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人殺しのドラゴンが、可愛い弟になっちゃった

 初めて見たよドラゴンを。うんと大きくて驚きだよ。さすがは異世界だね。

 兄さんはドラゴンをガン見している。珍しいからね、しょうがないね。滅多に見られるものじゃないもんね。


「黒龍か。いい趣味をしているな」

『ウガウ』

「なんだ。そんなに私を見ても何も出ないぞ。生憎、ドラゴンのエサは持ち合わせていない」

『ウガウ!』

「そう機嫌を損ねるな。だいぶ大陸を荒らして腹が減ったのだろう。だがしかし残念ながら、食べ物も君の破壊活動で残りわずか。恨むなら自分自身を恨むといい」


 兄さんが悲しそうにドラゴンを見つめているよ。ドラゴンのことが恐くないのかな。兄さんの意外な才能が開花した?


『ガッ!』

「くっ!?」

「きゃっ!?」


 ドラゴンの咆哮で体が吹き飛ばされそうになる。

 やっぱり無理だよ兄さん。話してどうこうなる相手じゃないよ。


「まさか私たちを食べるつもりか。なかなかグルメな奴め。だが私を食べるということは、神を食べるも同然。神を食らう覚悟があるかね?」


 なんで挑発しちゃってるのかな、この馬鹿は。あたしはドラゴンに食べられる趣味はないよ。

 ほら、ドラゴンが大きな大きな口を開けて狙いを定めちゃってるじゃない。ただの二次元大好き野郎が強がって勝てる相手じゃないよ。


「やめてよ兄さん! そんなに死にたいなら一人で死んで!」

「何を言っているんだラーニャ。誰が死んでやるものか。異世界美少女に殺されるならともかく、全く萌えないドラゴンに殺されてたまるか」


 何を言ってるの? この人。萌えるドラゴンって何? それとも、萌えられればなんでもいいのかな。


『ウゥガアアアア!』


 ドラゴンが翼をバッサバサと羽ばたかせる。突風で吹き飛ばされちゃうよ。二次元ならギャグで済むかもな展開でも現実は違うんだからね!


「やめないかドラゴン! たかが人間二人に対して余裕がないじゃないか。もしかして本当は弱いのか」

『黙れ』

「おや? なんだ、会話が成立するではないか。そうならそうと言ってくれ」


 ドラゴンが言葉を話せた! すっごーい!

 あれ、あたしがおかしいのかな。なんか急にドラゴンが可愛く思えてきたよ。


「えへへ。ドラゴン……さん」

『なんだ』

「みんな殺しちゃったの?」

『殺した。正確には食った。だって――』

「だってもヘチマもないよ。どんな理由であれ殺しちゃダメ。そんなにお腹がすいてたの?」

『知らないの? 人間は美味美味味。食べればわかる』

「わかりたくないよ。人間を食べたいだなんて思うわけないもん」

『もったいない。人生損してる』

「食べた方が損するよ」


 やっぱりあれだ、ドラゴンと人間は合わないよ。異文化コミュニケーション失敗だね。

 兄さんも頭を掻いて降参のよう。なんか独り言を呟いてるけども。絶望のあまりに狂っちゃったのかな。


「ふふふ……ふはははは! 聞け、ドラゴンよ! 私は神だ。君をどうこうすることなど造作もない。何を隠そう私のこの右手には、ドラゴンすら食らう魔物が封印されているのだ!」

『なんだと!?』

「私に素直に従うのなら命は取らん。だが、私たちを殺すというのなら、この右手から魔物を解き放つ」

『ぐ、ぐぬぬ!』


 なんというハッタリ百パーセント。よくもドラゴンを目の前にして言えたよね。その度胸だけは認めてあげるよ兄さん。けどさ、そんな見え見えのハッタリに騙されるドラゴンじゃないわけ。

 はぁ~。もう諦めよう。さぁ、せめて気持ちよく食べてね。豪快に噛んで終わらせて。


「み、右手が……う、疼く」

『しょうがない、ここは折れてあげる。でも勘違いしないでよ右手』


 ドラゴンがあたしを見てる。指を一本差し出してきたよ。どういうこと?


『ぼっくが折れるのは彼女だ。ねぇ、ぼっくに触って。それでぼっくは大人しくなる』

「触ればいいんだね。こう、かな?」


 おお! これがドラゴンの感触。けっこう触り心地いいね。もしかしてこれが萌えなのかなぁ。

 あれ? ドラゴンがどんどん小さくなっていく。体を小さくできるなら早くしてくれてもいいのに。


『――よっし。これなら文句言わせない。これで契約完了』


 あたしの手を掴む小さな手。柔らかくてなにこれ、ずっと触ってたい。それに誰これ、めっちゃ可愛い!


『そんなに触られると恥ずかしいよ。人間の年齢で八歳の体、なかなか悪くない』

「ごめん!? それでえーっと……誰?」

『ぼっくだよ、ぼっく。ドラゴン。お姉ちゃんと契約して人間の姿を手に入れたんだ。この姿は、お姉ちゃんが心に深く眠らせていた理想からできたんだ』

「理想!? 確かに弟がほしいって思ったことはあるけど」

『じゃあ弟になってあげる。心ゆくまで理想の弟にしてよ。お姉ちゃんになら何されてもいい』

「あわわわわっ! なっ、何されてもって!?」


 黒髪ロングの真ん中分け!

 眩しすぎるオッドアイ!

 日差しを知らない白肌に、すらりと指先まで伸びた手足!

 ドラゴンに萌えるときがくるなんてというか、あたしが弟萌えだったなんて。しかも血のつながりがない義弟だよ。どうにかなっちゃいそう!


『ぼっく、名前がほしいな』

「名前? あたしでいいの?」

『お姉ちゃんからほしいんだ』

「そっ、そこまで言われたら断れないねっ」


 カッコいい系か可愛い系か迷っちゃうね。名前を決めるなんて責任重大だよ。あぁ~、ドラゴン君可愛い~。


「さっさと済ませろラーニャ」

「妬かないでよ兄さん。なんだかんだ言って、あたしを取られるのが嫌なんだ?」

「馬鹿も休み休み言え。こんなつまらんところで長居は勘弁だ」

「もう、しょうがない兄さんだよ。よし決めた。ドラゴンだからドラグ! どう?」

『ドラグ! ドラグ! ありがとうお姉ちゃん!』

「どういたしまして。なんだこれぇ、むふふ」

「ラーニャがブラコンだったとはな。私には見せない顔だ」


 そりゃそうだよ。兄さんとドラグ君に見せる顔は別だよ。それも女の子の魅力なんだからね。

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