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「B・P・S・D」  作者: 富嶽
12/19

第12話 パワーアップしたオッサンと沈黙のアタック

7月12日、土曜日。午後4時。

外出から帰った僕は、自室のエアコンが効くまで共有スペースのソファーで一息ついていた。

汗をぬぐいながら「そろそろ冷えたかな」と部屋に戻ったタイミングで――

奴が、また出てきた。


赤城。

彼は部屋のテレビをつけっぱなしにして、共有スペースに現れた。

しばらく部屋の周囲をウロウロ、そしてバーンと何かを叩いた。

戻った自室でもまたバーン。何かを叩いて、気を引こうとしているのか、それとも自分の存在を誇示したいのか。


その日の午後、僕が外出していた間に、鍵屋が来てドアの修理をしてくれていた。

――いや、手直しで直せるなら、なぜ3週間も放置した?

僕がストーカー被害を訴えているのを知っていて、この対応。常識というものを疑いたくなる。

命の危険すらあると感じているのに、のんびりしたもんだ。


午後5時。

夕食を終えて散歩に出ようとドアを開けると、絶妙なタイミングで赤城が食器を下げに出てきた。

カウンターに食器を置いたかと思うと、まっすぐこちらに向かってきて、靴を履き替える僕を無言で見つめてくる。

なぜ話しかけずに無言で迫ってくる?

その沈黙が、不気味なんだよ。


僕に相手をしてほしいなら、普通に話しかければいい。

本館に行けば職員という“合法な話し相手”がいる。ヘルパーの仕事には「話し相手」も含まれてるんだから。


7月13日、日曜。午前6時50分。

早朝散歩から帰ってきて靴を履き替えていると、やっぱり奴が出てきた。

無言で僕を見つめて、僕が自室に入ると途中までついてくる。

食事をするテーブル席の手前でピタッと立ち止まる。

なぜ、ここまで来る?


午前7時50分。

食事を取ろうとテーブルに向かうと、異変があった。

水が……撒かれていた。

テーブル中央に大きな水たまり。そして、隣には水が半分入ったコップ。

不注意でこぼれたというレベルじゃない。

水は真上から撒いたように中心に集中し、周囲には小さな水たまり。コップの水はなぜか半分残っている。これは“事故”じゃない。意図的だ。


職員に聞いても「知らない」と言う。

だが、赤城には“癖”がある。

毎晩、眠前薬を飲むためのコップをテーブルに置いておくのが習慣だ。

でも、普段は水なんて入っていない。

それが、今朝に限って水が入っていた。そして水が撒かれていた。

なぜか?


以前、赤城は「この建物の水道水はタンク貯蔵だから飲めない」と言っていた。

ならば、この水は飲むためのものじゃない。

“撒くため”のもの。

つまり、意図的にコップに水を入れ、テーブルに撒いた――異常行動だ。


午前8時半。

ケアマネの古田さんがバイタルチェックにやってきたので、この件を話した。

だが返ってきた言葉は――

「相変わらず仲が悪いのか(笑)」「話し合いしかない」「でも解決しない」

……無責任極まりない。

何のためにケアマネやってる? なぜ本人に確認すらしない?

もし僕が同じことをやったら、職員中尾さんは黙っているのか?

納得できるはずがない。


だから僕は対策を取った。

靴や上履きはもう玄関には置かず、自室に持ち込む。

「次は靴がやられる」と直感が告げていた。


午後4時40分。

ドアを開けてキムチ臭を逃がしていたら、また彼が出てきた。

夕食の食器を片付けるついでに、ドアの前まで来て中を覗く。

僕はスマホをいじって無視したが、彼はそのままソファーに座り、時折、膝や杖で床を叩く音が聞こえた。


午後5時10分。

夕食後の散歩へ出かけようとドアを開けると、ソファーにいた彼が立ち上がり、玄関に向かって靴を履きだした。

待ち伏せか?

僕は一度部屋に戻り、ドアの隙間から外の様子を伺う。

彼は、明らかに僕を待っている。


ちょうどそこへ職員・前山さんが食器を下げに来た。

僕は「今日は暑いですね」と世間話をしながら外へ出た。

すると――

彼が両手を広げて、通せんぼしてきた。

オッサン、それはもうギャグじゃ済まんぞ。

僕はその横をするりとかわして歩き出したが、彼は無言でついてくる。

50メートルほど歩いて、ようやくぶっちぎった。

無言の追跡……ホラー映画かよ。


ペットボトルの水、やっぱりあまり効かないな。

でも今日は長時間のぞき見していなかった。少しは効果があったのか?

……いや、ネコちゃんなら可愛い。

でもオッサンは……No Thank Youだ。


午後6時30分。

散歩から戻って靴を脱いでいると、また赤城が近寄ってきた。

無言で、右肘で僕の左肘に――アタック。

僕の部屋のドアの前で立ちふさがり、睨んでくる。


それでも僕は無視してドアを閉めた。

すると彼は床を踏み鳴らし、そのままソファーに座り続けた。

またしても終始、無言だった。


あの肘アタック、もし相手が足の悪い人だったら転倒していたかもしれない。

本気で危険だ。



---


今日のまとめ:


赤城さん、さらなる進化を遂げて“沈黙の追跡者”と化す


コナミコマンドでも入れたのか? 上上下下左右左右BAか?


ケアマネ古田さん、責務放棄で“開き直りモード”


職員たち、見て見ぬふりで二足歩行型配膳ロボット化

 →しゃぶ葉か焼肉きんぐに転職してくれ!

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