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真実と旅をしよう。  作者: 暁狐うきょう
4章 刻印

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生きててくれて良かった

 ――事件の真相を話し終えた旭。御影はそれを聞き唖然とした――


「……あの事件を起こした首謀者は……鳴海長官と……光崇さん……だったのか」


「……おそらく。臥龍蛇を使ってこの事件を起こさせたのは犬飼家。ですが決定的な証拠がまだありません」


 旭の話を聞いた御影は、頭を抱えた。

 犬飼光崇は御影にとって恩人だ。幼少期に母親を殺した殺人犯から救ってくれ、学費や生活費も出してくれた。その恩人で憧れの存在だった人が、あの事件を起こした首謀者。


「……じゃあ何で……!光崇さんはあの事件を……!」


「……氷室正昭議員を消すため」


「……氷室さんを……!?」


 御影はその名前に驚き顔を上げた。

 氷室正昭は元大学で教授をしていた経歴を持つ人物。国民の事を一番に考え、議員の中で国民に人気が高かった。メディアなどの表舞台によく顔を出し、心理学に詳しく人だった。

 御影は氷室が大学教授をしていた時期に在学していた。高校生の頃、氷室が心理学についての講話に御影は参加していた。その後、御影は心理学について興味を持い、氷室の居る大学を志望したのだ。


「氷室議員の人を読む力、国民の事を良く考えた政策は犬飼家にとって邪魔だった……。だからあの時の二つの事件を同時に起こした……。氷室議員を消すため……そして自分の力を見せるために起こした事件」


「……なんだよ……それ……!意味分かんねぇよ……!」


 御影は混乱し、思考が追いついていない。御影にとって大切だった人達が、この事件に大いに関わっていた。それはあまりにも信じ難い真実だ。

 すると旭が暗い顔をし、ゆっくりと口を開く。

  

「……貴方の大切な人達……そして一般市民を大量に巻き込んでしまった……。俺達はあの事件を防ぐ事が出来なかった……。全ては……犬飼家のしでかした事件です……。ACTORS、そして犬飼家を代表し……貴方に謝らせて下さい……」


旭はそう言うと御影の目の前にゆっくりと膝をつき、土下座をした。


「……本当に申し訳ございません」


 御影はその光景に驚き、旭の肩を揺らした。


「……え……お、おい!頭を上げろ……!お前が謝る事なんて無い……!」

 

「……謝る事しか……出来ません」


 旭は頭を床につけたまま、呟くように謝罪を述べた。


「……我々ACTORSも……鳴海英朔、犬飼光崇の部下でありながら……その作戦を知らせれていなかった。あの方々は……我々をはなから信用などしていなかった……。俺はもうあの人にとって……出来損ないのガラクタにすぎない……」


「……ガラクタって」


「……犬飼家にとって、自分達に従わない者は人とすら思っていない……。そして従う者は……所有物。俺はあの人の所有物だった……そうやって……育ってきた。……幼い頃から体術を叩き込まれ、勉学も全て管理されてきた。……泣く事も喜ぶ事……感情は邪魔だとあの人は言った……。いつしか感情が分からなくなった……。自分が……分からなくなった……。ただあの人に従い……人を殺す、ただの人形の様だった……。今でも……自分が分からない……。だけど……あの事件当時、貴方に撃たれた後……あの人達に会いに行った。俺の傷を見たあの人はこう言った……逆(・)ら(・)っ(・)た(・)罰(・)だと」


 犬飼光崇の衝撃的な言葉に御影は目を丸くした。今まで尊敬していた人から放たれた言葉とは、信じられない血も涙もない言葉。


「……俺は初めて怒りを覚え、あの人に銃を向けた。だが……体震えで銃が撃てなかった……。あの時の俺を今でも悔いている。そして俺は父親である人にその言葉を言われて絶望した……。もう、生きる気力が無くなった。そのまま消えたかった。でも、仲間が俺を生かした。……だから俺は仲間の為、国民の為に……生きる事にした……。犬飼家を止める……その為には、貴方の力が必要です……。馬酔木御影……力を貸してくれませんか」


 旭はそう言うと真剣な眼差しで御影を見つめた。

 御影は黙って旭の話を聞いた。旭野この言葉は、心の底から出た言葉だと感じた。御影は旭の身体をゆっくりと起こし、抱きしめた。

 旭は御影が突然抱きしめてきた事に驚き、唖然としていた。そして御影は、旭を抱きしめながら話し始める。

  

「……全部、話してくれてありがとな。まだ上手く整理は出来てないが、俺はお前を信じようと思う。……お前はお前のすべき事をした。だから謝るな。俺もお前に一生残る傷をつけてしまった……申し訳ない。本当に……生(・)き(・)て(・)て(・)く(・)れ(・)て(・)良(・)か(・)っ(・)た(・)……!」


 そう言うと御影は強く旭を抱きしめた。

 御影の優しいその言葉に旭は包み込まれた。初めてかけられた言葉。身体の内側から暖かいものを感じる。すると自然と旭の目から一粒の涙が頬を伝う。


「そんな事言われたの……初めて。あれ……汗が……」


 旭は身体の力が抜け、口調が少し柔らかくなった。

 その様子を見た御影はフッと笑みを浮かべる。

 

「……馬鹿。……それ涙だろ」


「……あぁ……そっか。てっきり……枯れてるかと思っていた。泣いたのは……いつぶりかな」


 旭はそう言いながら、袖で涙を拭いた。

 

「……それで、お前……俺に手を貸して欲しいんだろ?……手を貸す代わりに俺も……」


 旭が不思議そうに御影を見つめると、御影が旭に言い放つ。


「……旭、俺の復讐に付き合え」


 御影は旭の顔を見てニヤリと笑いそう言った。その言葉を聞いた旭は目を丸くした。

  

「それで罪が贖えるなら……この命……貴方に捧げます」


 旭は目に涙を浮かべ、少し微笑みそう言った。


「お前がちゃんと笑ったとこ……初めて見た」


 御影は旭の微笑んだ顔を見て、嬉しそうにそう言った。

 

「……上手く笑えてたと思ったんだけどな……さすがだね、御影」


「……俺を舐めるな」


 ――今回の事件が一段落し、今村恵と大塚美琴は保護され病院で治療を受ける事になった。何かあった時にすぐに駆けつけられるように、ACTORSが影で見守っている。そして事件解決後のある日、ある人物が事務所を訪れてきた――


「こんにちは〜!」


 扉が開き、明るく元気に挨拶をしたのは白石だった。


「白石さん……!」


「あぁ!心菜ちゃんだ〜!」


 旭は白石の方を見てニコッと笑いながら手を振った。

 それに気がついた白石は顔に手を当て、嬉しそうに旭に近づいてきた。


「あ、旭さん……!お休みから戻ったんですか?」


「そうそう!」


「そうだったんですね!また会えて良かったです!」


 そんな話をしている白石にお礼を言おうと、御影は椅子から立った。

 

「白石さん、情報提供ありがとうございました」


「あ、いえ!あ、その事でお礼に来たんでした!先輩達を見つけてくれたの、お二人のですよね?本当にありがとうございました!」


 白石は勢いよく頭を下げた。御影は驚き狼狽えた。

 

「……いや、お礼なんて……。西川さんは……」


 御影がボソッと呟いた言葉に白石が反応し、不思議そう問いかける。

 

「……?……西川さんって、さくら先輩ですか?……でもさくら先輩は自殺って……」


 報道されたニュースでは、西川さくらは自殺として取り上げられていた。真実は知る者は数少ない。


「……そうでしたね」


 御影は少し暗い表情を見せた。白石はその様子を不思議に思ったが、気を取り直して話し始める。


「それで、お礼に〜……良かったら一緒にご飯食べません?私、バイトしてるんで!奢ります!」


 白石が目をキラキラさせながら二人を見つめる。その提案に旭はノリノリな様子。

 

「マジ!?行く〜!」


 盛り上がっている旭と白石とは反対に、御影はあまり乗り気では無いながらも一緒に行く事になった。

 

 ――ファミレスに着き、旭と白石は楽しくおしゃべりをしながら食事をしていた。御影はそれを見ながら静かにコーヒーを啜る。旭の表情を見て、白石と話す時は無理して笑顔を作っているのが分かった。前に見せた本当の笑顔とは違ったからだ。そんな御影の視線に気がつき、旭は不思議そうに小さな声で話しかける——

 

「……みかちゃん、何でずっと俺を見てるの?」

 

「……お前の感情真偽ゲームしてた」


「……何それ(笑)」


 旭は御影の意味不明な言葉が可笑しくて、素で御影に微笑んだ。旭が本当に笑顔を見せられる人は御影だけだった。


―― 第四章 刻印 [完] ――

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