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白雪姫の継母と鏡の向こうのオネェ  作者: 汐乃 渚


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幕間 魔法の国の魔法の鏡



突発的に別の場所を映し出した鏡に手を当て、魔力を遮断する。

無事に通信が切れたことを確認すると、フロリアンことフローラは息を吐いた。



「シュヴァルツ王国、ねぇ……」



予想外のことに混乱したものの、その後の自分の提案に一番驚いているのはフローラだった。


鏡にかけられた魔法を調べなくてはいけないというのは、勿論ある。

だけど――磨きがいのありそうな原石を前にして、黙っていられなかったのも事実。



「ライナー!! ライナー! ちょっと来なさい!」

「……どうしたんですか団長、もう休暇に飽きたんですか? まだ半日も経ってませんよ」



フローラの呼び出しに間髪入れず、突如室内に現れたマント姿の魔法使い。

勝手知ったる様子で直接第二王子の私室に転移した男に見向きもせず、フローラは眼前の鏡を指して言った。



「アンタ、この鏡を見てどう思う?」



フローラの言葉に、ライナーは微かに首を傾げた。



「鏡……? その鏡ですか? 鏡に映っている団長のことではなく?」

「今日は違うわ」



常に己の美しさを見せつけてくる主――魔法師団団長であるフローラに、副団長という名の補佐役として長年振り回されてきたライナーには瞬時に理解し難い質問であった。



見た限り、普通の鏡だ。


この部屋に無数に飾られた、多くの鏡と同じように。



少しだけフローラの魔力を纏っていることはわかるものの、ここは本人の部屋なので特別不思議なことでもない。



「その鏡が、どうかしたんですか?」



胡乱気な表情を浮かべる副団長に、フローラは真剣な眼差しを鏡に向けたまま言った。



「この鏡……シュヴァルツ王宮の王妃の寝室にある鏡と繋がっているの」

「は、はぁぁぁぁあ!?」



ギョッとした様子で後退ったライナーの様子を鏡の反射で捉えつつ、フローラは指先をクイクイと動かして彼にもっと近くに寄るように促した。



「今は魔力を遮断したから元の状態に戻って見えるけど、さっきまで顔も見えたし会話もできたわ」

「えぇぇ……他国の王妃の寝室は、流石にマズいんじゃあ……? お互いにプライバシー皆無どころか、国際問題ですよ!」



恐る恐る鏡を覗き込むライナーに、フローラは小さく首を横に振る。



「……彼女は、アタシの情報をどうこうするようなことはないでしょう」



この出会いを政治に利用されることよりも、彼女の――ヒルデの、あの吹けば飛んでいきそうなほどの生気の無さが気にかかった。


この国の第二王子という身分ながら、あえて高飛車な女性のように話す自分に、白い目を向けることなく飾らずに接してきた女性。

一国の王妃のクセにオドオドとして見えたのは、決してフローラを恐れていたわけではなく、驚いて圧倒されていただけだった。



「それよりも、アンタを呼んだのはこの鏡にかけられた魔法について調べたいからよ」



既に鏡の解析作業を始めていたフローラだったが、自分の次に優秀な魔法使いの意見も聞いておきたかった。

不真面目そうな態度に反して、ライナーが仕事熱心な実力者であることをフローラは知っている。



「この鏡、そもそも何処で手に入れたものなんです?」

「王宮の地下室よ」

「あぁ……例のガラクタ漁りですか」

「価値あるアンティーク品の収集と言って頂戴」



軽口を叩きながら、並んで鏡にかけられた魔法を調べる。

大まかな機能はわかっているので、大した間もかからずに解析作業は終了した。



「やっぱり、鏡同士で映像と音声を送り合っているわね。基本的に起動も停止もシュヴァルツ王妃側からみたい」

「この魔法……鏡を使って映像を送り合うというのが秀逸ですね。大抵は使い魔での伝達や音声通信用の魔法をかけたアクセサリーで事足りるから考えたこともなかったですが、映像石での録画と違ってお互いその場の状況をすぐに知ることができるのは画期的ですよ!」



興奮した様子のライナーを横目に、フローラの表情は晴れない。



「鏡の魔法はクライノート側に王家の血を引く者がいる場合に限り、合言葉で発動。起動の言葉は『鏡よ鏡』、そして停止の言葉が『またね、お兄様』――これって」

「そういえば、何代も前にシュヴァルツ王国に嫁いだ姫様がいらっしゃいましたね。かれこれ……百年前ですか。鏡の状態を見ても、そのくらいの年代でしょうね」

「百年前の、お姫様ねぇ」



顎に手を当てて考え始めたフローラの横で、ライナーは虚空に手を突っ込んで一冊の分厚い本を取り出した。

表紙には『クライノート王国の歩みと王室家系図』と書かれている。



「えーと、シュヴァルツ王国に嫁いだ姫は……あぁ、この方ですね。アンネマリー様、当時十四歳でシュヴァルツ王国の王太子と結婚されています。三人いる兄王子の末の妹姫。二歳違いの第三王子殿下と特に仲が良かったようで、国を離れる際に両者とも悲嘆に暮れて、馬車に乗り込むまで嘆き悲しむアンネマリー姫の鳴き声が響いていたそうです」

「引き裂かれた兄妹、悲劇の別れ……ってワケね」

「王族の結婚は外交手段の一つであるのが常とはいえ、悲しい話ですね。引き裂かれた兄妹が密かに連絡を取り合おうと、鏡に魔法をかけたのも無理からぬことでしょうか」



しんみりとした空気が、鏡だらけの部屋に漂う。


花嫁衣裳を着たお姫様の泣き叫ぶ姿が脳裏に浮かぶようだった。



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