誕生日パーティー
ルシャード陛下と並んでパーティー会場である王宮内のホールへ入ると、一斉に視線がこちらへ集中する。
フローラの言っていた通り、私はかなり貴族たちの感心を買っていたらしい。
入場の際はいつも静かなのに、今は息を呑む音がそこかしこから聞こえてくる。
視線の大半は陛下ではなく私に向いていて、少し見渡しただけで驚きの表情を浮かべている人間の多いこと!
思わずしり込みしてしまいそうになるけれど、今こそこのひと月の成果を見せつける場! と、フローラに鍛えられた威厳のある笑みを浮かべてみせる。
そんな私の態度も想定外だったのだろう。
会場内の多くの貴族たちは陛下に礼をとるのも忘れ、表情を取り繕えずに呆けた顔を晒している。
――やったよフローラ! 注目を独り占めだよ!
ここにいない陰の立役者に、精一杯の念を送る。
……まぁ、私にとって不躾なほどジロジロ見られるのは、いつものことながらあまり気持ちの良いものではないのだけど。
これを楽しめる境地には、まだまだ至れそうにはない。
立ち尽くした大勢の貴族たちを見かねて、横の方でブランカが大きく咳払いするのが聞こえる。
その音でようやく我に返った人々が、慌てて続々と礼をとり出した。
顔色が悪いご婦人たちは、私の見た目について陰口をたたいていた人たちかしら?
前の格好の方が威圧感があっただろうに、今の姿で怖がられるというのも変な話だ。
「私の誕生日を祝うため、集まってくれた皆に感謝する」
顔を上げるように言った後、陛下がよく通る低い声で短い挨拶の言葉を述べると、そこかしこからお祝いの言葉が聞こえてくる。
簡潔に終了した挨拶は、無駄を嫌う陛下らしいと常々思う。
私としては、短い分には一向に構わないし。
行列した貴族たちと、定型文のやり取りを繰り返す苦行を思い浮かべるとゾッとする。
いつもならこれで各々談笑に戻るのだけど、今日は発表があると、ブランカが前に立つ。
そこで彼女の口から、今後しばらくパーティー等の催しへの参加は控えると告げられた。
諸々の詳細を一切省いた宣言だけど、流石に理由を問う間抜けはこの場にはいない。
「今宵は楽しんでいってくれ」という陛下の言葉を皮切りに、ぞろぞろと人々が動き出した。
***
「お義母様! 素敵なドレスね。良く似合っていて、今日のお義母様は……とても美しいわ!」
「あら、ありがとうございます。……ブランカ姫も随分雰囲気が変わられたようですが、今日もとてもお美しいですね」
さっさと動き出した陛下の背中を見送っていると、早速ブランカが声をかけてきた。
既に謹慎モードに入っているのか、先日と同じく彼女にしては地味で控えめな装いをしているけれど、そこはやっぱり白雪姫。
華美な装飾などなくても、国一番の美少女は健在である。
いつもの年相応の喋り方に戻っているブランカに少しホッとしつつ、私に対してにこやかに褒め言葉を告げる彼女の様子に、先日のことで掌を返したのかと勘ぐってしまう。
第三者の介入があったにしろ、不仲だった過去は変わらないし苦手意識もまだ残っているけれど……楽しそうに様々な角度から今日の私の格好を眺めては感嘆の声を上げている彼女を見ていると、きっと元々裏表のない子なのだろうと思う。
――私の見た目に関して『ケバい見栄っ張りババア(意訳)』言っていたのは、確かにその通りだったし。
別に見栄を張ってああいう格好をしていたわけじゃないけれど、ブランカからはそう映っていたのだろう。
この間のことで、多少なりとも心境の変化もあったのでしょうね。
かつては私の格好をこき下ろしていたブランカだけど、新しい私の姿は気に入ったらしく、次々と言葉が飛んでくる。
「このドレス、コルセットがないのね。わざわざ補正しなくてもお義母様はスリムだから、シルエットが綺麗だわ」
「刺繍が大胆だけど、華やかさと品格がプラスされて良い感じね」
「一目見ただけでお義母様だとわかるのに、まるで別人みたいに変わっていて不思議!」
初めて見るドレスに目を輝かせているのは女の子らしいけど、コメントの一つ一つがフローラを連想させる……美人って、みんなこうなのかしら?
「凄いわ! 大変身ね、お義母様。どこからこんなアイデアが?」
「えぇと……今までは余計な装飾が多かったので、一度全部省いて、そこから色々と構想を追加していったら、こんな感じに」
「まぁ! アレからここまで作り上げるなんて、並大抵のことじゃないわ。あまり言いたくはありませんが、以前と比べれば雲泥の差ですもの」
国外に凄腕デザイナーがいると言うわけにいかないので、フローラと打ち合わせて作った設定を告げると、ブランカは真顔で頷いた。
彼女の中では、かつての私の格好は相当許せないものだったらしい。
その後もあれこれと質問して満足すると、ブランカは去っていった。
うーん……陛下と会話するよりはマシだけど、ブランカとの会話も気疲れしてしまうのよね。
だけどあれほど私を嫌っていた彼女だからこそ、今日の私の姿を両手放しで褒められたことは、素直に嬉しいと思う。
それから私は、纏わりつく周囲の視線を感じながら、両親のもとへ向かった。
両親とは、こういう機会でなければ顔を合わせることはない。
別に誰かを招待することは禁じられていないので、王宮に招くことは可能だけど、そうして会ったところでお互い辛いだけだもの。
何かあると周囲に思われても困るし……。
私の変わった姿を、両親も喜んでくれた。
痩せこけていく娘を心配する気持ちの方が強かったようで、新しいドレスや装飾ではなく、肉が付き血色の戻ってきた顔や腕に触れては「良かった良かった」と口にしている。
私も元気そうな両親を見れて良かったと、毎度のことながら思う。
差しさわりのない立ち話を終えると両親は私と別れ、知り合いの貴族の元へ挨拶に向かった。
私は喉が乾いたので、給仕からグラスを受け取って口に含む。
そうして喉を潤しているところにぞろぞろと現れたのは、ブランカとほぼ歳の変わらないくらいの若いご令嬢たち。
興奮しているのか、頬を紅潮させて私の元まで来たので声をかけると、丁寧に一人ずつ名乗っていく。
私は基本的にこういう場では遠巻きに見られるだけの存在だったので、こうしてマナーのしっかりしたお嬢さんたちと交流するのは、なんというか凄く新鮮。
「あの、先ほど皆で今夜の王妃陛下が美しくて目が離せなかったと話していたのです。そこでブランカ姫に、もっと近くで拝見させていただくと良いと勧めていただきまして……」
「初めて見るタイプのドレスですが、素敵に着こなしていらっしゃるのが流石王妃殿下ですわ。是非私たちにも、今お召しになっているドレスのことを聞かせてくださいませ!」
どうやら彼女たちは、新しい型のドレスに興味津々のようね。
ブランカが先ほどの話を膨らませて伝えたようで、若い子から送られる称賛の嵐がくすぐったい。
コルセットが無いのにどうして留まっているのか、ドレスの後ろはどうなっているのか、着心地はどうか、オフショルダーで寒くはないのか、などなど……ブランカが一人で納得していたところまで質問され、若者の熱気に圧倒されながらも、フローラのこだわりが詰まっているので一つ一つ丁寧に質問に答えていく。
こうして彼女たちと話していると、フローラが流行を気にしなくて良いと言った意味がよくわかる。
目新しければそれだけで興味を引くし、それが素敵なものに映っているなら猶更真似したくもなるだろう。
「私も着てみたい!」という声に、気を付けるポイントなんかを説明してあげると、物凄く喜ばれた。
しばらくすればフローラの狙い通り、似たようなデザインのドレスが出回るかもしれない。
周囲の熱気が冷めやらぬまま、今度は装飾品へ移った話題に応じながら、そう思ったのだった。




