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冤罪で手首を落とされた令嬢。親友からの誕生日プレゼントは盗品でした。逆行してやり返します  作者: あそん


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帽子屋やベルナール家にも使いを出したが、もちろん第二ボタンは出てこなかった。

母はひどく落ち込んでいたが、父は「制服のボタンはまだあるよ」と慰め、母に「あれじゃないとダメなんです!」と怒られていた。



何度も家具の下をのぞき込んだり、その日出した箱の中身を出し入れする母からは、悲しみとともに「絶対に見つける」という強い執念が感じられた。

しかしやがて、第二ボタンは屋敷内にはない、と母も悟ったようだった。母は何も言わないけれど、応接間にいた人、すべてを疑ってしまったのだろう。使用人に対してもどこか動きを観察するような様子があったり、ベルナール家とも以前のように交流したがらなくなった。



ユウナからは「遊びに行こう」とか「会いたい」という連絡が来るけれど、私もとても会う気にはなれない。



社交界では「アークライト家とベルナール家の女性たちは、ちょっとした行き違いから仲違いしているらしい」と噂が流れているけれど、まだ表に出ていないだけで、ユウナの盗癖は本当だ。私は誰かから何か聞かれても、曖昧に笑うだけで、その噂を否定する気にはなれなかった。



今回のことで、ひとつ気が付いたことがある。

ユウナが盗っていくのは、「誰かが大切な人に贈った物語」のあるものなんじゃないだろうか。



残念だけど、それが分かったところで、ユウナを止められるわけではない。



試しに語学試験を受ける友人へ「試験に合格しますように」とメッセージを添えて、五角形のペンを贈ってみたけれど、それも盗られず、友人が大切に使ってくれているようだった。





何もできないでいるうちに、前回の冤罪の原因となった「マーガレット王女のネックレスを私が盗んだ」とされるお茶会への誘いが、王宮から届いた。

できれば行きたくない。だけど、お断りできる理由もない。



それは、三月のまだ寒さが残るなかで開催される、春を祝うガーデンパーティーだった。

女の子の健やかな成長を祝うもので、未婚の娘とその母親が招かれる。



前回は「寒い」と言って、早々に室内に入ってしまった。それが、疑われる原因になった。



――とにかく、なるべく庭にいること。それと、一人にならないこと。


一緒に参加する母から、できるだけ離れないようにしよう。



ふさぎこみがちだった母も、招待状を受け取ってようやく、しゃんとしたようだ。

二人でどんな服装で行くか相談していても、あの日作ったヘッドドレスを避ける母の姿が目に入り、胸が痛む。



私が罠なんて仕掛けたせいで、母の宝物が盗まれてしまった。



――犯人は分かっています。絶対、取り戻しますからね。


私は母の背中にそう誓った。



ガーデンパーティーの当日は、春のお祝いにふさわしい、ぽかぽかとした陽気だった。


王宮の庭に足を踏みいれると、三月だというのに青々とした芝生の上に人があふれ、そこかしこで笑い声が上がっていた。

暖かな日差しの下、赤や黄色のチューリップがすくすくと伸び、まだ肌寒い風に揺れる。


前回と、何ひとつ変わらない光景。

違うのは、衣装を変えた私くらいだろうか。お揃いではない、ヘッドドレスと前回より厚いコート。

日向にいると温かいが、少し日陰に入ってしまうと、足元から這い上がってくる、いつまでも溶けない氷のような寒さに襲われるのは前回経験済みだ。

庭にいる為に防寒対策は万全にした。


案内されたテーブルには、前回同様ベルナール夫人とユウナがいた。

小春日和の柔らかな陽光の下、ユウナがつけている真っ赤なシルクで作られた大輪のバラのようなヘッドドレスは、その発色の良さと仕立ての良さで、ひときわ目立っていた。


ベルナール家の二人を見て、私たちは思わず身を固くしたが、すぐにいつも通り、親しみを込めて挨拶を交わした。

以前と変わらないやりとりにほっとする。

テーブルにいる全員で当たり障りのない会話をしていると、やがて案内役の侍従が声を張った。



「これより、マーガレット王女殿下がお見えになります!」



波打つように、そこにいる全員が腰を低くし、首を垂れる。やがて衣擦れの音とともに、高貴な一団が中央へ移動した気配があった。



「皆さま、楽になさって。本日はお忙しいなかお集まりいただき、ありがとうございます。

長い冬もようやく終わりを告げ、こうして皆さまと春を迎えられたこと、心からうれしく思いますわ」


顔を上げると、会場の中央からマーガレット王女がよく通る明るい声で挨拶をした。

見る者を幸せにするロイヤルスマイルを浮かべ、春の光のような黄色のドレスを着た王女の姿は、芝生の緑によく映えていた。

そして、その胸元には、引き込まれそうな小さなピンクの石がついた、あのネックレスがきらりと光っていた。



王女は挨拶を終えると、ゆっくりとテーブルの間を回りはじめた。

上位貴族の席から順に声をかけ、短く言葉を交わしていく。



「殿下、お健やかなご様子で何よりですわ」「あなたのご活躍ぶりは王宮にも届いてますよ」


そんなやりとりが、少しずつこちらに近づいてくる。


私はコートの前をそっと握りしめる。

視線を落としたままでも、黄色の裾が風に揺れる気配と、ネックレスがふいに光を弾く気配が、すぐそこまで来ているのが分かった。



「次は、こちらの皆さまね」



王女の柔らかな声がして、私たちのテーブルに向かう一団の、芝生を踏む足音が近づいてきた。



「ごきげんよう」



「「お招きにあずかり、光栄です」」



全員がカーテシーで挨拶をすると、王女はひとりひとりと短い会話を交わしていく。



二歳くらいの赤ちゃんを抱っこした若い侯爵夫人の前に、王女が歩み寄った。

指しゃぶりをしていた赤ちゃんは、口から指を離すと、目の前まで近づいてきた王女のネックレスを、物珍しそうに、ちょんと指でつついた。



「!! 申し訳ございません!」



「いいのよ、気にしないで。これが気になったのかしら?」

王女はそう言って、くすりと笑い、赤ちゃんの頭をそっと撫でた。

「これはね、私が幼い時に食べていたキャンディを落としてしまって泣いていたら、メアリーがこっそりくれたのよ。『この石、キャンディみたいでしょう?これなら首にかけられるので落としません』って言って」

王女の声には、そのときの光景をいとおしむような柔らかさがにじんでいた。


王女が着けるにしては、小さくてシンプルなネックレスにまつわる、王女とメアリー公爵令嬢の知られざるエピソードに、私たちのテーブルは和やかな空気に包まれた。


ーー前回この話は聞いたっけ?


思い出せないでいるうちに、ユウナはヘッドドレスを褒められ、嬉しそうに私と腕を組み「リディアと一緒に作ったんです」と答えた。


ーーこれは覚えている


前回はお揃いだったから、余計に目立っていたし、私たちは積極的に自慢していたから、王女の目に留まった事は嬉しくて仕方がなかった。

今回もユウナは前回同様嬉しそうだ。

その様子を見た王女から私には、「仲の良い友人がいるのは良いことよ」いう言葉が送られた。


ーーそうだ。私は前回この言葉になんて答えた?


たしか「ユウナといると、いい事があるんです」だったっけ?それとも「自慢の親友です」だっけ?


考え出すと言葉がでない。

タイミングを逃し、今回は何も言えないまま、王女との挨拶は隣の人へ移っていった。

私の腕に触れる、ユウナの指先からは少し不満げな気配が伝わってくる。


王女が私たちのテーブルを去るとき、後ろに控えていた侍女が小さく何かお伺いを立てたように見えた。それに、王女は振り返らずに、目だけで「お願い」と答えたようだった。

ユウナにも聞こえたのだろうか?耳がぴくりと動いたような気がした。


王女は各テーブルを回り終えると「軽食を用意しました。室内にも席があります。どうぞ楽しんでいってください。」と言い残して退出して行く。


軽食を取りに向かう少女達と、おしゃべりを始める夫人達で、人がぱらぱらと動き出す。

王女が退出して行った方向を見ながら、ユウナが私の腕を軽く引っ張り、ねだるように言った。

「寒くなっちゃったね。室内に行かない?」

母達も口々に「そうしたら」と勧める。


――メアリー公爵令嬢から王女に贈られた思い出の品。あのネックレスは、ユウナが盗る条件がそろっている。


ユウナは、やっぱりこのガーデンパーティでネックレスを盗ったんだろう。でも、いつ?どうやって?

侍女は王女に、何を提案したの?


今、ユウナと一緒に室内に行くべき?

そうしたら、盗むところを止められる?


でも、前回一緒に室内に行ったから、私は疑われることになった。

やっぱり、庭にいた方がいいの?


と、そこへ考えを打ち切るように、後ろから声がかかった。振り向くと、ペンを贈った友人だった。


「リディア。ペンありがとう。あのペンを使って単語を書いていると、ちょっとだけ頑張れる気がするんだ」



友人と向かい合って話す私から、ユウナの腕がするりと抜けた。

背中でユウナが離れていく気配を感じる。

友人との話が終わってすぐに振り返ったけれど、ユウナの姿は人混みに紛れて見つけられなかった。


友人の語学試験の話を聞く、そんなほんの少しの間に、ユウナはどこかへ行ってしまっていた。



――やっぱりユウナはネックレスを狙っているんだ。見つけに行った方がいい。


そう決断して、ユウナを追って、室内に向かおうとした時だった。



「なんで、あなたがこれをつけているの?」


王宮のガーデンパーティーには不釣り合いな、強く問い詰める母の声があたりに響いた。

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