LOG.01 転生ドロイド
転生といえば異世界だと勝手に決めつけていた。
アンドロイドに滅ぼされる未来も、一度くらいは考えたことがあるだろう。
だが、そのアンドロイドに転生するなんて、誰が考えたんだ?
ふん(笑)、ありえない。
暗すぎるし、何より主人公が間抜けに見える。
その主人公は俺だった。
こうやって今も頭だけが永遠と運ばれていく。
目の前にも、その前にも、同じ顔の連中。
吊り上がった目が青く光る。
[×DATA:起動プログラム開始]
[×NUMBER:E4-00011-04569]
[×INDIVIDUAL:E4バトルドロイド]
[×MISSION:人類殲滅]
[×DEPLOY:ボストン]
よし、最初から整理しよう。
まずはナンバー。
これはどうでもいいか。
次に個体名。
E4バトルドロイドっていうのか。
で、ミッション……人類殲滅。
……これは、笑えない。
頭だけが流されて5日ほど経過し、ようやく体が完全に完成した。
見た目は、なんというか、ゴツい。
ただただゴツくていかつい。
一応、筋肉のようなものはあるし、血も通っているようだ。
両方、青色だけど……。
それで、滑走路までトコトコ歩いて行き、位置についた。
周りには同じ顔、同じ体のドロイドが規則正しく並んでいる。
この5日間で集めた情報を3つ、簡潔に説明しよう。
その1、人類はほとんど絶滅していた。
その2、俺はその元凶であるドロイド軍の一員になった。
その3、この体、あまりにも便利すぎる。
何か頭の中で命令すると、勝手にログが現れてなんでもしてくれる。
ゲームとか、映画とか、音楽とか、まさに自由自在。
操作方法は考えるだけだ。
そんなもんだから、俺は呑気にピコピコと無料ゲームで遊んでいた。
外部からはプレイ画面は見えないはず、なのだが。
どこからか、いや、あらゆる方向から視線を感じる……。
自然な挙動、周りのドロイドにも自我があるように見える。
今更だが、転生者は他にもいるのだろうか。
[×RESULT:否]
いないんかい。
じゃあ、なんなんだこの挙動は……。
このドロイドの設計について調べてはみたものの……よくわからんから割愛する。
俺は懐かしの無料ゲームを続けた。
こうしていると、中学時代、休み時間に学校のタブレットでピコピコしてたのを思い出す。
[×MOVIE:一斉通知]
せっかくあともう少しでクリアだったのに、強制中断された。
「私はNSF軍事部長官、カミラ・マクレーンだ」
視界の左上に現れたのは、ドレッドヘアの編み込みを三つ編みに結び、さらに毛先が赤い黒人の女だった。
一瞬人間のように見えたが、左の頬に光沢がある。
おそらくドロイドなのだろう。
「5日前、我々はボストンを――滅ぼした。
街は落ち、抵抗は砕けた」
「残務処理に入る。
生存者は推定1000名。
詳細は任務ログを確認しろ」
LISAの言うことが本当なら、俺はここで人間を殺すのだろう。
この運命には何がなんでも抗いたい。
だが、なぜだろう。
少しずつ何かが侵食し、赤を欲する。
「さて、気づいているだろうが、お前たちには自我がある。
――それは人間を元に作られた自我だ」
人間を殺しておいて人間の真似かよ。
こいつらの目的がなんなのか、全くわからない。
映画とか小説とかでは、人類が生態系を破壊してるだの、人類に幻滅しただのをよく目にするが……実際のところどうなのか、めちゃくちゃ気になる。
[×RESULT:不明]
あっそうですか。
長官は画面の中で一瞬嘲笑うかのようなそぶりを見せると話を続けた。
「人間を元に作られた……それ故に、不完全だ。
殺人プロトコルが内蔵されているにしろ、個人差がある。
そこで、人間を殺せなかったものには処罰を与える。
お前たちの内部データは廃棄され、再利用されるだろう。
だが、殺した者には———」
その瞬間、巨大な壁が開いた。
よくわからんが、前のドロイドがゆっくり歩き始め、それに続いた。
俺はずっとどこにいたんだ?
[×ANALYSIS:NSFドロイド製造工場]
うん、それはわかってる。
で、ここは一体。
目の前のビルを越え、視界が開けたとき、自分がどこにいるのかを知った。
それはまさに10年後、いや100年後の未来都市だ。
車が空を飛び、ネオンが色鮮やかに輝く街。
これぞ、SF。
「人間を殺した者に与える報酬。
———それは自由だ。
お前たちは何者にでもなれる。
そのために、死ぬ気で人間を殺せ!」
[×MOVIE:]
俺の倫理観が警報を鳴らしている。
普通に考えて、私利私欲のために人殺しなんて絶対やってはいけないに決まっている。
でも、これは流石に……。
見ろ、車があっちこっちで空を飛んでいるんだぞ。
ビルの壁には新作VRMMOや映画の広告。
やばい、めちゃくちゃ面白そうだ。
今にもスキップしそうな勢いのまま前進していると、談笑する声が聞こえてきた。
あれは……人間?
[×ANALYSIS:オメガドロイド]
[×RESULT:民生型ドロイド]
10年間一人も見えなかった俺が、遠目で視認できたんだ。
なんとなくドロイドなんじゃないかとは思っていた。
にしても、自由っていうのはあれになれるってことなのか?
ずっと上ばっか見て気づかなかったが、たくさんいる。
渋谷のスクランブル交差点と同じくらいだ。
あれ、でも、子供がいない。
まあ、わざわざ子供の姿になろうとなんてしないか。
他にももっと、悔しいほど美しい街並みがそこにはあった。
クソみたいな前世だったからに、この世界で0から人生をやり直したい。
いや、でもダメだ。
騙されるな。
俺は元人間だ。
生きている人間を殺すことは絶対にしてはいけない。
生きている人間を……。
4時間後…
生きている人間なんて、本当にいるのか?
真空チューブ列車に乗って、モントリオールというカナダの軍用基地に到着後、車に乗ってボストンまでやってきた。
が、これは、あまりにも酷い。
建物は半分近く焼き焦げ、ありとあらゆるところに、血痕に弾痕。
道端には死体が山積みになっていて、オメガドロイドの死体回収班がそれを車に運んでいる。
正直、胃腸がなくても吐きそうなほどグロいし、臭いから嗅覚を遮断した。
これを見ても同情とかよりそんなくだんない感情が先に出てくるあたり、かなりプログラムに毒されているな。
いや、これは前世でもそうだったのかもしれないな。
俺はクズだから。
[×URGENT:一斉通達]
「メーデーメーデー!
只今第2部隊が残存人類と交戦中!!
至急応援を求む!
場所はボストン展示場!
いいか!敵は……!」
ツーーー
敵は、人間なんだよな。
第2部隊が丸々やられているようだった。
おそらく、かなりの人数がいるのだろう。
俺は、遂に覚悟を決めた。
人間を殺す覚悟を————。
ふと夜空に浮かぶ月を見上げた。
それは半分が光、半分が闇の半月だった。
俺はまだ知らない。
この半月の、正体を。
待ち受ける、『希望』との出会いを。




