LOG.02 悔しいほど美しい未来都市
これは未来の俺——ノアが手に入れた、とある警察官の記憶である。
[×MEMORY:44TD5O5]
———転生直前2046年8月31日ボストン———
今日は非番で、ゆっくり過ごせると思ったのに。
なんで、こいつらは…
エミリーは大丈夫か?
俺は妻の手を取りどこへ向かうでもなく走った。
あちこちで銃声と悲鳴が鳴り響く。
「あああぁぁ!!お願い命だけはた…」
ドロイドは無慈悲に人間を撃ち殺し、死体を踏み歩く。
朝まで普通だった風景はなく、夕暮れが終わりを告げる。
「振り返るな!行くぞ…」
行くって、どこに行く?
船に乗って逃げようとしたが、沿岸は包囲されている。
内陸にも逃げる場所がない。
お手上げだ。
俺は妻の手を強く握った。
不意にサイレンの音が鳴った。
これは、毎日聞いた音だ。
「おい、ベン!後ろに乗れ!早く!急げ!」
そう声をかけたのは同僚のデボンだ。
妻の手を取りパトカーに乗る。
「どこに向かってるんだ?」
「サウス駅だ。地下鉄から逃げる」
橋を越え、猛スピードで走る。
俺は妻の大きく膨らんだお腹に手を当てた。
温かく、わずかに動く。
絶対守ってみせる。
この小さな『希望』を。
[×MEMORY:終了]
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
———2046年8月31日ボストン———
[×LOCATION:BCECサウスパーキングロット]
展示場の前まで来た。
駐車場にはドロイドが山のように待機している。
あのさっきとは違うゴツいやつは何者だ?
[×ANALYSIS:オメガドロイド(指揮官機)]
俺たちよりも一回り二回り大きな重装甲を纏っている。
そいつが大きな声をあげた。
「第4部隊突入しろ」
第4部隊って俺の部隊だよな。
ずっと一緒に行動していた同僚が歩き始めた。
とりあえずついて行こう。
巨大なガラス張りのエントランスホールを抜けて中に入った。
中は真っ暗で、ガラスや展示物、瓦礫らが散らばっている。
[×HOSTILE:なし]
[×THERMO:反応なし]
敵はいないみたいだな。
何を展示していたんだろう。
[×ANALYSIS:グレネード(状態:最悪)]
[×SEARCH:不明]
これだけ技術が進歩しているのにわからないことがあるのか?
ということは人類滅亡後に開発されたもののはずだ。
人類といえば、さっきから全く敵対反応に引っかからないし、音もない。
本当にいるの…か…
バ ン ッ !
[×VITAL:消失]
その瞬間、青い血飛沫が視界いっぱいに広がった。
仲間がやられた。
遅れて銃声が響く。
一体どこから?
軌道は見えなかった。
それなのに…
次々と仲間が倒れていく。
[×VITAL:消失][×VITAL:消失][×VITAL:消失][×VITAL:消失][×VITAL:消失][×VITAL:消失][×VITAL:消失][×VITAL:消失][×VITAL:消失]
ああ、ログがうるさい。
銃声は?
どこからする?
移動している。
[×CALCULATION:ロード中…完了]
上か!
[×HOSTILE:上部キャットウォークに1名]
とった!
引き金を引いた。
だが、銃弾は掠れもしない。
なんで?!
[×AIM:マニュアル]
くっそ!
設定戻し忘れてた!
早く切り替えを…
カンッ……ズ ド ォ ン !!
目の前の宙の上でグレネードが青く弾けた。
身動きが取れない。
白い煙の間から天井が見える。
銃声が、途切れ途切れに鳴り響く。
[×WARNING]
[×NEURAL:ダウン……再起動]
[×VISUAL:損傷]
[×AUDIO:深刻なエラー]
人間がいる。
ログが流れないな。
…降りてくる。
黒いジャケットを羽織って、仮面を被っている。
スカートが翻った。
女だったのか…。
[×REBOO:失敗]
終わった。
でも、今度は仰向けだ。
空を見ながら死ねる。
って、室内じゃねえか。
[×REBOO:失敗]
今日の月はどんなだったっけ?
確か、半月だったかな。
せっかく転生したというのにな。
[×REBOO:失敗]
一度くらいやってみたかった。
ラノベみたいな…無双展開。
[×REBOOT:成功]
[×BATTERY:96%]
あれ?
[×SYSTEM:戦闘機能へ集中]
[×MODE:近接格闘(CQC)]
[×WEAPON:HF-Blade 『ギロチン』]
[×LEG:爆発型]
[×FRAME_RATE:限界突破]
[×LIMITER:解除]
なんだこれは。
身体中に電気が走り、青い光を放つ。
[×WARNING:エネルギー消費量増大]
今はそんなことどうだっていい。
「おい、人間!」
俺が読んだ途端、人間は振り向いて銃を撃つ。
敵の銃弾がスローモーションに見えた。
これなら、斬れる。
火花が散り、その勢いのまま人間を押し倒した。
直後、衝撃波で、窓ガラスが粉々に砕け散る。
俺は人間の首元に、刃先を突きつけた。。
「突入!」
外で待機していたドロイドが壁や窓から雪崩れ込む。
ライフルの銃口が彼女を捕え、完全包囲する。
入り口から、あの隊長機がズカズカと歩いてきた。
「よくやった、E4。トドメをさせ」
なぜだ。
手が動かない。
どうしてだ?
これを終わらせれば、未来の世界で何不自由なく過ごせるのに。
「E4、何をしている?」
それは、俺がやりたかったことなのか?
それは、俺にとっての幸せなのか?
幸せってなんだ?
もし、何不自由なく過ごすことが幸せなのだとしたら、
そんなものは前世で十分満たされたはずだ。
だが実際は、俺の心の穴は広がるばかりだった。
どうすれば塞がる?
「E4、早く殺せ」
「うるさい、黙ってろ」
そうだ、俺が求めていたのは、
死に際の電車の中で見た、あの親子のような、
瞬きしている間に消えてなくなりそうなほど、尊くて、温かい———。
———そんな幸せだ。




