中辛のことも忘れないでね
ドラグ君が全裸待機!
ドラグ君が全裸待機!!
ドラグ君が全裸ああああ!!!!
ぐへへ。もうねぇ、ぐへへだよ。あたしの理想の弟が目の前で恥ずかしさに悶えちゃってるなんて眼福なんだよ。じゅるり。
「じゃあ、その……不束者だけどよろしくね」
『優しくしてよ、お姉ちゃん』
二人での共同作業だよ。あたしも布を取ってしまおうか。でも他の人に見られるのは恥ずかしい。あたしは乙女だからね。
「さっさとしないか二人共。ただ手を繋ぐだけに何分かけるつもりなんだ。見せられている身にもなってくれ」
むう。兄さんってばわかってないよ。手を繋ぐことのハードルの高さを。繋ぎたいけど繋げないもどかしさってのを。
「わたっしからもお願いしたい。いつまでも殺風景なのは堪え難いのだ」
「なんですとー!? エルファさんまでそんなことを言うなんてーん。女同士理解し合えると思ったのにーん」
「すまない。今は色気より食い気なのだ。みんな空腹で元気がない」
そう言われてみればそうだよね。あたしとドラグ君の恥じらいとか見ても空腹は満たされないよね。なんかごめん。早く衣食住を与えてあげないとだね。
「ドラグ君、超特急でいくよ」
『ちょうとっきゅう? よくわかんないけどわかった。ぼっくたちの共同作業だ』
ドラグ君の手は気持ちいいよ。いつまでも触っていたいけど我慢我慢。ドラグ君、受け取って。これがあたしの思い描く世界だよ。
――ピロピロリン。
不思議な音が鳴った気がした。ドラグ君にイメージを伝えるために目を瞑っていたけど開けてみよう。
「はいー?」
あたしは思わず声を上げてしまったよ。紅茶が好きで天才的な頭脳を持っている、細かいことが気になる悪い癖を持った某警部のように。あたしはコーヒー派だし天才じゃないけどね。それよりもお口があんぐりだよ。
『お姉ちゃん、これはいったい!?』
ドラグ君が痩せて見えるけど気のせいかなぁ?
ドラグ君の顔色が悪く見えるけど気のせいかなぁ?
ドラグ君が漏らしちゃってるのは気のせいじゃないね。
「あれ? ちょっとズレちゃった」
『ちょっとなの!? お姉ちゃんのイメージとだいぶズレてる気がするよ』
「そんなことないって。ドラグ君というフィルター通したからなのか大幅に違ってるなんて言ってないよ」
『今言っちゃってるよ、お姉ちゃん』
「あ……あはは。許して」
わー、みんなの視線が痛い痛い。
でもほら前向きに考えよう。住めば都だよ。生きてるって素晴らしい。誰もが一度は夢見る世界だよ。
「なんだねこれは。私は夢でも見てるのだろうか。甘い匂いがダイレクトすぎる。エルファの空腹という言葉に引っ張られたようだな」
「見るからに嫌そうな顔しちゃって! わかったよ、わかりましたよ。もう一度やればいいんでしょ」
『待ってお姉ちゃん。ぼっく、今ので魔力を大量に消費しちゃったんだ。しばらくは無理だよ』
「魔力なら大気中にいっぱいあるよ」
「君は馬鹿なのかね。全力疾走を何本も続けてできるかどうか考えてみろ」
「そんなの無理に決まってるよ。兄さんこそ馬鹿なの」
「馬鹿に馬鹿と言われるとは。ドラグの魔力は空っぽになったんだ。大気中の魔力は無限にあるかもだが、ドラグの魔力の器は無尽蔵ではない。大陸中を荒らすだけ荒らして平気なドラグがへばっていることを考えてみろ。イメージの具現――それも世界の具現だ。一度に消費する魔力は計り知れん」
『悔しいけど右手の言う通りだよ。数日で溜まる魔力量じゃないんだ。ごめんねお姉ちゃん』
そ、そんなー!
まさかこんな世界になってしまうとは思わなかったよ。そりゃあ驚いたけど、意外と悪くないんじゃないかな。
地面は板チョコだったり、土はココアパウダーだったりするけど。お菓子の家が建ってたりするけど。食べられないわけじゃないんだからね!
「とにかく食事なのだ。ひとまずどこかで――」
「そこの団体どうした膝下」
「きさっまは誰なのだ?」
「記憶喪失のナルシストに名前を聞くとは愚かなバナナ」
「わたっしはバナナではない、エルファなのだ。食事ができるところを探している」
「これは失敬滑稽。それならばあそこのカレーが一番二番だ」
「どっちなのだ」
「あっちこっちそっちだ」
エルファさん、変な人に絡まれちゃってるよ。見たところ冒険者かな? 剣持ってるもん。なんか道着っぽいの着てるから強そう。ターバン巻いてるし。ちょっと怪しくもあるけど。
「多少は救いがあったようだな。カレーがあるとわかっただけでも助かる。私は辛党だ」
「兄さんはわかってないね。カレーといえば甘口だよ」
「なぜわざわざ甘いカレーを食べなければいけない。辛くなければカレーではない」
「それは偏見だよ。辛いだけじゃ痛いだけだよ」
「カレーを食べるときに水を飲むのは論外だ。カレーに失礼だろう」
「それは兄さんの勝手だよ。あたしは水を飲むもん」
「ふはは! 未熟な妹め」
「ぷぷっ! 堅物な兄さん」




