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巻き込み事故で異世界召喚された私が、なぜか邪竜サマの最愛の番になった話  作者: 天希莉緒


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19.帰らない理由(1)

 私とイオが暮らすお城を見て、袴田さんは目を丸くした。


「えー!? センパイ、こんなすごいところに住んでるんですか……?」


「うん。イオがつくった家なの」


「すごいすごい、シンデレラのお城みたい! 邪竜の森にこんな綺麗なおうちがあるなんて思わなかったー!」


「邪竜の森って」


 イオがボソッと呟いた。

 袴田さん、さっきから『邪竜』ってワードを連呼してるけど、イオはやっぱり嫌なのね、その名称で呼ばれるの。


『オカエリー!!』


 お迎えに飛び出してきた妖精ちゃんたちが、袴田さんの姿を認めて空中で一斉に停止した。

 と思ったら、


『キャー!』

『キャアアー!!』


 悲鳴を上げ、目にもとまらぬ速さで階段の手すりの後ろに隠れてしまった。


『チカ! ソレ誰ー!?』

『知ラナイ人ガイルー』


「大丈夫よ、この人はお客様」


『ダイジョーブジャナイヨ!』

『ソノヒト、コワイヨ!』

『チカト、ゼンゼン違ウヨー!』


 震えながら妖精ちゃんたちが喚く。

 人懐こい子たちだと思ってたのに、どうして袴田さんには、こんなに怯えてるんだろう。


 テーブルやカーテンの陰に隠れる妖精ちゃんたちを見て、イオが吹きだした。


「あいつら、正直だからな。好き嫌いがハッキリしてるんだよ」


「何よ、感じワルーい」

 

 あからさまに避けられて、袴田さんもおかんむりだ。


「ま、まあ気にしないで。疲れたでしょう? まずはゆっくりしてね。そうだ、お風呂に入る?」


「はーい!」


 袴田さんがお風呂で体の汚れを落としている間に、急いで食事を用意する。

 清潔なドレスに着替え、私が作ったパンケーキとスープ、それにデザートの果物を平らげた袴田さんの顔には、すっかり余裕が戻っていた。


「もー、センパイってばズルーい! こんなに素敵な場所で超イケメンと暮らしてるなんて。自分だけラクしてないで、みりあのこと迎えに来てくれればよかったのにぃ。みりあ、王様にめちゃくちゃいじめられてたんですよ!」


「ごめんね。袴田さんは王妃様として幸せになってると思ってたから……」


 どこか責めるような口調で言われて、思わず謝ってしまう。


「あー、めっちゃくちゃ快適! みりあもここに住むー、いいでしょ、邪竜サマ?」


 わざわざ隣の席へ移動して、イオにしなだれかかる袴田さん。

 イオのほうはヒョイと身をかわし、面倒そうに顔をしかめる。


「冗談じゃねえよ。帰れ」


「イヤよ! ラスティンのところに帰ったら、みりあ殺されちゃうもん」


「お前、チカと同じ世界から来たって言ったよな。そっちに帰りゃいいだろ」


「は? そんなことできるの!?」


 袴田さんは心底びっくりしたようだ。

 私の方へ顔を向けた彼女に頷いて見せる。


「イオは今までにも、たくさんの生贄を元の世界に帰らせてあげたんだって」


「本当に? みりあ東京に帰れるの、邪竜サマ!」


「嘘なんか言うか。それとな、これまで送り返した生贄のなかに、お前と同じようなこと言ってたのが何人かいたぜ。『私は国王ラスティンの妻で、王妃様だったのに』って」


「え……?」


 袴田さんの顔から笑みが消えた。


「人間のつがいってのは、あっさり別れられるんだな。そんなに次から次へ心が移って行くもんなのか。俺にはわかんねえけど」


 そう話すイオの口調には嫌味も侮蔑もなく、ごく素直な響きだけがあった。本当にわからない、そう感じているようだった。

 

 袴田さんが言葉を失う。

 私も同じだった。

 イオが過去に異世界へ帰らせた生贄の中には、王妃を自称する女性が複数いた。

 それが本当なら、アスダールの国王が異世界から召喚した聖女を妃に据え、期待していた加護がないと離縁して生贄に捧げるのは初めてではなかった、ってこと?


(まさかラスティン国王は、はじめからそのつもりで袴田さんを王妃に……?)

 

 異世界から召喚されてストレートに生贄にされた私と、聖女認定を受けて王妃になった袴田さん。

 行き着くところは同じだった。

 ラスティン国王は、結局どちらのことも人間扱いしてなかったのだ。


「ま、そういうことだ。腹もいっぱいになっただろうし、さっさと元いた世界に帰れよ」


 言うなり、イオは踵を返し、スタスタと歩き出す。


「行こう、袴田さん」


 まだ茫然としている袴田さんを促し、二人であとを追った。

 妖精ちゃんたちも、こわごわ距離をとってついてくる。


 外へ出たイオが、片足の踵で軽く大地を蹴った。

 彼の足元から、星のようにキラキラと輝く小さな粒が無数に舞いあがる。それらは絡まりながら円を描くように広がってゆき、やがて青空の下、あの光の渦が出現した。


「なに? あの変なの……!」


 袴田さんが怯えた様子で後ずさる。


「お前の帰りたい場所を思い浮かべろ。渦に飛びこめば、そこに行ける」


「本当に!?」

 

 イオに説明される前から、渦の中には見覚えのある景色が浮かび上がりつつあった。

 二十一世紀の日本、東京の街並み――袴田さんにとっての「帰りたい場所」だ。


 波打つ水面の上を、映像が走馬灯のように次々と流れていく。 


 都会のビル群。オフィス街。私にとっても見慣れた光景だ。

 高級そうなラウンジとかナイトプールみたいなのは、袴田さんがよく遊んでいた場所かな。

 遊び仲間らしき若い男女の群れに混じって、初老の夫婦の姿が浮かび上がった。

 袴田さんが渦へ駆け寄る。


「ママ……パパ!」


 彼女のご両親らしい。突然消えた娘のことを、さぞや心配しているだろう。


(これで、いいんだよね)


 袴田さんと私の間にはいろいろあったし、いい思い出ばかりじゃないけど。彼女を待っている人だって、ちゃんといるんだ。

 私と違って、彼女は元いた世界に帰りたい場所がある。そして帰ることができる。


「よかったね、袴田さん。元気でね」


 渦を覗きこんでいる背中に声をかける。

 そのまま飛び込むかと思ったのに、なぜか袴田さんは動かなかった。


「袴田さん? 大丈夫だよ、イオを信じて……」


「ねえ、センパイ」

 

 こちらを振り向かないまま、袴田さんが私の言葉を遮る。


「センパイは、どうして帰らなかったんですか?」

 

 後ろ姿から発せられた問いかけの声は、妙に低かった。


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