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霞月 一八の日。
初日は地獄のような時間だった。
領地への移動の大半、リフィでん……様の機嫌は比較的良く、穏やかな道中だった。
リフィ様と同じ馬車に誰が乗るか。
若干揉めたが、残念ながら指名されたので、俺がずっと同じ馬車だ。
機嫌が良ければ、一緒に居るのは苦痛ではない。
むしろお供させてほしいくらいなので、指名は素直に嬉しい。機嫌が良ければだ。
指名理由を聞きたいが、無茶苦茶な理由だった時が怖い。なので聞いてない。
リフィ様の機嫌がいい理由は、絡んできた賊や魔物の犠牲のお陰だ。
容赦なく魔術を叩き込みまくっていた。
賊は命までは取らなかったけど、身動き取れない状態で放置とか今頃はまあ生きてないよね。
とどめを刺さなかっただけだ。
運が良ければ生き残ってるかも知れない。
が、冒険者でも傭兵でもなく賊なんかやってる程度の荒くれ者じゃな……
そもそもこんな怪しい集団襲うの拙いって。
俺が賊なら街から離れた場所で遭遇した魔物避けの魔道具がないのに、外に護衛が居ない馬車とか不気味で絶対に手を出さないけどな。
だって護衛居ないのに魔物に襲われない理由が、魔物避けの魔道具以外にあるんだろ?
馬車に乗ってる奴が周辺に出る魔物以上にヤバいに決まってんじゃん。実際ヤバいんだけど。
ランナ様、アロー侯爵令嬢ではなくそう呼ぶように言われた。
あの礼は止めてほしいとリフィ様がやんわり伝えていた。
ランナ様は本当にお作法に厳しいんですなあ。
戦闘は俺とリオは様付けだ)のお供(騎士の方)が出番がない事を嘆く。
……程度ならよかったなぁ……
ドン引きだよ。ドン引き。
リフィ様、くひっひとか変な笑い声出しながら敵をいたぶるの、止めてもらえないかな。
いつもはそんな事無いので、わざとやって反応見てるんだろうけど。
誰の?よくわからない同行者の反応ですよ。
考えないようにしていたが、使った魔術触媒の総額を考えると怖い。
リフィ様は、小遣い元手に内職で稼いでいるから心配ない。と言うが本当かなぁ?
魔術の事で、リフィ様は信じない事にしてるんだ。
時計を見る。予定通りならもう一、二時間だと思う。
狭い国土とは言え、ランナ様が同行している。
その為、安全重視で進んだため、思ったより時間がかかった。
転移を存分に使えれば五日もかからなかったんだが。
転移使う予算がないからね。
リフィ様はご機嫌で先程まで文字通り、火を噴いていた短杖を手入れしている。
表情はあまり変わらないが、非常に楽しそうで微笑ましい。
リフィ様の魔術で魔物が消し炭になったのを、思い出しさえしなければ。
マジで怖かったんですけど。
もちろん魔物……ではなくリフィ様が怖かった、だよ。
「でん……リフィ様、もう一、二時間という所ですかね?」
一応リフィ様にも振ってみる。機嫌が良さそうだから、反応してもらえるだろう。
「ん、そんな所か?」
殿下が座標を取得する魔術を使う。
移動しながら、詠唱雑、という酷い条件でよく成功するな……
座標ズレまくってるのに座標取得とか、考えただけでもしんどい。
「確かにこの速さならそのくらいか。クロー暇なのか?」
ちょっと申し訳無さそうにするリフィ様。
ふふん、この程度ならほぼ無表情でもわかるのだよ。
「転移が使えればな……まあ、おいおいだな」
流石に重要でもない土地に転移門の設置。なんていう国家計画の予算降りんだろ……
安全に「怪しくない」転移をするのは魔力も金もかかるのだ。
転移魔術は発動しようものなら即お尋ね者だ。
それも発動した国だけじゃない。全世界で。
精神干渉系と同様に、古来より対策を研究されつくされている魔術だからな。
とリフィ様が昔教えてくれた。
はるか昔に存在していた国々で使われていた、転移対策の魔術がそこかしらに大量にあるらしい。
もちろん今現在進行系で、各地で改良され増えていっているし。
この世界の防衛の基本だ。
後は魔力溜まりやら様々な原因の魔力の力場が、自然に存在している。
その力場に阻まれて転移が失敗することも多いらしい。
壁の中にいる!とかそういう事態も怖いが、それ以前の話だろう。
自由に転移するつもりなら、それらを全部無効化してやる必要がある。
現実的じゃあない。
転移門はようは転移してもいい場所だ。
転移の魔術を使う為の魔道具やら、設備はあるがまぁ関所だな。
徹底的に管理され、下手な関所より出入りが厳しいが。
予算は降りない。リフィ様が僻地を、大都市に発展させられるとは思えないし。
また、この魔術馬鹿はふふふ、と生暖かい目でリフィ様を見たら、物凄い問題発言を聞いた。
「……自作するに決まってるだろう?」
おいいいいいいいいいいいいいいい。
予算がないんだよ!予算が!
「何のために田舎に行くと思っているんだ」
リフィ様は不思議そうに俺を見る。
こいつ、こいつ!
横領する気か?田舎の税収を横領した程度で足りんだろ!
なんだ?ついに違法な金策にでも手を出すのか!?
俺は即通報するぞ。悪の魔術士は滅びろ。
アルに相談して……ダメだ、あいつなら、マジでヤバイ資金を、調達してくる。
あいつはリフィ様の為なら、何でもやる。ヤバい奴だ。有能だからこそヤバイ。
「リ、リフィ様、その、アルにその話は」
「言うわけ無いだろう。私の楽しみを毎度、毎度、邪魔するからな」
少しむすっとするリフィ様。
……そうなんだ、そうなんだ……そういう評価なんだ……
そういや何かアルには厳しいよな。
アルが少し可哀想になった。
あいつが一番、リフィ様のために、色々やってると思うんですけどね。俺は。
「リオは……そういうのじゃないし、クローが丁度いいからな。こういう話をするのは」
思った以上の評価は嬉しいのですが、巻き込むの止めてもらえませんか。
「それで、転移門作るとして、お金どうするんですか」
違法な資金を生み出そうとしているなら、ここで止めなくてはならない。
「ん?」
何わからないって顔してんだよ。おぉん?世間知らずの王子様はよぉ。
「いや、転移門なんて金かかるでしょう?」
「あー……そこからか。確かにアルに知られるとマズいな」
うーん?と悩み始めたリフィ様に、速く詳細を話せと詰めたい。
が、邪魔すると怖いので、興味なさげに黙っておく。
わざわざこの時間を死地にする必要はないので黙る。
機嫌が良ければ、幾ら鑑賞しても飽きない、芸術作品になるくらいの美形なのだ。
まぁ第一王子の方が美形だと思うけどね。奴の評価したくないが。
上はそれなりにいる。
それでもリフィ様は、天使と称したくなるくらいに美形なのだ。
「何も無い田舎で暇だろう?」
「そうですね」
「だから、暇つぶしに転移門を作る」
わかったか?というが全然わかんねぇ。
というかさっきからその話じゃねーか。
「むぅ、趣味と実益を兼ねた計画なのだが?」
だから資金源を吐けって話をしているんだが?
「材料タダじゃないでしょ?」
話が進まないので仕方なく突っ込む。
「……ここまできたらいいか。実は良いものを買ったのだ」
だめなやつだこれ。
資金源じゃなくて、無駄遣いした話になった。
俺は外の太陽に祈った。
「これだ!」
やや興奮気味(つまり大興奮)にリフィ様は懐から重そうな球体を取り出す。
リフィ様の収納魔道具は腕輪なので、懐に手をいれる必要ないと思うのだが?
まさかこいつ、収納魔道具をもう一つ買ったのか……?
「で?」
主に対してぞんざいな態度になっているが、気にする奴はここには居ない。
「魔法生物はわかるか?」
流石にそれくらいは。
生物といっているが厳密には違う。
魔力で動く物体だ。
自然に発生する事もある。
が、基本は目の前にいるような、イカれた魔術士が楽しようと、物体を操作しているだけだ。
まぁ、便利なので、自動で掃除してくれる、例えばほうきとかを置いている家も多い。
要は自動で動く魔道具だ。生物なんて言っているが生物ではない。
明らかに生物と区分されている、合成魔獣や、試験管で作る人造人間とかを含んで、魔法生命体と言う場合もある。
自然に発生するから生物では?と古の発見者が魔法生物と名付けたそうだが。関係ないので割愛。
延々と魔法生物について話すリフィ様。
嫌な予感しかしない。
「複雑な命令を遂行させるには、その量の術式を入れられるそれなりの核が必要だ」
知ってる。どこぞの王子様に我が家のほうき作ってもらった時に、散々説明して頂いたので知ってる。
壊れる度に毎回だ、毎回。
だからそれ以上話すな。
「これでゴーレムを作って材料調達から、建設までやらせるから大丈夫」
したり顔を向けるリフィ様。
「で?それ幾らしたんですか?」
そんな大きさの核一体幾らするんだよおおおおおお。
大きさだけで値段決まるもんじゃないけどさ。
小国の国家予算くらいしそうだぞ、それ!
「内職で稼いだ金だ問題ない」
こいつ、こいつ!借金とかないよな?
あったらアルが必死に赤字潰してそうだな。
あったらバレ……いや、こんな大金動かしてる時点で、バレているのでは?
というか、こいつの内職ってなんなんだよ!!
俺は、お幾らでご購入されたのかを聞いてんだよおおおおお。
「まあ見ておけ、これに掛かった費用なんてすぐに回収できる」
ふんすと気合を入れているリフィ様を幻視する。
博打で身を滅ぼす、ダメなヤツの発言だろ……
「お前なあ、随分金を心配しているようだが」
そのお金の使い方見たらするよねぇ!?
いつもの悪い無表情をして威圧する。ひぇ……
「金策が出来ない魔術士なんぞ、研究資金調達が出来ず、野たれ死ぬだけだぞ」
そういうと馬車が止まった。どうやら着いたらしい。
じゃ、皆には内緒で!と颯爽と降りていった。ウキウキで。
今日もリフィ様は楽しそうです。
俺も慌てて降りて伴をする。




