LOG.01 転生ドロイド
2036年5月31日東京。
俺は、背後から何者かに銃撃され、死んだ。
LISAとかいう自称神に命じられ、目が覚めると10年後、つまり2046年、サンフランシスコにいた。
そして、その姿は人類抹殺ドロイドの頭だったわけだが…………ちょっと待て。
情報が多い。
1つずつ整理しよう。
まず、人類抹殺ドロイドってなんだ?
視界の端に、また例のログが浮かぶ。
見たくなくても勝手に出るやつだ。
[×DATA:起動プログラム開始]
[×NUMBER:E4-00011-04569]
[×INDIVIDUAL:E4バトルドロイド(通称デルタ)]
E4バトルドロイドっていうのが正式名称なのか。
識別番号は、E4-00011-04569。
んー……長い。
こんなの覚える必要ないよな。
いや待てよ。
さっきLISAが名を名乗れだとかいってたよな。
確か——ノア。
調べてみよう。
[×SEARCH:識別番号とノアの関係性]
[×RESULT:…]
お、ヒットしたみたいだ。
1104569を10進数から36進数に変換すると……『N・O・A・H』
おーすげー!ノアになったー!
……って、そんなもん理由になるか!
それにしてもこのログ、微妙に見づらいんだよな。
左の項目だけ英語で、右が日本語。
まあ、左は適当に流して、右だけ見とこ。
そういえばまだ何か続きがあったよな。
[×MISSION:人類殲滅]
[×DEPLOY:ボストン]
……人類殲滅。
……ボストン。
……これは、洒落にならねえよな。
ドロイドに転生してから5日。
部品が装着され、ボディがようやく完成した。
そこからトコトコ歩いて行き、滑走庫みたいなところで延々と待たされていた。
この間、俺が知った情報は3つだ。
その1、人類はほぼ滅亡していた。
その2、俺は人類滅亡の元凶である殺人ドロイドに転生した。
その3、この体、あまりにも便利すぎる。
考えるだけであらゆる操作が可能だ。
同じ顔、同じ体のアンドロイドが不気味に整列する中、俺が手に持った銃をぶっ放してみたいと心の中で呟くと、赤いログが表示された。
なんだこれ。
[×MODE:RED roomを起動]
虹色の光が視界一面に広がり、一瞬で移動する。
やってきたのは、赤い閃光のコードが羅列した場所だった。
ようやくイベント発生のようだな。
「仮想訓練施設RED roomへようこそ。
私はNSF軍事部局長カミラ・マクレーンだ」
軍服を着た、黒人の姉ちゃん?
いやこの貫禄、おばさんか。
編み込みのドレッドヘアの三つ編みで、毛先だけ赤い。
そこそこの美女だが、あまり好みではないな。
それと、人間のように見えるけど、頬に光沢が見える。
これもアンドロイドなのか?
「ここでは、敵との戦闘によって、自律プロトコルの機動訓練をしてもらう」
やはり、敵は人間か。
そうなることは覚悟していたし、罪悪感なんて感情は前世に置いてきた。
——いや、正確には「置いてきたはず」だ。
というのも、この体になってから、変だ。
少しずつ感情が死んでいっている気がする。
この体に刻まれたプログラムが影響しているのだろう。
かなりギリギリで、無駄にオーバーリアクションをしてみているのだが、いつまでもつか。
とにかく、今の俺の目標は、全力でこの世界を生きること、ただそれだけだ。
「『ヴァーディクト』を持て」
ヴァーディクト?
[×WEAPON:AR-46 『ヴァーディクト』]
この大口径のアサルトライフルのことか。
俺の初期装備はライフル、ハンドガン、ナイフの3つ。
ライフルがベーシックになっているが、個人的にはナイフが気になる。
「それでは、戦闘開始だ」
よし、いよいよか。
敵はどこだ……ってあれ?
赤い閃光が街を形成したと思うと、グラフィックが上がり一段階現実的になった。
ここは、映画やゲームで親の顔よりも見た象徴的な街。
そう、ニューヨーク・マンハッタンだ。
だが、様子がおかしい。
街のあちこちで銃声が響き渡り、爆発、建物の倒壊、燃え上がる炎まで、まさに戦争状態。
ゲームや映画でもここまで酷いのは見たことがない。
ブウォオオオン…!
とんでもない重低音が頭上から地面へと落ちる。
空を見上げると煙を上げながら飛ぶ戦闘機。
操縦が効かなくなったようでまっすぐ突き進む。
まさか、あのでかいビルに突っ込むのか?
[×ANALYSIS:エンパイア・ステート・ビル]
途端、空気が揺れ動き、衝撃波と爆発音を鳴らした。
視界が揺らぎ、音が途切れ途切れになる。
[×WARNING:一部システムに支障]
[×VISION:悪]
[×AUDIO:悪]
何が起きたんだ?
ここは一体…
[×RESULT:2038年第一次全米終末戦争/死亡者3000万人。アメリカ史上最悪の戦争。これにより、人類の居住区はボストンの一箇所のみとなった。]
あのババア、とんでもないところに送りやがったな。
世界大戦並みの大惨事じゃねえか。
何が戦闘訓練だ。
いや、落ち着け。
これは仮想世界だ。
当時の様子を再現しただけ。
だけ…だよな。
エンパイア・ステートは真っ二つに折れ、再び地響きが鳴る。
くっそ、視界が悪い。
一旦システムが回復までどこかで待機を…
一瞬、赤く光る銃弾の軌道が目の前を横切るのが見えた。
銃声も遅れて読み込まれ、近くに敵がいることを悟った。
まずい。早く——




