旅の始まり
―― 第一章 情愛 ――
――真っ暗な部屋にPCの明かりだけをつけて、作業をしている男が居た。その男がネットで調べ物をしていると、一件のメールが届いた。開いてみるとメールにはホームページのURL。それはとある探偵事務所のものだった――
「……やっと見つけた……。探偵事務所……か……」
――初夏の香り漂うある日の公園。いつもの様に子供達が楽しそうに遊んでいる。その中に一際目立つ、長身の男が子供達と一緒に走り回っていた。その男の元に女の子が近づいてくる――
「ねぇねぇ、旭にぃちゃん……あのね、あそこにの木に風船引っかかっちゃった……せっかく旭にぃちゃんから貰ったのに……」
その女の子が指さす方向には、木に引っかかった風船が浮いていた。風船は、大人でも背伸びするだけでは、取れない高さに引っかかっている。
「お?あ〜あそこか!いいよ〜取ってくる!」
「ほんと?」
「もちろん!旭にぃちゃんに任せなさーい!」
旭はそう言い、風船が引っかかっている木に向かって走って行き、思いっきりジャンプをした。
一瞬にして風船を取り、その女の子に笑顔で渡した。
「ほい!今度は離すなよ〜!」
「わぁ!ありがとう、旭にぃちゃん!」
その女の子は嬉しそうに母親の元に行き、こっちを振り向き手を振り帰って行った。
「バイバ〜イ!」
旭も大きく手を振り女の子を見送った後、公園にいた他の子供達が旭に集まってきた。
「ねぇねぇ!旭にぃ!次、色鬼しようよ!」
「えぇ!ダメ!旭にぃちゃん、一緒に砂遊びしよう?」
「こらこら、旭にぃちゃんは一人しか居ないんだぞ〜?順番な、順番!」
子供達が旭を囲んで、何で遊ぶか押し問答をしている。それを旭はなだめていた。
旭はふと公園のベンチの方に目をやる。そこにはさっきまではいなかった男の子がいた。その男の子はベンチに座り、暗い顔をして俯いていた。その様子が気になった旭は、周りの子供達に断りを入れてその男の子の方に歩いて行く。
俯いている男の子の前にしゃがみ話しかける。
「どした?そんな暗い顔して。なんか嫌な事でもあったか?名前は?」
「望月 一護……」
「一護か!はじめまして。俺は旭って言います!何かあったんなら、俺が話聞くよ?」
そう微笑んだ旭を見て少し安心したのか、一護は口を開いた。
「……お母さん、一週間くらい帰ってきてないんだ。ご飯もあんまり食べてなくて……」
「ま、まじか……お母さん、どこ行ったか分からない?」
「うん……わかんない」
「そ……っか〜。じゃあ俺がお母さん探すの手伝おうか?」
「え?ほ、ほんと?……でも……」
一護は少し疑いながらも期待の眼差しで旭を見つめた。一護の不安そうな顔を見て、旭は事情を話し始める。
「実は、君のこと探してたんだよね」
「え?……どうゆう事?」
「君のお母さんの妹……葉加瀬 杏さんの知り合いなんだ」
一護は母親の妹の話をよく聞いていて、初対面の旭からその名前が出たことに驚いた。
「……!そうなの!?その人のこと、お母さんから聞いた事あるよ」
「そっかそっか。実は昔、君の様子を見てくれって頼まれてたんだ。もちろん、お母さんのこともね」
「そうだったんだ……じゃあ、お母さんのこと一緒に探してくれない?」
一護は旭を信じ再度、母親探しを旭にお願いする。
旭はその言葉に、笑顔で答える。
「あぁ、旭にぃちゃんに任せなさーい!」
「ありがとう……旭にぃちゃん……」
少し安心して表情が柔らかくなった一護の頭を、旭は優しく撫でた。一護は頭を撫でられ、少し嬉しそうだ。
「あ〜でも、一人だと時間かかるよな〜どうすっかな〜?」
旭は少し考えた後、ある事を思い出した。
「あ!いい事思いついちゃった〜!なぁ一護、一緒に来てくれる?」
「え?……う、うん」
一護は訳も分からず、旭について行くことになった。
――三十分程歩いて、ある建物に着いた。緊張した面持ちで向かう一護と楽しそうにしている旭。二人は階段を上り探偵事務所の戸を叩いた――
「こんにちは〜!依頼したい事があって来ました〜!」
元気よく扉を開けた旭と、その後ろに隠れてこっそり様子を見る一護。
ふたりが事務所の中を見渡すと、外を見つめる青髪の男が二人立っていた。その男は声に反応し、二人の方へ振り向いた。
「……ようこそ、アンドロメダ探偵事務所へ」
その男は威圧感を放っていた。一護はその男の様子に怖気付いてしまい、旭と握っていた手をさらにぎゅっと掴んだ。
「……では、こちらにおかけください」
「失礼します!ほら、一護も座りな!」
旭が一護にソファに座るよう促し、一護は小さく会釈をしソファに腰掛けた。
その間に男はお茶を入れて、二人の前に差し出した。
「……どうぞ」
「あ、ありがとうございます!」
「ではまず、私の名刺を。私の名前は馬酔木御影と申します。本日はよろしくお願いいたします」
旭は御影から名刺を受け取り、自己紹介をする。
「俺は犬飼旭って言います!よろしくお願いします、馬酔木さん」
旭の名前を聞き、御影はその苗字にピクリと反応する。だが、表情には出さなかった。
一護は緊張している様子で黙りこくっている。その様子を見て旭は、代わりに紹介する。
「あ〜えっと、この子は望月 一護。今日はこの子の件で来たんです」
「……誘拐か?」
御影がボソッとそう言った。その発言に旭は驚き弁解する。
「な!?何変な事言ってんすか!?俺は、この子の母親を探すのを手伝って欲しくて!」
「人探しか……」
「……お、お願いします……僕のお母さん……探して欲しいんです」
さっきまで黙って俯いていた一護が口を開き、御影に頭を下げた。
「……分かりました。とりあえずその依頼、引き受けましょう。お話をお聞かせ願えますか?」
旭と一護は顔を見合わせて静かに喜んだ。
御影は早速、一護から母親について尋ねる。
「では、一護君のお母さんは何て名前?いつから居ないんだ?どんな仕事をしてる?ゆっくりでいいから知っている事を教えてくれ」
「えっと……お母さんの名前は望月 綾華……一週間くらい帰ってきてなくて……お母さんの仕事は……なんだっけ……夜の仕事?って言ってたかも……」
「なるほど……夜の仕事か……水商売ってところか。他に何かお母さんが言ってた事はないか?」
御影はメモを取りながら話を聞いている。それを見た旭が口を開く。
「……なんか事情聴取してるみた〜い……」
旭はボソッと小さな声で呟いた。
それを聞いた御影は旭の方を一瞬目をやったが、また一護の方に目を向ける。
「あ!お母さんに最後に会った時、知らない男の人と一緒に帰って来てた!その人は玄関で待ってたけど……」
「その男はどんな背格好だった?」
「えっと……黒の服にサングラスを着けてて大きい人だったような……」
「そうか、お母さんのその時の様子とかはどんな感じだ?」
「……元気なさそうな顔してた……あと、お母さん僕にお金と手紙置いていったんだ」
「手紙……その手紙は今持ってるか?」
「うん……これ」
一護は小さなカバンから母親からの手紙を取り出し、御影に手渡した。その手紙にはこう綴られていた。
――一護、ごめんね。お母さん、帰ってくるの遅くなるの。こんな不甲斐ないお母さんでごめんね。でもお母さん、一護のためにお金たくさん稼いでくるね。愛してるわ一護、どうか元気でね――
「……なるほど、この手紙に書かれてる通り、君のお母さんは、何処かに働きに出ているだけだと思うが……最後の文が、なんだか今生の別れにも取れる言い方だな」
「う〜ん……確かに〜?」
「……ん?」
御影はある事に気づき、目を凝らしその手紙を見る。
「パッと見普通だが、微かに文字に震えがあるな……」
「え?……う〜ん?そうっすか?俺には分からん!こうゆう字を書く人もいるんじゃない?」
御影は少し考えた後、なんだが腑に落ちない様子。
「……これは大事な証拠だ、こちらで保管してもいいか?」
「う、うん……どうぞ」
「ありがとう」
御影は手紙を写真に収め、手紙を丁寧にファイルに保管した。
「じゃあ、とりあえず話はこれくらいにして……これから君の家に行ってもいいかい?」
「うん、分かった」
「お!一護ん家どんな感じだろ〜?楽しみ〜!」
――次回へ続く――




