LOG.04 大西洋より救援を求む
これは未来の俺が拾った、ある少年の記憶である。
[×MEMORY:44UALGH]
———2046年9月3日大西洋ポーツマス沖———
リバプールから大西洋へ出て、かなり経った。
陸地が、緑が見えて来た。
でもやつらは、許さない。
生きることを。
「ガキどもは引っ込んでろ…ぐわっ!!」
どうして?
さっきまで一緒に話をしていたおっさんが殺された。
この貨物船は、奴らの軍艦に比べればガラクタも同然だ。
砲弾を四方八方から無力な貨物船に向かって撃ちつける。
船の前方から乗り込んでくる機械を大人たちが迎え撃つが、立つのは赤い霧だ。
なんでこんなことに。
くっそ、イギリス人め。
よくも俺たちを追い出してこんなところに。
俺は頭を抱えるしかなかった。
「カル!しっかりしろ!!」
ガラン。
フェイもいる。
よかった、無事だったんだ。
「戦わないと!殺されるぞ!」
戦うったって、無理だろ。
武器も持ってないのに。
「見ろ!おっさんたちの銃だ!あれを拾って戦おう!」
は?
何言ってんだ?
「どうしたカル!らしくないぞ!ビビってんのか?」
おい、本当に行くのか?
「今だ!行くぞ!」
待って…
視界が真っ赤になった。
ガランの頭を、フェイの腹をえぐられた。
死んだんだ。
二人とも。
どうして?
俺たちまだ13歳だぞ。
俺も、死ぬのかな。
「ねえ!立って!」
黒いマスク。
女の人の声だ。
「あれ見える?あそこまで泳ぐよ!」
泳ぐ?
こんな、砲弾が飛び交う中、どうやって?
「みんな死んだ。もう…」
「しっかりしなさい!」
その人は俺の胸ぐらを掴んだ。
「あんたは、生きてるでしょ!なら立ちなさい!」
何を…
「行くわよ!」
手を引っ張られ、走った。
温かい手だった。
この場所が戦場であることを忘れてしまうほど。
手を繋いだまま、海に潜った。
大きな音を立てて。
しょっぱくて目を開けられないが、
一瞬だけピンク色が揺れた気がした。
俺は彼女に引っ張られるまま進んだ。
途中から記憶が飛んで、気づいたら砂浜にいた。
髭面のおっさんに手を差し伸べられた。
この人は少し知っている。
街では有名な人だ。
「大丈夫か?」
「うん…う、」
涙が湧いて出てきた。
今日、家を追い出され、友を失った。
たどり着いたこの場所で、どう生きていけばいいのか、
誰も教えてくれない。
「泣いてる場合じゃない。行くよ」
彼女の言葉は、少しだけ、俺の心をえぐった。
[×MEMORY:終了]
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
———2046年9月6日コネチカット州のどこか———
[×SISTEM:再起動]
[×BATTERYー:5%]
[×LOCATION:失敗]
また、なんか妙な夢を…見たような。
ってあれ?
俺、生きてる。
ここは、車の中か?
なんでだ?
身動きが取れない。
ふと日本の古い曲が聞こえた。
顔を上げると、左の座席には黒髪と金色の桜があった。
ダッシュボードの上にスマホらしきものを置いて運転している。
と思ったら突然話しかけてきた。
「ようやく起きたのね」
「あの…」
「私、あなたに殺されかけたのよ。
しばらくじっとしててもらわなきゃ」
バックミラー越しに顔を見た。
よかった。
顔に傷はついていない。
「君、何者?どうして私を助けたの?
GPSを外すために君の頭をいじってみたけど、
特におかしな部分はなかった。
普通のデルタと同じ」
「ああ、ええと、俺は、転生者で」
「転生者?にわかには信じられないね。
そういう設定で人間の居場所を探ろうとしてるんでしょ」
「いや、信じられないのはわかるけど…」
この反応的に、俺以外転生してきた人はいないのか。
「とにかく、俺は日本から来た。
神様みたいな女にノアと名乗れだとか、
幸せが訪れるだとか唆されて、
気づいたら10年後、なぜかアメリカに飛ばされた」
「ノア?」
「ああ、うん。君は?
ぱっと見、日本人っぽいし、
さっきからスピッツ流れてるし」
「日本とアメリカのクウォーターよ。
だからあなたがさっき叫んでいた恥ずかしい御託もしっかり聞こえてたわ」
「え?」
なんのことだ?
全く心当たりがないのだが。
「え、って。さっき言ってたでしょ『”立て!”』とか『”戦え!”』とか」
「え?俺そんな恥ずかしいこと言ってたの?」
「もっと言おうか?えっと確か…」
「ああ!やめて、やめて!恥ずいから!」
彼女に少し笑みが見えた。
「君は?ボストンの人?」
「いいえ。イギリスから来たの。30人いたのに、
生き残ったのは3人だけ。
船も見つからないし、もうお手上げかな」
「そんな!せっかく…」
彼女は寂しそうな目をしていた。
相当の地獄を見たのだろう。
そして、少し怒っていた。
「ねえ、多分目的地に着いたら、君は殺される。
その前に一つ聞かせて。
どうしてドロイドたちは、
人間を殺して、人間のように生きているの?」
え?
そんなこと、俺にわかるはずがない。
いや、考えろ。
なぜだ?
奴らは何をしていた?
思いだせ。
光る看板と、空飛ぶ車。
空飛ぶ車?
空飛ぶ車といえば、昔から人間にとっての憧れだった。
そうか…
「憧れ、だからじゃない?ほら、
人間は早く泳ぐ海の生物に憧れて船を作り、
野を走り回る馬に憧れて車を作り、
空を飛ぶ鳥に憧れて飛行機を作った。
でも、それらの発明が、多くの生き物たちの命を奪った。
それと同じで、彼らは人間に憧れて、人間が邪魔になった。
だから、こうなってしまったんじゃないかな。
もちろん、それを肯定することはできないけれど」
何言ってんだ、俺。
こんなこと、この子にいうことじゃないよな。
でもなぜか、言葉がすらすら出た。
誰の言葉だ?
「その言葉、寒気がする。なんの論理性もない、くだらない御託」
「でも、人間らしい。本当に。だから、合格、かな」
彼女は、悪戯っぽく微笑んでいた。
揺れる黒髪の隙間から桜色が、鮮やかに目に焼き付いた。
「もう直ぐ着くよ。動かずじっとしててね」
そう言って訪れたのは田舎町の民家だった。
ここが、彼女たちの拠点ということだろうか。
[×SCAN:2階の窓]
望遠鏡か何かで、こちらを見ている。
あ、目が合った。
と思ったら、慌てた様子で消えていった。
中学生くらいの男の子だったな。
今度はドアから誰かが…
出てきたのは黒いコートを身に纏い、
白髪混じりの髭面高身長でハードボイルドなおっさんだった。
顔には傷跡があり、戦士の顔をしている。
手に持っているのはショットガンか?
それと背中にも何か…
あ、近づいてくる。
男は勢いよくドアを開けた。
「おい、なんのつもりだ?ルナ!」
ルナ?
この子の名前か。
いい名前だ。
「こいつ、生きてるのか」
「待ってジョシュ」
あ、やばい。
銃口が目のど真ん中にある。
なんとかして。
は?
[×WARNING:頭部装甲に衝撃]
[×AUDIO:ダウン]




