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「魔道具貸して」
館から少し離れた所でリオが止まって俺に言う。
測量用の魔道具を渡す。
「話は?」
「君より詳しいと思うけど」
あー、はいはい。
黙ってたら可愛い少年なんだけどな。
俺にはこんな感じで厳しい。
「手早く済ませて戻るのも問題あるだろうし、のんびりやるか」
「殿下怖いしね」
リオが同意する。
周知しろとかいうのが、あんまり早く帰ってくんなよ。
って感じだったし。
「機嫌良い方だからそんなに怖くないだろう」
「こっから悪くならないと思う?」
……
「館残ってるかな?」
リオは俺の質問に答えない。
「無視するの止めて!怖いじゃん!」
「流石に考えなしにぶっ放したりしないでしょ。面倒くさいなー」
本当に?
無言になる俺達。
くだらない話をしていたら、ついに、農地にたどり着いてしまった。
俺達はそこらで作業している人に事情を説明。測量を開始する。
新しい領主については一応聞かれたが、何と言うか、手応えがない。
話すことがわからないから聞いてみた、という感じで予想通り無関心だ。
だから、こちらも適当に返しておく。そこらが爆発してから慌てるが良いわ!
館の方を見る。爆発とかしたら一気に注目度上がるんだろうな。
されたら困るのでするな!と念を送り続けているが。
測量も揉めることはなかったし、当たり障りがなく治められていたんだろうな、と思う。
多分横領とかも大した事無さそう。端金で終わるとか可哀想過ぎる。
なんか見た感じ農地が微妙なんだよなあ。季節的に作物はないけど、何か実家の領地の農村と雰囲気違う。
それから領民が少し心配になる。俺達が領主の使いじゃなくて、悪い奴だったらどうするんだ。
リフィ様が来たんだ。問題は絶対起こる。
君たち呑気に同じ日常を繰り返していられると思うなよ。
リオが測量を終えて戻ってきた。
「農地をって話だったけど、柵の中全部測量しておこう。絶対あの柵……防壁?作り直す事になる。暇な今日やっておくべきだよ」
リオが提案してきた。
柵を見る。
「そうだな、絶対問題起こす人がいるんだ。暇なうちに済ませた方が良い」
農地から離れて近くに人は居ない。
「彼らの前で言い難かったから黙ってたけどさ、家もさ、絶対作り直す。殿下ならそうする。あの人、絶対、全部更地にして整備する」
やる、リフィ様なら絶対にやる。
面倒でも効率がそれ以上によくなるなら、絶対にやる。
あの人は趣味で忙しいのだ。
「そうだな」
全面的にリオに同意する。
「農地の井戸の位置だけどさ、微妙に使いにくい場所にあるんだよね」
俺が居たところから井戸は見えなかったが、人が集まってるところがあった。そこだろう。
記録に付けた位置を思い出す。
「リオ君、私は嫌な予感しかしないんだけど?これ以上怖いこと言うの止めてくれないか?」
領主が井戸を破壊して反乱なんて起こるわけ……起こるわけ……
井戸については見なかったことにする。
リオを見る。頷き合う。よし。
「なあ、なんでこう広い囲いなんだ?さく……じゃなくて防壁」
柵もとい防壁の前まで来て無駄に広い囲いだなーとリオに聞く。
「昔の名残だよ。この辺りを少数部族が乱立して統治していた時代に領土を限界まで囲っていたんだよ」
そんな事も知らないのか?と説明してくれた。
知らん……習ってないし。
「囲ってない部分は領土じゃない!って他の部族に奪われるっていう、なんとも効率悪い小競り合いをしていたらしいよ」
確かに効率悪いなそれ。
というかなんだその間抜けな小競り合いは。
「ここの柵は近所にあった集落と違って、丹精込めて作られてた。柵で囲う範囲を減らすより、補修しながらの方が良いって感じで代々残ってきたんだよ。当代ギギイーラの文明の興り。その生き証人だね。柵だけど」
思ったより歴史的価値のある建築物だった。
「ま、この辺りの少数部族が滅んだ原因だしね柵」
「えっ?」
柵作る競争のお陰で武力衝突はなかったが、どんどん疲弊して終わったらしい。
ここの柵、丹精込めて作られてるので、他よりは長生きしたらしいが。
そんな小競り合いをして睨み合っている間に少し離れた所に国が興って、あっという間に併呑されたという。
幾ら柵が丈夫でも国力が違いすぎるから、人海戦術でやられたんだろうな。
ちなみにその国は我が国ではない。栄枯盛衰の歴史というやつかな。
小さい柵に変えるまとまった金額と建材がないという。
補修費用の方が安いらしい。何でだろう?
全部一気に補修はしないとはいえ小さい柵の方が費用も安いと思うんだが。
それに広大な空き地の手入れも大変だと思うんだけど。
雑草が程よく手入れされているのである。芝生が生えているので除草剤じゃない。
手に持った記録用魔道具を見る。
ついに測量が終わってしまった。まあ広くても強化魔術使って結構走り回ったからね。
魔力余らせるの勿体ないし。鍛錬だよ鍛錬。
大丈夫だと思うけど、遅い。と、言われるのは怖いので早く終わらせたとも言うかもしれない。
「なあ、帰っても大丈夫。だと、思うか?」
リオに振る。
「まだちょっと、早いんじゃないかなぁ……」
だからと言って帰らないのもなぁ……
館の方を見る。未だ健在だ。静寂を保っている。
いや、本当に吹っ飛ばすと思ってないけどさ。
「とにかく帰ろう。怠けている、と思われても事だろう」
「それしかないよね」
俺達は渋々帰路につく。
足取りはとても重い。距離はあるが強化無しで普通に歩く。
リオが言うにはまだ館から馬車が外へと向かった気配はしないらしい。
こういう探知はリオ得意だからね。
彼奴等が出て行くまで時間潰した方が良さそうな雰囲気はしているのだ。
時間どれくらい潰せばいいか聞いておけよ?
怖いじゃん……後で怒られそう。気が重い。
こんな何も無い所で、足止めされるような事件が起こるわけもなく。
「着いてしまった」
館の外からは中を伺い知れない。
仕方がない、覚悟して敷地に足を踏み入れる。
まだ館の中はわからない。
「どうする?普通に正面から入る?一旦窓から中見る?」
そう尋ねてきたリオ君は、爪の付いた縄を持ってブンブン振り回している。
普通、そんなに回したら風を切る音すると思うんだけど、無音なのが怖いんだけど。
なにそれ、どこから出した?
収納魔道具持ってるからそこから?
何でそんなの持ってるの君?
「リオ、何を」
「僕は二階に回ろうかなって。君は正面から堂々と行けば良いんじゃない?格好良いよ」
こいつ、こいつ!
囮にするつもりだ!!
「一緒に行く」
「いや、これ一人用だし、素人には危ないし」
俺達は向かい合う。
爪の付いた縄がブンブン。
迂闊に近づくとあれにやられる。
リオも縄を回す手を止めない。
そりゃ引っ掛けるために投げたら飛びつく。俺が。
……何この膠着状態。
馬鹿やってないでと自分でも思う。
そんな事をやってたら正面の扉が開いた。
あっ……
逃げるように出てきた貴族の皆様に道をお譲りして、俺達は脇に逃げる。
皆様お元気でー
「何をしている」
背筋を伸ばし、さっと頭を下げる。
「遅くなりました、ただ今帰還しました」
「報告を聞くから早く入れ」
はっ!と返事をしてリフィ様の後に続く俺達。
執務室っぽい所に移動して、リフィ様に記録を渡して、柵の中全部測量してきたことを伝える。
「ご苦労。農地以外も後で頼もうと思っていたがやってくれたか。助かる」
お咎めなし。
多分、リフィ様の予定通りだな。
一先ず安堵する。
そういや、俺達の乗ってきた馬車が一台しかなかったので聞いておく。
維持できんから御者と共に返したとリフィ様。ランナ様達の乗ってきた奴は?
どうも侯爵家へ帰ったらしい。ランナ様は絶対ここから出るな、という侯爵辺りの意思を感じる。
残った馬車は誰が御者すんの?あ、俺かリオですね。はい。
深刻な人材不足!こいつ、学生生活で人材確保せず一体何をしていたんだ。
……魔術研究とかで忙しそうだったもんな。
「クローはこれ。部屋で確認しておくように。部屋は……」
自分に割り当てられた部屋やら、生活の確認事項を教わりつつ、記録魔道具を受け取る。
それと部屋の鍵を身分証に登録してもらう。
登録作業を魔道具なしでやるとか何なんだこの人。
本当魔術絡みは器用だな。
「夕食はいつもの時間。それまでは確認を終えたら自由にして良い」
そういうとリフィ様は、はよ行け。と言いたそうな顔で手を振る。
リオ君は居残りらしい。
慌てて退出する。




