第15話 似た者同士
エリシアはミアを認めて開口一番、「本物?」と尋ねた。
ミアは重い首を持ち上げてこくりと頷く。
そうしたらエリシアはミアが見たこともないほどに顔を歪めて、目からぼろぼろと涙を流した。存在を確かめるようにミアの全身に触れて、現実だと再び理解した時、エリシアはミアの身体を抱きしめる。
背中に回された手に温度を感じて、ミアもまたエリシアの背中に手を伸ばした。
「よかった、生きていて」
ミアはその言葉の重さに、回しかけていた腕の動きを止める。
考えもしなかった。何も言わずに姿を消したせいで、生死にかかわる心配までさせてしまったのだ。己の愚かさに思わず唇をかみしめる。
「ご、ごめんなさい。わたし、わたし……」
エリシアの背中に届かない場所で、手が震える。だめだ、わたしには彼女を抱きしめる権利などない。
ミアが必死に言葉を紡ごうとしていると、エリシアの身体が離れていった。エリシアは眉を下げて、涙で赤くなった目でミアを見下ろしている。けれど口角はミアのために上がっていた。
「話は後にしましょう。まずはお風呂に、ね?」
ミアはその言葉にはっとした。そして控えめに服の袖を鼻に近づけてみる。土と埃と、かすかに汗のにおいが混じっていてあまり清潔には感じない。
「着替えは後で持って行くわ」
ミアは素直に頷いて、浴室へと向かった。
「一つ、いいか」
ミアの背中を見送るエリシアに、メルバは声をかけた。
エリシアは振り向いて、なあにと聞き返す。ミアが帰って来ただけでこんなに心が落ち着くなんて。いろいろ聞きたいことはあるけれど、随分気持ちが軽くなった。
メルバもそれを察したようで、ほっと小さく息を吐く。けれどすぐに表情を強張らせた。
「ミアはダンジョンにいた。イルクパーティーに復讐をしようと画策していたらしい」
エリシアは柔らかい笑みを表情から消して目を瞠る。
「どうして」
「一年前……エリシアがミアを拾って帰って来た時、ミアはモンスターに食い荒らされていただろ」
「そ……そうだったわね」
あの時は本当に恐ろしかった。肉が露出した体はすでに死んでいるかとさえ思ったが、奇跡的にも細く呼吸を繰り返していたのだ。
「あんな風に貶めたのはイルクパーティーの仕業だったらしい」
「じゃ……じゃあ! ミアはこの一年間ずっと復讐を考えて……?」
「詳しくは聞いていない。少なくとも、エリシアに負い目は感じているらしいけどな」
エリシアは顔を真っ青に染め上げる。指先が震えるのを感じた。
ミアは死にかけたあの日がはじめての冒険だと言っていた。本当ならダンジョンから手を引きたくなるような出来事だが、イルクパーティーへの復讐のためにダンジョンに潜り続けていたのだろうか。
エリシアは浴室にいるミアと話したくて、いてもたってもいられなくなる。そわそわと落ち着きを隠さなくなったエリシアに、メルバは最後に一つと口を開いた。
「それから……会ってほしい人がいるんだ」
「私に?」
「エリシアとミアに、だ」
メルバは声を潜めて言う。
「それは……その、『ご主人様』?」
一瞬、逡巡するように視線を泳がせたが、メルバははっきりと頷いた。
「ミアと似たスキルを持ってるその人は、あの忌まわしいスキルを獲得するのに、条件があるのかもしれないと言ってたんだ」
「それは、何?」
もったいぶった言い回しに、エリシアはやきもきした。けれど静かに続きを待つ。
「『一度誰かの手で貶められ、モンスターによって死にかける。それから強い復讐心を持って、生き延びた者だけに与えられる《《祝福》》だ』って」
祝福。エリシアは人々に嫌われながらも、そういった類のスキルを誇らしく言っていた人に思い当たりがあった。
「……ねえ、聞いてもいい?」
「なんだ?」
エリシアは『ご主人様』に値する人間を一人思い浮かべていた。
そう。その人は、今やミアの前身と言われている消息不明の人物。
「オフィーリア・メイサンダー。メルバの『ご主人様』って……イルク・メイサンダーの姉ね?」
メルバはびくりと身を震わせたが、苦虫を潰すような表情で声を絞り出した。
「そうだ」




