執務室で家族会議 2
私の返答に、ルシャード陛下は一つ頷いただけだった。
そして続いた言葉に、私は再び背筋を伸ばす。
「王妃の侍女だが……何故、彼女たちを解雇しない? 此度の調査においても、怪しい者が紛れ込んでいると報告は受けたはずだが」
ただの確認なのに、陛下の圧が強すぎて自然と身体に力が入ってしまう。
でも、これからは陛下と接することにも慣れていかなくては。
それに……聞かれたことは、身構えるようなことでも何でもないじゃない。
私はゆっくり息を吐くと、陛下の瞳を真っすぐ見つめ、泰然とした笑みを浮かべて見せる。
「彼女たちに、何らかの思惑があることは百も承知です。解雇せずに、手元に置いておいた方が良いと判断したまでのこと」
「ほう……。知ったうえで、あえて泳がせようというのか」
ルシャード陛下は、私の言葉に興味を持ったようだ。
私は一つ頷き、陛下の言葉を肯定する。
「私に付けられた侍女たちは……その、物凄くわかりやすいのです」
まず、全体的に顔に出やすい。
お飾り王妃を敬っていないのもそうだし、最近では不機嫌そうな表情を浮かべていることも少なくない。
主の望んだ姿でないことはわかりきっていただろうに、実に三年に渡り続けられた派手なドレスにゴテゴテの装飾、濃ゆいメイクがその証左だろう。
「彼女たちを選出したのが、先ほども話題に上った侍女長ということもありますし、確実に数名は今回の件に関係しているでしょう。残った者たちは、その一部の侍女や侍女長に強要されているだけと思われます」
侍女の一人であるロスバーグ公爵夫人の従妹などは、確実に関係者だろう。
王妃である私の情報を他所に流したり、これまでに受けた数々の嫌がらせを主導してきたものと考えられる。
けれどそれ以外の侍女は、親身という程ではないにしろ、それなりに私を案じてくれている者がいることもわかっている。
「一掃したところで、鬱陶しさが一時的に収まるだけ。その後はもっとわかりにくい形で、陰湿になっていくはず。それならば、怯えたまま泳がせておいた方が良いというのが、私の考えです」
既に嫁いだころからこうだったのだ。
面倒だから、というのが大きな理由ではあったし、身の危険を感じれば流石にこのままではいられないけれど、今のところ、向こうもそんなつもりはないのだろう。
物理的に害そうという気が感じられないうちは、正直今のままの環境に慣れているので……って、やっぱり面倒なのかしら、私?
ともあれ、私にとっても彼女たちには『気まぐれで行動の読めない王妃』と思われおいた方が好都合なのだ。
「王妃の考えはわかった。……だが、なにか変わったことがあればすぐに知らせてくれ」
「承知しました」
どうやら納得してもらえたみたい。
ブランカも、侍女たちの調査が終われば新しい人選は任せてほしいと言ってくれた。
口にした後、「信用してほしいなんて、今更だけど……」と彼女は言うけれど、曲がったことをしない性格なことは知っているので、「そのときはお願いしますね」と答える。
そういえば……ブランカの侍女たちは一新されていたように見えたけれど、以前までの侍女たちはどうしたのだろう?
これまで起きたことを考えれば、黒幕は別にいるにしろ、ある意味主犯とも言える働きをしたのは彼女たちなわけで。
聞けば、以前の騒動のどさくさで捕らえられているという。
現在の侍女長のように、調査のため軟禁状態に置かれているらしい。
過去の恋人たちは明白な処分理由があったけれど、お姫様であるブランカに長年仕えていた高位貴族の女性たちということもあり、慎重に対処する必要がある。
調査のためにも一斉解雇というわけにもいかず、全員が陰謀に加担していたのか、それとも一部はただブランカを大切に想うあまり義母の存在や受ける影響を憂いていただけなのか、その辺りも今後の調査で明らかにしたいということだった。
――幼いころより信頼を寄せていたはずの侍女たちに裏切られた上、その件を自ら調査するのは辛いでしょうに。
どれほどの年月が経とうとも、身近な人間に裏切られた辛さに、今も私は苛まれている。
目の前の美しい少女は態度や表情に出さないけれど、恋人たちのことも、侍女たちのことも……傷ついていないはずがないのだ。
真っ先に彼女への責任を言及した私が、今更言えたことじゃないのだけど。
そう思いながらも顔に出てしまったのか、ブランカは苦笑を浮かべる。
「……勿論、思うところはありますが。自身の愚かさを再確認するという意味でも、やはり私がすべきことなのです」
せめて彼女たちに関しては陛下や他の人間に任せてしまえば良いのにと、そう思った私だったけれど、キッパリと言い切ったブランカに対して何も言えなくなってしまう。
「――今回の件に関係があるかは、今のところ不明だが」
しんみりしてしまいそうになった空気を壊すように、ルシャード陛下が口を開く。
「先日のパーティーで不用意な発言をしたロスバーグ公爵夫人を筆頭に、公爵家の人間を王宮への出入り禁止とし、謹慎処分を下した」
「え……?」
「彼女の態度はあまりにも目に余ったもの。当然だわ」
思わず呆けた表情を浮かべてしまったけれど、ブランカも素の口調になっている。
「彼女には色々と黒い噂もあり……怪しい者たちとの繋がりを考えても、無関係と断定することは難しい」
私からもかなり怪しく映った公爵夫人は、陛下やブランカにも黒寄りのグレーと睨まれているようだ。
とはいえ今の時点では何の証拠もなく、公爵家相手となるとただの失言だけで聴取をするわけにもいかず、しばらく王宮に近づけない、という程度の対応しか取れないという。
「ただ、横恋慕オバサンは怪しいけれど、私と王妃の仲を裂くことで何をしたいのか、全く見えなくて不気味なのよね」
「!?」
あまりにハッキリと言うものだから、思わず陛下の顔色を伺ってしまう。
変わらない、と言えばそれまでだけど……元々ルシャード陛下は眉間に皺を寄せて厳しい表情を浮かべていたので、実の娘の発言に対してのリアクションなのか判断はつかない。
流石というか、何というか。
私の方が心臓に悪い。
ブランカの言う『不気味』というのは、目的が読めないからだろう。
陛下のことが好きなら、陛下に対して何らかのアクションがあるはずで。
お飾り王妃が気に入らないのなら、排除するために動くはず。
けれど、最も懐に入り込まれていたのはブランカだった。
王宮の侍女たちを動かしていることからも、黒幕は強い権力を持った人間だと推測できる。
けれど、そこにロスバーグ公爵夫人を当てはめると……色々とブレるのだ。
彼女の性格を考えても、気に入らない私とブランカを仲違いさせて楽しむ、というだけなら、このような陰謀を巡らせて遠回りなどしないだろう。
怪しい人物は絞り込まれつつあるけれど、まだまだわからないことの方が多い。
それについては、ブランカの今後の調査に期待するしかない。
私も微力ながら、力になれればと思う。
こうして、やけに物騒な家族会議は終了したのだった。




