無味無臭! だけど水臭い!
「そう言えばゼンジさん。
さっき、トウコちゃんと何を話していたんですかー?」
「ああ、新しいスキルを取ったんだ。
水生成って忍法だ」
俺は指先から水を飛ばして見せる。
と言っても飛距離はほとんどない。
水圧の弱いおもちゃの水鉄砲くらいだ。
「わあ、ゆっくりお水が出せるんですね!」
「うむ……。
ゆっくりしか出ないんだけどな……」
物は言いようだ。
水噴射は激しくしか出ない。
こっちは少量がゆっくり出る。
「これでおフロの水入れ放題っス!」
「お風呂……?」
リンが首をかしげる。
いきなりそう言っても飛躍していて伝わらないよな。
「風呂の水を汲むのが面倒って話でな。
あ、そうだリン。
この水を鑑定してくれるか?」
俺はコップに水を入れて差し出す。
「はい。
……素材で、お水ですね。
毒はなくて、飲めるそうです」
リンは虚空に向かってうなずいた。
不可視状態のシステムさんから【物品鑑定】の結果を聞いたのだ。
そのあと【食品鑑定】もしたようだ。
普通の飲める水という結果だ。
「水道水やミネラルウォーターと同じ扱いだな。
つまり、普通の物質とみなされるのか」
このお水は水噴射と違って、ずっと残るのかな?」
トウコが言う。
「生成なんだから、そうじゃないっスか?」
スキルの説明は相変わらず簡素なものだ。
生成する、としか示されていない。
「ゼンジさん。
これ、飲んでみてもいいですか?」
「大丈夫だと思うけど、まだ自分で試していないんだよな」
「では、私がはじめてですね!
いただきまーす!」
リンは嬉しそうにコップを傾ける。
こくこくと喉を鳴らして一気に飲み干す。
ふう、と息をつき、顔を紅潮させて言う。
「雑味がなくておいしいですっ!
なんだかスッキリします!」
お、妙に好感触!
そんなにうまいなら俺も飲んでみようかな。
ん?
トウコがコップを差し出してくる。
「店長水、あたしも欲しいっス!」
なんだその微妙なネーミング。
俺の体液ってわけじゃないぞ。
トウコがはよはよと、コップを振って催促してくる。
「がっつくなって。
ほらよ!」
俺は指から出した水を【操水】でコップへ飛ばす。
指水鉄砲の術!
見事にコップに水が入る。
さらにこぼれたり跳ねたりしないよう水を操作!
「おおーっ!
ウォーターサーバーっス!」
トウコがコップの水をがぶがぶと一気飲みする。
「うーん……」
微妙な顔を浮かべ、コップを差し出して笑う。
「ぬるーいっ!
もう一杯っス!」
「温度にうるさいね!?
常温なんだよ!」
「冷たいお水は出ませんか?」
「無理みたいだ。
お湯も作れない」
冷水や熱湯は出せない。
常温の水が出るだけだ。
念じても効果は表れなかった。
水生成君は、忍具作成君のようにホイホイやってくれるタイプじゃないようだ。
水臭い奴め!
コップに注いで飲んでみる。
ふむ……。
ぬるいというか、刺激を感じない温度だ。
胃に優しいかもな。
「ゼンジさん、お味はどうですか?」
「味は……まあ、うまいんじゃないかな?
水道水特有のカルキ臭は感じないし、匂いは悪くないな」
無味無臭で飲みやすい。
リンが慌てた様子で容器を探している。
ヤカンを手に取って差し出してくる。
「あの、お料理に使いたいので、いただいてもいいですか?」
「いいけど……。
味はともかく保存性はどうなんだろうな?
殺菌成分が入っていないから、雑菌が繁殖するかもしれないぞ」
湯冷ましした水や浄水した水は長期保存には向かない。
常温で放置したら、すぐ雑菌が繁殖してしまう。
リンが首を傾け、考え込むような仕草をする。
「うーん。
それなら【食品収納】に入れておけば大丈夫ですね!」
「貴重な収納を水で埋めるのもな……。
まあ、実験のために水を汲み置きしておこう」
「ありがとうございまーす!
もし痛んでしまったら【食材無毒化】をかけて飲みますね!」
なにやら頼りになる顔で言うリン。
しかし、そこまでせんでも!
「いや、捨ててくれてもいいんだぞ」
ただの水だし、いくらでも出せる。
まあ、湯舟を満杯にするのは魔力的に厳しいけども。
飲食に使うくらいの水量はすぐに出せる。
そんなに大事にしなくてもいいだろう。
リンがぶんぶんと首を振る。
「いえいえ!
せっかくゼンジさんが作ってくれたお水を捨てるなんて、できません!」
「ああ、そう……。
まあ、好きに使ってくれ!」
勢いがちょっと怖いけど、ずいぶん気に入ってくれたようだ。
今後、ダンジョン内で飲み水に困ることはない!
それだけでも心強い忍法だと言えるな!




