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百人転生~彼の者たちは異世界でそれぞれの道を往く~  作者: 猫宮いたな


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母と旅の料理


 季節は秋から冬になった。


 少し前までは赤や黄色の油絵で描いたような葉が視界一杯に広がっていたのに、今はもう何もない。そこにあるのは葉の落とした少し寂しい木の枝だけ。

 けれど、秋の景色と違うものがあった。それは雪だ、家の外に自分の背丈ぐらいの雪が積もっていた。


 気温は体感二、三度ぐらい。

 家の中は魔石のヒーターがあるからまだいいが、家の外に出るともうやばい。この世界は日本ほど防寒対策ができていないから少し外に出るだけでも体が震えて凍えてしまうようだ。


 そんな中でも、ボクは毎日毎日剣術と魔法の特訓。そして勉強も決してやめる事無く続けていた。


 ボクはこの冬を超えたらこの家を去る。

 ボクはあの時の約束を忘れたことは無い。放火後連合でまた会おうと誓った事は忘れたくても忘れることはできない。


 あの約束を果たす為にはボクは強くならないといけない。

 この世界で一人、生き抜いていく力だ。


「母さん、今日は何を教えてくれるの?」


 ボクが一人で旅に出るうえで必須の要素。

 それは戦闘技術と、生活スキル。

 衣食住のすべては旅に置いて必須だ。

 

 衣は、この冬の寒さを乗り越えるためにも必要だ。

 食は、そもそも旅じゃなくても食えなきゃ死ぬ。

 住は、衣服と共に暑さと寒さをしのぐ為には知っておいた方がいい。


 母さんは旅に出るならと、衣食住の最低限のスキルを教えてくれると言った。

 元々、ボタンを縫ったり、飯を作ったりはできるから教わることは無いと思うが、母さんからしてみればボクはまだ子供だ。

 できることより、できないことの方が多い未熟な子供。

 

「旅の料理は、栄養も味も偏りがちで飽きが来るのも早いからね。料理ができるだけで旅の料理は苦痛から楽しいに変わるのよ」


 母さんはまな板の上に魚を一尾、ドンっと置いた。

 五十センチ程度の魚はもう既に絞められていて、まな板の上で暴れることはなさそうだ。

 

「とりあえずは、魚の捌き方を教えてあげるね、それができなきゃ味もクソも無いしね」


 見ててね、と包丁を手に取って途轍もない速さで魚を捌いてみせた。

 洗練された主婦の手さばきは、まるで歴戦の老戦士の剣技だ。

 太刀筋が見えない、繊細で綺麗な切り口。

 そして、やってみてと、もう一尾の魚をまな板に置いた。


 ボクはその時初めて知った。母さんは人に物を教えるのがとてつもなく下手くそなんだと……。


 魔法陣と魔法紙について教えてくれた時は母さんの得意分野だからそこまで下手くそな説明だとは思えなかったけど、料理になるとその説明の下手くそさが顕著になっている。


 この歳の子供にいきなり魚捌けって言っても無理でしょうに……。

 いくらボクが前世の記憶と経験を持っているエリート天才美青年だとしても魚なんかそうそう捌けるものじゃないだろう。


 とはいえ、やってみないと分からない。

 右手で包丁を握り、捌き始める。身と骨を切り離す、三枚おろしだ。

 初めてやるから安全面を重視してゆっくり進めていく。

 途中、包丁の角度が深く骨に引っ掛かったり、切り離した身の厚さがまばらになっていたり要は失敗だった。


「はじめてにしては上手だね。大体はここまできれいに切れることなんてないしね」


 下手くそだった三枚おろしを母さんは成功だと喜んでくれた。

 そして、切り身といくつかのハーブとパイ生地を準備した。


「今日は、この魚で白見魚のパイ包みを作るよ。一緒に作ってみようか、母さんと同じ感じでやってみてね」


 魚をハーブで挟み、パイ生地で包む。

 さらにそこから耐熱紙で包んだ。


「これを後は暫く火にかければ完成。簡単でしょ?」


 まぁ、確かに簡単だ。火をかけている間は他の料理を作ることが出来る。最初に教わる料理としてはいいんじゃないだろうか。


「じゃ、他のご飯も作っちゃおうか」


 母さんは他のご飯も手際よく準備し始めた。



 母さんはものの数十分で料理を完成させた。

 ボクも手伝ってはいたが、結局は手伝いだ。後半からはボクに物を教えることすら忘れて、これやってくれる? あれやってくれる? で、終わりだ。

 今日、習ったことは魚の捌き方と、食材の切り方をいくつか、だけ。

 

 テーブルに並んだ料理は、白身魚のパイ包みに、サラダとスープにガーリックトーストだ。

 正確に言えばガーリックではなく、カリウトという名前らしい。

 これ以外にも日本とは名前の違うものが多くてたまに分からなくなる。料理の名前も時々分からない時がある。


 だからボクは街に行くと、よく転生者の店に行く。

 そこのメニューならどんな料理か一目で分かるし、昔の味を沢山食えるから自然とリピーターになった。

 街にも二、三軒ほど転生者の経営する店があるがどこもボクと同じような転生者たちがよく集まっている。


 ほんとこの世界に転生者が多くて助かった。


「準備できたわね、アレティナ、ユフィご飯だよー」


 母さんが二人を呼んで二人が来るのを待つ。

 父さんは今日も仕事で夜まで家に帰ってこない。


 父さんにボクの初めての手料理を食べてもらえないのは少し残念だけど、仕方のないことだ。

 最近の父さんはずっと忙しそうで、疲れているようだったからな。


「今日はミリヤが手伝ってくれたんだよ」


「へぇ……美味いの?」


「それは食べてみないと分かんないね」


「そか」


 姉さんは早速、パイを切り分ける。サクサクとした生地からハーブの香りが広がる。匂いだけで見れば百点満点の成功。

 けれど、料理は味だ。

 姉さんは一口、口の中に入れた。そして舌鼓を打つ。


「まぁ……美味いね」


 姉さんは珍しく素直にボクの料理を褒めてくれた。

 いつもは褒めるなんて事滅多にしない人だから少し驚いた。

 いつもは、もっとこうしたらどう?

 なんてアドバイスばっかりで感想すら話してくれないからな。


「でも、私はもうちょっとハーブが多い方が好みかな」


 嬉しいな、と思ったらすぐこれだ。

 自分じゃ料理作れないくせになぁ……。


「兄ちゃん、これすごくおいしいよ!」


 それに比べてユフィは超いい子だ。

 お世辞という言葉を知らない純粋なユフィだからこそのこの言葉。

 あぁ……涙が出る。

 ツンデレ属性からツンを抜いたような最強無敵の美幼女。


「母さん、これからも料理教えてよ! もっとおいしいの作って、ユフィに食べさせるんだ!」


「仕方ないね、でもミリヤは料理を極めたいんじゃないでしょ」


 母さんは頭をなでる。父さんとは違って手は細く柔らかいけれど、父さんと一緒で温かかった。


「ミリヤがこれを本当にやりたいって言うのなら、いくらでも付き合うけどね」


「じゃあ、明日からもお願いするよ母さん。ボクは全部できることはやりたいんだ」


 そう言うと、母さんは嬉しそうにニコッと笑った。

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