36:私のために争って!
次の日もカトレアちゃんたちは来てくれたみたいだけど、私は店に出ない。
というより、今の状況は出たくても出られない。
「師匠、いつまでこれに魔力を注げば……」
「アンタの魔力が空になるまでだよ」
さあ今日も仕事! とはりきっていた私に待っていたのは、長机の上にびっしりと並べられたガラス瓶の数々。
見なかったフリをして食堂へ向かおうとしたけど、後ろから頭をガシと掴まれたので、逃げるのを諦める。
「今日は忙しいはずですよ?
いいんですか? 貴重な労働力をこんなことに使って」
「アンタはいつも話し相手にしかなってないさ。
いつもどおりなら問題ないさね」
それ遠回しに要らないって言ってますよね?
ただ、このガラス瓶に魔力を込めるのも立派な仕事だ。
いつもなら師匠がちょちょいのチョイでやるのに、昨日のことを気遣ってくれているのかしら?
「結局あれ、何だったんですか? 半人半魔に魔力を吸い取られるなんて知らないですよ」
ゲームではヒロインが彼を暴れないよう、魔力を提供して制御していたらしいけど。
あの様子だと、すでに飼いならされていそうよね。
でも実際に吸い取られてしまったことを考えると……空腹?
それとも彼女がまだルファスと付き合っていない?
「アタシにわかるわけないさね。
アイツが半魔っていうなら、アンタの魔力が美味しそうだったんだろ。
ここは食堂だから、何も間違っちゃいないさ」
「にゃー」
クーちゃんも同意するけど、その目は「よかったな先輩、食材で必要とされて」と物語っている。
料理がちょっとできるだけで、この上から目線よ。
「今日は一日中ここにいな。わかったね?」
「……はーい」
師匠が言うには、あのルファス。
彼は私からあふれ出る魔力を食べたらしいけど、それは私がまだ魔力制御を行えていないことを意味する。
師匠や東の魔女なら、必要なときだけ調整して出せるらしいしね。
おそらくルファスも吸い取る気はなかったんじゃ? というのが師匠の見解だ。
私も早く一人前になりたいので素直に従うことにする。
魔力を空にして、回復して空にしてを繰り返せば、自然とちょうどよい調整ができるようになるんだとか。
というか、本来はこっちの作業がメインですよね?
いつまで経っても半人前になれないのは、無駄に仕事をしているせいなのでは……?
ただ魔力を注いでいるだけだとヒマなので、頭の中で師匠に対する呪詛や、クーちゃんを着せ替えして時間を潰す。
今日は一日中ここだし、今頃はヴィル様たちも学園行きの馬車に乗っているんだろうな。
そんなことを考えていたら、一匹の黒猫が工房のほうへと戻ってきた。
「クーちゃん? どうしましたかー」
手は離せないので、ニコニコーとしてこっちへ呼ぶも、毛を逆立てて警戒される。
……その反応、どういう意味?
「にゃー、にゃにゃ」
「うん。わかりませんね……あ、いたっ!」
私に猫語がわかるわけない。
意味不明、といった感じで手をあげたら、すかさず腕を引っかかれた。
猫パンチならともかく、爪を出してまで引っ掻いてくるなんて!
「飛びかかってこられてもわかりませんよ。
この傷どうするんですか? 責任はとってくれるのですか?」
「にゃ……にゃにゃ!」
いやわからないですって。
そのままクーちゃんは食堂へ歩いていき、少しして立ち止まるとこっちを見る。
何、ついてこいってこと?
「でも師匠に頼まれた仕事が……」
「にゃにゃ! にゃ!」
そんなのいい、こっちへ来い。
猫語がわからない私でも、なんとなくニュアンスは届いた。
なら最初から師匠が来てくれたら良いのに……と思いつつ食堂へ向かう。
――そこは、冷戦状態であった。
「……へ?」
昼間というのに、今日は夜の時間並みにお客が多い。
でもオーダーは少ないので、売上は伸びないだろう。
ならどうして多いかというと……彼らの中心にあるテーブルが違いない。
テーブルには、知り合いの男性が三人。
お互い睨み合っているヴィル様とルファス。
そして頭を抱えているレオン先生。
ついでに後ろにはレリーナがそっと立っている。
……昨日いた女性陣はどこへ?
というか、そろそろ帰宅しないと不味い時間では?
師匠には「なんとかしてこい」と目で訴えられているし、お客さんも「どうにかしてくれ……」というような目で見てくる。
私にあの場所へ乱入しろと?
「だいたい、あれは不可抗力だと言っているだろ」
「関係ない。そもそも女性に失礼だよ。
あれでフレアさんが傷ついてしまったら、僕はせっかくの心の拠り所を……君にはセリアさんがいるのに、なんてことを」
「いや、だからアレはただいるだけだ。
まだ俺たちはそういう関係じゃ――」
「へえ。生徒会室はいちゃつく空間じゃないんだよ?
手を握り合ってたり、無言でじっと見つめ合ってたのは何でかな?
僕の権限で二人だけを隔離してもいいんだよ? そのほうがありがたいんじゃない?」
なぜかお兄様がキレていらっしゃる。
フラれたけど、お兄様に嫌われていないことはわかっていたけど。
……まさか、私のために怒ってくれているの?
なにそれ。すごく嬉しい!
ちょっとほのぼのしすぎなので軌道修正。
これ、食堂の娘がバタフライ行動を起こすはずなんですよ。
今の所、ヒロインにしか影響がないので、プロット修正をちょくちょく。




