。命をかけて生んだ妻の頼みを断りたくなかったからだ。


 そこからはシルヴァを育てる者を選出した。先祖返りは力が強く、幼少期に起きる悲惨な事故は有名な話だったからだ。

 私は近衛の中から、特に力の強い女性を3名選んだのだが……妻がこれに反対した。自分が育てるから、と。


 もちろん私は反対した。

 白虎族は獣人族の中で最強と謳われる種族だ。先祖返りではない私でも、幼少期は周囲の人間を何度も傷付けてしまったのだ。その時に感じた罪悪感は今も消えてはいない。


 だが妻は頑なだった。


 終いには妻の実家トライランド王国のワンダルサス公爵家――イーストエンド大陸にある東の大国――まで巻き込んでの騒ぎとなり、私は仕方なく許可を出した。

 それから2年は何事もなく過ぎたが、ついに悲劇が起きた。


 ある日シルヴァが花の匂いを嗅ごうと近付いたところ、中に入っていた蜂が襲ってきたのだ。シルヴァは蜂を追い払おうとパニックになり、泣きながら妻の元へと走った。それを庇ったのが妻の侍女であるリリアンだ。

 結果、リリアンはシルヴァに吹き飛ばされて命を落とした。もし死んだのがリリアンでなければ、妻は違った反応をみせたのかもしれない。

 リリアンは妻の幼馴染で、子供の頃から実の姉妹の様に過ごしてきたからだ。


 妻の反応は劇的だった。


 その日を境にシルヴァを「化け物」と罵るようになり、シルヴァも今まで優しかった母の変化に怯えていた。私は直ぐに2人を引き離したが、できた溝はあまりにも深かった。

 今まではシルヴァを皇太子に、と言っていたのが一転、長男のザギルを皇太子にするべく動き出したのだ。シルヴァの事を公然の場で声高に罵り、ザギルの出来の良さを褒め称えた。

 

 私は何度も妻に止めるように言ったが、事態は悪化するばかりだった。妻の言ったことを、他の子ども達が真に受けたのだ。

 

 私の子は長男のザギルに長女シシリィ、次男ベルガ、シルヴァと続き、当時は生まれていなかったが、その3つ下に双子の姉弟アルマとタラバがいる。

 妻がシルヴァばかりを可愛がるのを、面白く思っていなかったのもあるだろう。シシリィとベルガも一緒になって「化け物」と罵り始め、それは使用人にも伝播していった。幸いアルマとタラバはまだ幼く、シルヴァのことを嫌ってはいないようだが……周りの人間がこれでは時間の問題だろう。


 シルヴァはどんどん孤立していき、今では味方は私だけだ。シルヴァの味方を作ろうにも、尽く妻に邪魔されるのだ。私は公務でなかなか時間が取れず、皇族が暮らす奥宮の管理は妻の管轄だからだ。

 幸いなことと言えば、シルヴァが生まれた時に15歳だったザギルは経緯を正しく把握しており、シルヴァに同情的で妻と距離を取り始めたことか。

 ただ皇太子争いがザギルとシルヴァの間で起きていることもあり、兄弟と言うにはぎこちない間柄だ。





「んで、テメェはどっちを皇太子に据えるんだ?」


「ザギルだ。私は最初からザギルを皇太子に据えようと思っていた。あの子には皇帝としての資質がある。それをシルヴァに、と妻が言いだしたが、私は反対していた」 


「とんだ道化だな。自分で種をまいておいて、今はそれを刈ろうとしてんのか」


 流石は人間、と嘲るように言うアークバルトに返す言葉をロイは持っていなかった。自分でもそう思っているからだ。

 シルヴィアがシルヴァを育てると言い出した時、何故もっと強く止めなかったのか。後悔だけが残る。


「私はシルヴァが可哀想でならない。なまじ愛されていた記憶があるだけにな。あの子は未だに自分を責め続けているのだ」 


「国のためを思うなら王妃を消せ。その女は害悪でしかねぇ」


「簡単に言ってくれるな。あれでも昔は聡明だったのだ」


「それは違うな。人間の本質はそう変わらねぇ。あの女が聡明に見せていた、それだけだ」


 バッサリと切って捨てられ、ロイは項垂れる。相手は100歳以上年上だ。それはそれだけ多くの経験を積んできた、と言うことでもある。


「いいか、その女は思い込みが激しく、自分の意見が全て正しいと思っている。そういう奴はいずれ何かやらかすぞ」


 警告されたその言葉をロイが思い出すのは、もう少し先のことだった。

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