第13話 影の進入者
7月14日(月)
午前7時30分、朝一の散歩から戻り玄関を入ろうとすると、赤城さんが自室のテレビをつけっぱなしにして大窓の前に立ち塞がっていた。
僕が隙を見てすり抜けようとするも、彼は目をギラつかせてじっと僕を睨む。睨めっこが2~3秒続き、やっと部屋に入りドアに鍵をかけると、赤城さんは共有スペースをウロウロしたあと、自室へ戻って行った。
今朝も彼はバイタルチェックに来た職員に「今日の職員は誰か?刈谷さんは来るのか?今夜の宿直は誰か?」と執拗に尋ねていた。
午前7時50分頃、テーブル席で朝食をとり始めると、彼はテレビをつけたままいつもの席に座り、ひたすら僕を見つめている。
職員が彼の朝食を運ぶと:
> 職員「ごはんです」
赤城「おう!」
だが彼は一切、食事に手を付けず、僕だけを凝視する。
僕が食事を終えて部屋に戻ると、彼もやっと自分の朝食を取って自室へ戻った。
> 僕(心の声)「食事の見守り介護か?それとも、僕のグルメ番組レポーター業か?笑」
午前11時50分頃、外は小雨。赤城さんは相変わらず共有スペースを徘徊している。僕が外出準備をすると、彼は玄関ドアをバタンバタンと何度も開け閉めして牽制してきた。
僕がドアを開けて外を覗くと、彼が傘も杖だけ手に持ち、外で僕を睨みつけている。慌ててドアを閉め、自室から飛び出す形で外へ出た。
午後2時40分頃、雨で外出せず自室にいると、赤城さんはテレビを消して共有スペースへ出てきた。僕の部屋の前で呟きながらウロウロし、戻るや否や壁をドーンと叩いた。
再びソファに座る彼の前を通ろうとすると、杖を持って靴を履こうとする仕草で阻まれ、僕はドアを閉めた。しばらくして再度開けると、彼が「どうぞ、散歩したいならどうぞ」と外を指差していた。
その後、彼は独り言を言いながら自室へ戻った。
午後3時20分頃、外出を試みると彼がソファに座っており、終始無言で睨みを続けた。
> 僕「ドアを気にするのは天気のせいであって、君の機嫌じゃない!」 彼「必殺!ストーカー斬り!!(ギター侍風)はぁ…笑」
午後4時40分頃、テーブル席で夕食をとり始めると、赤城さんは自室から何度も出入りし、やがて僕の左側に立ってじっと見ていた。
職員が理さんの看病に向かうと、彼は2メートルほど奥へ下がり、また僕だけを見つめ続ける。
その後、彼は自室へ戻った。今回の職員は津山さん。いつもの態度と違い、彼女の前では奇行を控えていた。
午後6時30分頃、散歩から帰還した僕が鍵を開けようとすると、彼も出てきて出発後の共有スペースをウロウロしてから部屋へ戻った。
いつも思う。あまりにも侵入が早すぎる。自室内で中腰でドアに耳を当て、僕の帰宅を待っているのではないか?毎度ながら、自宅警備ご苦労様だが、誰も感謝していない(笑)
7月15日(火)7時30分頃、換気のためドアを開けると彼はすり足気味の足音でウロウロし、部屋を何度も覗いては床をバンッと踏み鳴らし、またウロウロ……。
午前8時頃、朝食のためテーブルに座ると、赤城さんはカウンターから食事を取って部屋に戻ろうとしたが、テーブルに置き直して僕の左側に立って無言で凝視した。
職員が小松さんを連れて来ると、赤城さんは2メートルほど後退。しかし職員が去るとまた僕を凝視。
しばらくして「フーフッ」とかすれ声でため息をつき、テーブルに戻って無言でまた見つめた。聞き取れぬ言葉をつぶやきつつ、僕は部屋に退避した。
午前11時50分頃、彼は食器をカウンターに載せ、僕の部屋前に迫る。ドアを閉めると
> 赤城「閉めんな!こら!ふじこ!ふじこ!」
と叫び、ソファに座った。
午後0時30分頃、ソファに座るとすぐ、彼が椅子を持ち出し左隣に着席。目を閉じ寝たふりをすると
> 赤城「もう終わりか!」
と挑発的に呟き、僕が部屋へ戻ると追尾してきた。
午後4時頃、帰宅すると彼はテレビをつけたままソファに座り、僕がゴミ出しに出ると立ち上がって無言で見つめた。
午後4時40分頃、夕食時も隣に座り続け、無言で僕を凝視。食後、彼は夕食を部屋へ持ち帰ったが、ドアを開け放ったまま部屋で大いに物音を立てて食べていた。
また出てきて隣に座り、ブツブツ言いながら一度立ち上がって椅子を片付け、靴を履いて隣のベンチへ座る。そして再び椅子を持ち出し、僕を凝視した。
僕はサングラスをかけスマホ動画に没頭。彼は「○△×△!」と一言叫び、職員が食器を下げに来ても「睨めっこ中」と言い放った。僕は部屋へ戻った。
その後、彼は椅子を戻し、自室のドアを何度も開閉して自室へ。
午後5時30分頃、散歩へ出ると彼は靴下と杖を手に裸足で靴を履き始め、僕は一度部屋に戻った。玄関ドア越しに彼が睨み続ける隙を見て外へ。
午後5時45分頃、再び出ると彼がいない間合いでフェイントをかけて玄関を抜けた。長いストーキング、果たして目的は何か。
> 僕(心の声)「BPSDの恐るべき執念!」
午後6時40分頃、帰宅すると彼は自室と共有スペースを行き来し、時折床をバーンと叩いていた。まるで待ち伏せ要員のようでもある。
7月17日(木)午前7時10分頃、職員がバイタルチェックに来ると彼は共有スペースでウロウロ。職員の「動かないで」との声にも従わず、チェック後も徘徊を続けた。
午前8時、僕が朝食を取りながら職員と会話すると、赤城さんは大人しく自室で食べていた。しかし職員が去るとすぐ出てきて僕と入れ替わるように戻った。
午前8時10分、玄関で靴を履く僕を、彼が部屋の鍵越しに確認し、部屋に追いかけてきた。
午後4時10分、外出帰りに鍵で“チャリ!”と音を立てただけで、彼はウロウロしつつソファーに座っていた。
午後5時10分、散歩へ向かおうとすると即座にドア前に現れ、怒鳴り声とともに追いかけてきた。
午後6時30分、再び帰宅して鍵を開けると、彼は無言で追尾し、部屋の前で大音量でドアを**ドバーン!**と開けて戻る。
> 僕(心の声)「散歩くらい、一人で行けよ!」
7月18日(金)午前7時35分頃、散歩後に戻ると、左肘をかするほど接触しながら部屋へ追いかけてきた。
午前8時、換気中に彼が覗きに来るたび視線を合わせると、たじろいでソファへ戻り、指でトントンと叩いた。
午前8時25分、ソファから立ち上がり「出てけえへん!根性なしか!」と叫びながら徘徊。
午前9時10分、散歩から戻ると、僕が座るソファの隣に椅子を持ち出し、僕が立ち上がると再び追いかけてきた。
午前9時50分、外出準備中に彼はドア開閉を繰り返し、不安定な独り言を漏らしてから去った。
午前10時10分、散歩に出ると杖を振りかざすようにソファを離れ、僕が立ち上がるとドンと床を叩いた。
午前11時、帰宅するとヘルパーが朗読中。僕が入室すると彼は徘徊し、再び部屋へ戻った。
来客用スリッパが散乱し、昨日の怒号の後遺症を物語る。
午前11時15分、彼は自室に鍵をかけ一人外出。尾行と散歩を並行するかのようだ。
午前11時30分、刈谷さんに彼のスリッパ中敷きについて相談。「自腹で買って」と笑われた。
午前11時45分、夕食時に隣で僕を見つめ続け、「何用や?」と詰め寄ってきた。
> 僕「別に何も」
彼は「逃げずにこい!」と叫び、再び徘徊と罵声を繰り返した。
午後0時20分、鍵のチャリ音で彼が出てくる。共用スペースに座り、僕がゴミ捨てに行くまで微動だにせず視線だけを送る。
午後3時、回診後も徘徊と独り言を断続。
午後3時20分、鍵音だけで彼が現れ、ソファへ座る。
午後4時、再度椅子を隣へ出し、「何用や?」と絡む。僕が退避すると、再度徘徊を繰り返す。
午後5時30分、靴下と杖で裸足自履き。僕が外を窺うと隙を突いて早速追跡。“レーサー気分”には程遠い執念深さだ。
午後6時40分、深夜並みの徘徊と罵声で部屋の前を往復。BPSDとストーカーの融合――施設はゾンビの館だ。
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章末メモ
赤城さん:観察と追跡のプロ
僕:防御と回避の日々
第十四話へ続く...




