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白雪姫の継母と鏡の向こうのオネェ  作者: 汐乃 渚


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フローラの事情



パーティーの翌日、明け方までフローラと話し込んでしまった私が目を覚ましたのはお昼過ぎになってからだった。

色々あった割に、過去を吐き出してスッキリしたのか、心は軽く晴れやかだ。


湯浴みと軽食を済ませると、パンツスタイルの服に着替えて一人『タイキョッ・ケーン』を行う。

これもフローラの指導の賜物で、動きだけなら私一人でもそれっぽくできるようになってきている。

すっかり習慣になった健康体操を終わらせたら、後は部屋着に着替えてゆっくりタイムだ。


ソファーでくつろぎながら読書をしているうちに、夕食が運ばれてくる。



「こんばんは、ヒルデ。ゆっくり休めたかしら?」

「はい、おかげさまで」



鏡に映し出されたフローラと挨拶を交わし、食事をとる。


フローラは今朝の朝食を家族と食べたそうだ。

聞いているだけで、賑やかで楽しそうな喧騒が聞こえてくるみたい。


仲の良さそうな家族の話を聞いているだけで微笑みが浮かぶ。


これから朝食は食堂でとるつもりだというフローラに、私は全力で賛成したのだった。



「食事の時間までずっと私に付き添わせてしまっていたので、私が言えた身ではないのですが、少し心苦しかったんです」

「そんなところだろうと思ったわ」



フローラは肩をすくめるけど、家族の団欒の時間を奪ってしまうのは本意ではないもの。

それでも、一人の食事は寂しいと言った私に今も付き合ってくれていることは、心底ありがたいと思う。



和やかなまま食事を終え、食後のお茶を飲んでいると、フローラは何気なさを装って口を開いた。



「昨夜はヒルデの過去について教えてもらったわけだし、今度はアタシの話を聞いて頂戴」

「え、はい……。フローラが良いのでしたら、喜んで」



戸惑いながら返事をすると、フローラは苦笑した。



「ヒルデは、アタシがどうしてこんな喋り方をしているのか、聞いたことがないわよね。『女になりたいのか』とか『女装はしないのか』とか、普通なら気になるものだと思うけれど」

「いえ……あの、物凄く繊細な話題ですし、聞いても良いものなのか判断がつきかねていたので」

「アンタって、ホントに遠慮の塊みたいな人よね」



うーん、遠慮とか、そういう類のものじゃないんだけど。



「別に、フローラはフローラですし。初めて会ったときは、それはもう圧倒されていましたから」

「まぁ、アタシほどの美しさなら当然よね」



ふふん、と胸を反らすフローラだけど、圧倒されたのは美貌よりも強引さだったような……。


というか、あのころは色々あり過ぎて混乱続きで、深く考える時間が無かったのよね。

気が付いたら慣れていたので、そういうものだと思っていたというのが近いかもしれない。



「アタシはアタシ、ね……。そんな風に言ってくれるのは家族とアンタくらいなものよ。今ではこの美しさのおかげで雑音も収まったけど、やっぱり奇異の目で見られることに変わりはないわ」



もう慣れたけど、と言ったフローラは平然としているのに、奥底にほんの少しだけの苦悩が滲んでいるように見えた。



「魔法師団の連中も今では慣れたみたいだけど、はじめのうちはえらく騒いだわ。連中は手っ取り早く、力でねじ伏せて黙らせたけど」

「手っ取り早く、力でねじ伏せちゃったんですね」



苦労人らしい副団長さんの悲鳴が聞こえてくるようだ。



「この喋り方のせいで厄介事はあったけど、この方が色々と上手くいくことがあるのよ――特に、結婚を避けたい第二王子としてはね」

「あ……」



確かに、気にならなかったと言えば嘘になる。

二十五歳といえば、良い年だ。

人のことは言えないけど、結婚して子供がいてもおかしくないし、貴族の次男ならともかく王子なら早々に婚約者が宛がわれたはずなのに、フローラからはまるで女性の影を感じることがなかった。



「顔も思い出せない婚約者がいた時期もあるわ。まぁ、すぐに立ち消えたのだけど」



深く憂いに満ちた表情が、美しいフローラの顔を翳らせる。


その後の結婚を厭うほど、その人に強く惹かれていたのかしら?

けれど……かつて愛した婚約者を思い出しているにしては、フローラの瞳は冷たく凍えるような色を帯びている。



「アタシはヒルデの元婚約者のように同性愛者なわけでも、心が女性なわけでもないわ。ヒルデとはまた違う理由で……結婚を避けてきたのよ」



そう言って、フローラは真剣な表情を私に向ける。



「ねぇ、これだけは理解しておいてほしいのだけど、アタシは別に今からする話を聞かせて、可哀想がって憐れんでほしいわけじゃないの。ヒルデの過去や今の境遇も、憐れんでいるわけじゃないのよ。アタシはただ、知っておいてほしいだけ。思い出すだけでもつらい過去を打ち明けてくれたヒルデにも、知っておいてほしいから」

「フローラ……えぇ、わかりました」



こちらも真剣に頷けば、美しい笑みが返ってきた。



それこそ酒飲み話で良いと言ったフローラに、首を振る。

真剣な話を聞くのに、アルコールで頭を鈍らせたくはないもの。


幸い、今夜はお茶も食後のフルーツもたっぷりある。

どれだけ長い話になろうと、問題ないだろう。



「もう、昔の話よ」



そうして始まったフローラの話は、彼……そう、彼が幼いころにまで遡る。



***



「今でこそ、この国は平和そのものだけど……クライノートでは以前、反乱が起きたことは知っているかしら?」



それは、フローラがまだフロリアン王子として過ごしていた、十歳のころだったそうだ。


母親であるクライノートの王妃が暗殺されたことに端を発して、王都は混乱の渦に叩き込まれたという。



「暗殺に、反乱……? 王妃殿下が亡くなられたという話は知っていましたけれど、やはりフローラのお母様だったのですね」



王妃の国葬も済まぬまま、通常ならば辺境付近で発生するはずの魔獣が王都付近に出現し大変な騒ぎになったという話は、当時父から聞かされた記憶がある。



「そう、国外ではそういう扱いになっているのね。あれはね、叔父上――当時王弟だったエルツベルガー公が起こした王位簒奪劇だったのよ」

「…………ッ!?」



今、私……もしかして聞いてはいけないクライノート王国の裏事情を聞いてしまっているんじゃ――?



「概要くらいは、シュヴァルツの王妃なら知っていてもおかしくないことよ。ルシャード陛下なら、間違いなく知っているでしょうし、この辺は周辺国の裏事情として覚えておいたら良いわ」



冷や汗をダラダラと流し始めた私に、フローラは何でもないことのように言うけれど……!


それなりに重たい話なのは覚悟していたものの、なんというかスケールが違い過ぎる。



「反乱を起こした王弟一派の最大の脅威が、類まれなる魔法の才能を持ち『稀代の魔女』とまで呼ばれた王妃だった。彼女は真っ先に狙われ――数多の刺客を道連れに、命を落としたの」



王宮が襲撃され、母親を含めた大勢の人々が亡くなったことをフロリアンがようやく知らされたのは、わけもわからぬまま大人たちに言われたとおりに逃げ延び身を寄せた先である、貴族の別邸でのことだったという。



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