加減がわからないよ
兄さんを優しいと言ったけど、前言撤回してもいいよね。兄さんは悪魔だよ。あんまりだよ。
「これはいいサンドバッグではないか!」
簡潔に言うとね、兄さんがドラグ君に暴行を働いてるんだよ。一切の手加減なく、殴る蹴るのオンパレード。
『やめろ右手。痛くも痒くもないけどやめろ』
「さすがはドラゴンだ。ストレス解消にうってつけというわけだ」
「やめるのだ。わたっしのことを思っての行動なのだろうが、もういい」
「なんのことだね。私は私のストレスの捌け口を見つけることができて嬉しいだけだ。君のことはラーニャが晴らしただろう」
兄さんが笑ってる。悪魔の笑みを浮かべてドラグ君をサンドバッグにしてる。なんてひどいことを。
最初はドラグ君のことを目の敵にしていたみんなも引いちゃってる。痛みがないとはいえ、ドラグ君の手足には痣ができちゃってるもん。
「兄さん!」
「私を止めるのは大いにけっこう。だが、ドラグは人間を見下してる。このまま舐められっぱなしなのはカンに触る」
「ドラグ君は子どもだよ!」
「違う。人間よりも遥かに長命なドラゴンだ。子どもの姿は仮初め、偽りの姿だ。こうして痣ができるのは、人間の中で浮かないための反応だろう」
「見てる身にもなってよ。頭ではわかってても胸は苦しくなるよ」
「おめでたい奴め。ドラゴンに情が湧くなど理解に苦しむ」
「どうして兄さんはドラグ君にひどいことをするの!」
「愚問だな。ドラグがエロドラゴンだからに決まってるではないか」
えっ? 兄さんは何を言ってるの?
「きさっま、意味がわからないのだ」
「理解力がない美少女め。ドラグは君を犯そうとした。ラーニャを気に入り契約をした。これをエロドラゴンと言わずなんと言う」
「わたっしは未遂で済んだ。ラーニャもドラグを気に入ってる。きさっまが荒れる理由にはならないのだ」
「私が荒れてるだと? 私は荒れてなどいない。私は怒ってるんだ」
「わたっしには違いがわからない」
「私が許す三次元は異世界人だけだ。なのに、なのに! ドラグは、その異世界人を完膚なきまでに殺したではないか! 私の異世界ハーレム計画を潰した罪は大きいぞ!」
異世界ハーレム!? また兄さんが寝言を言っちゃったよ。ていうか夢見すぎ。いくら容姿だけはいいったって。
『まだ生きてるじゃないか。選び放題だ』
「さっきざっと見たが、私のお眼鏡に叶う者はいなかった」
「待って兄さん。エルファさんはどうなの?」
「私は大歓迎だ。しかしエルファ本人はどうかな」
兄さんがエルファさんをちらりと見る。いやらしい視線を送ってる。うん、ただの変態だね。
「わたっしがっ!? いきなりそんなことを聞かれても返答に困るのだ」
「可能性はゼロではないということか。しかし、やはりドラグのしたことを許す気にはなれん。エルファだけではハーレムにはならん」
「一人じゃダメなの? 兄さん」
「ダメじゃない、嫌なんだ」
「それって兄さんのわがままだよ」
「わがままで何が悪い。異世界といえばハーレム、ハーレムといえば異世界だ。目に入れても痛くない美少女の宝庫、それが異世界だ」
「兄さんの頭の中には美少女しかないの!?」
「他に何があると? 私に必要なのは二次元と美少女だけだ。三次元などクソである。ここが異世界でなければ自殺していたところだ」
「異世界だって三次元だよ」
「そんなことは理解してる。そして断言してやろう。異世界は二次元半だと!」
両手を広げて天を仰いでみせる兄さん。歌手がよくするイメージがあるけど、兄さんは歌手じゃないからやってもしょうがない。
完全に自分の世界に入った兄さんの隙を狙い、あたしはドラグ君を救出。どさくさ紛れに柔肌を堪能しちゃう。
『お姉ちゃん』
「大丈夫だよドラグ君。あたしが守ってあげるからね」
『でもみんなは……』
「それも大丈夫。あたしに任せてよ」
あたしはみんなの方を向いた。兄さんの行動に引いたとはいえ、ドラグ君に対する怒りがなくなったわけじゃない。どうしたらみんなに納得してもらえるのか考えてみたけど、もうこれしかないよ。
「がはははは! この変態ドラゴンの命はもらった! 誰も助ける気がないのなら見捨てるがいい!」
『お、お姉ちゃん!?』
「ぐふふっ。あたしの攻撃は痛いんだよね? ならもっと痛めつけてあげるね」
『何を言ってるのかわからないんだけど――ぐは!』
「いいねいいね! ドラグ君の柔肌を堪能できるなんて嬉しいね」
『痛いよお姉ちゃん! お姉ちゃんの攻撃はぼっくに効くんだ』
「だからやってるんだよ。ほっぺ、お腹、生腕、生足。きゃーっ! 萌え死ぬっ!」
『痛い痛い痛い痛い!』
いい声を出すドラグ君サイコー!
ドラグ君言ったよね、何してもいいって。
「ドラグ君が悪いんだよ。あたしじゃなくてエルファさんを犯そうとしたんだから。えらくエルファさんの容姿を褒めてたけどさ、あたしはどうなわけ? 元の世界じゃモテモテだったんだよ。そんなあたしを横目に行為に及ぼうとしちゃって何様なのかな」
『ぼっくに犯されたかったの!?』
「冗談言わないでよ。女の子を犯すなんてサイテーなんだよ。ドラグ君の性癖に文句を言うつもりはないけど、ダメなものはダメなんだからね」
――グギギ。
『お……姉……ちゃん』
「うん? なんか言ったのかな? 首を絞められたくらいで死なないよね」
『苦し……い』
「そんな白目剥いたってダメダメ。演技がオーバーだよドラグ君」
苦しむドラグ君も可愛いなぁ。もっともっと可愛がってあげたいなぁ。
「……ラーニャ」
「なーに? エルファさん」
「それは演技ではない。本当にドラグは苦しんでるのだ」
「でもそれって結果オーライだよね。みんな、ドラグ君を殺したかったんだから」
「し、しかし!?」
「エルファさんでも歯が立たなかったんだから、契約者であるあたしがするしかないよね。みんなしてどうしたの? 恐ろしいものを見るような目をあたしに向けてさ」
あーれー、あたしの演技が素晴らしすぎた?
ドラグ君の苦しむ姿を見せれば、みんな考えを改めてくれると思ったんだけどね。なんか空気が変わった気がする。
「気付けラーニャ。この場にいる全員の恐怖の対象がドラグから君に変わったことを」
「えっ!?」
「私が止めに入らなかったのは、君が演技してると思ったからだ。しかし、途中から君は演技をしてなかった。年下を痛めつけながら恍惚な笑みを浮かべてたぞ」
「ふぇっ! あ、あたしってば!?」
「まったく。一番の変態で恐ろしいのは君ではないか」
「てへへ」
「今さら可愛い子ぶっても遅い。ほら見ろ、あのドラグが震えているではないか」
「そんなことないよ兄さん。ねー、ドラグ君」
『あ……ああ……』
ドラグ君がエルファさんの方に逃げちゃった。みんなと同じような目をあたしに向けてる。
「みんな。わたっしの顔に免じてドラグを許してもらいたい。たった一人に対して手も足も出なかった情けないドラゴンを懲らしめるのは時間の無駄なのだ」
エルファさんの言葉にみんなが首を縦に振った。
これ、あたしが悪いみたいだよね。とーっても納得できないんだけど。
「見事に解決してみせたな、ラーニャ」
「助けて兄さん。これじゃあたしが悪くて危ないみたいだよ!」
「誤解ではないだろう。君は悪くて危ない奴だ」
ちょっと待ってよ! 危ない奴に危ない奴なんて言われたくないよ! ドラグ君も逃げないでー!




