メモリーストーリー 放火後連合結成
中学三年の秋、高校受験を控えた中でもオレ達はいつも通りの勉強から無縁の自堕落でクソみたいな放課後を過ごしていた。
渡部秋、小平海月、山浜奈桜、伊藤悠里、そしてオレ本部凛の五人は同じ地域の小学生の頃からの付き合いのある幼馴染。
部活も六月に終わり、他の人たちは受験に向けて勉強をしている中、オレ達は海月の家に集まり火遊びばかりの日々。
帰り道でトンボを捕まえて、ペットボトルの中に詰めて火あぶりにしたり、学校から配られたプリントを燃やしたりアルコールに火をつけたり。
中途半端な精神性から生まれる残虐で惨い、生命を冒涜してしまうような遊び。
けれど、そんなクソみたいな時間でもオレにとっては最高の時間だった。
その時間はオレにとって友達としての繋がりを感じさせる時間だったから。一人で静かな時間を過ごしているよりずっと良かった。
それに、ずっとそんなことをしている訳じゃない。海月の家にはゲームもあるしサッカーボールやバレーボール、バスケットボールまで何でもあった。
毎日遊ぶにはなんの退屈はしなかった。
「グループライン作ったし、お前も入れよ」
ある日の放課後、いつも通り海月の家のガレージに座って時間を潰していた時にそんな話になった。スマホを取り出しグループから申請が届いていてそれを承認する。
グループ名は放火後連合。
放課後に火遊びで遊んで楽しむ連中だから放火後連合。安直だ。
正直、毎日一緒に帰ってバカやっているのにグループでメッセージのやり取りなんてする必要なんてなかったし、このライングループが動くことはそうそうないだろうけれど。
グループに入るとすぐに秋は立ち上がり、そこらへんに転がっていたサッカーボールでドリブルやリフティングをしていた。オレ以外みんなアウトドア派。
バスケットボールを蹴っ飛ばしてガレージの蛍光灯を割ったり、バレーボールを蹴っ飛ばして海月の家の天井にぶつけたら、隣の家のババアに怒られたり、降り積もった雪に屋根の上から飛び降りたり。
ほぼ毎日そんな事ばっかりやっていた。オレ自身も実際そんな日々が楽しくて一緒になって騒いでいた。
「来いよ、凛」
秋から挑発されてオレは立ち上がる。
インドア陰キャ運動音痴オタクのオレとアウトドア陽キャ運動神経抜群イケメンとじゃ、試合にならないのは分かっている。オレと秋のドリブル勝負が始まり、あっけなく股抜きで抜けられる。
けど、その時間すら楽しかった。
オレ達は星が見えるまでずっと遊び続けていた。
***
「昆虫食買ったから食おうぜ」
それはある日の休日の事だった。グループにそれだけ、たった一件のメッセージが海月から送られてきた。奈桜以外の全員が興味本位で海月の家に向かった。
後日、逃げた奈桜の家にはオレ達が食べた倍の量の昆虫食が贈られることになったらしいが、オレは詳しく聞いていないからわからない。
さっそく海月の家に入れば、リビングの机の上に三つの昆虫食のパックが置いてあった。サソリにバッタ、タガメ、その他もろもろ……。
核戦争で食べ物も飲み物も無くなって、昆虫を食べるしかなくなってしまった世紀末のような景色が目の前に広がっていた。
「オレ、サソリ食いたい」
一目見た時に、オレはサソリに目を奪われた。
と言うか他の虫はそもそも嫌悪感で食える気もしなかった。
秋と悠里はコオロギを、海月はバッタを手に取り、それぞれガラスのコップにグレープの炭酸ジュースを八分目まで注いだ。
全員が一匹ずつ虫を手に取り、口に入れた。
瞬間襲ったのは、無味。正確に言えば塩の風味がそこにあった。
しかし、その塩の風味が消え失せるほどの驚異的な臭い。
カブトムシの土を口にパンパンに入れたような臭さと、それに似合わない塩味ならぬ塩風味の味付けと、ポテトチップスみたいなバリバリと言う触感。一言でいえばクソ不味い。口に入れただけで嗚咽が止まらない。喉の奥に手を突っ込まれた時と同じ感覚だ。
さらに失敗したのが、オレは尻尾だけしか食わなかったのだ。
クソデカい本体がまだ残っている。見た感じ尻尾の三倍はあるだろう。
海月の案でマヨネーズを大量にかけて、グレープの炭酸ジュースももう一度コップに注いで準備は万端。いざ、勝負!
――人間はあっけなくサソリに敗れた。
人間の知恵をもってしても打ち消せない土臭さ。
オレはサソリに敗れ、家の外でサソリを吐き出した。
「マジ最悪なんやが……」
みんなの元に戻り、口の中を落ち着かせる。
マヨネーズを直接吸い、炭酸の口の中で弾ける痛みも顧みず飲む。
ユーチューバーが動画で昆虫食をうまいうまいと言っていたが、オレからしてみればあれは金をもらって無理矢理言わされているか、味覚の終わった異常人のどちらかだと思えた。
いつまでたっても口の中の気持ち悪さは消えなかったが、一時間ほど海月の家でゲームをして秋の提案でチャリンコに乗ってみんなでカラオケに行けばいつの間にか気持ち悪さは消えていた。
もう二度と食べたくないな。虫の味を思い出したらまた気持ち悪くなって飛び起きた。外に見えるのは最近ようやく見慣れてきた異世界の景色。
あぁ、夢だったのか……。




