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ブランカの報告



「お義母様、先日は私の恋人たちが大変失礼しました。不快な思いをさせてしまい、本当に……申し訳ありませんでした!」



部屋に入るなり、以前とは違う真剣な表情での謝罪に加えて、深々と大きく頭を下げたブランカを前に、私は戸惑いを隠せなかった。



あ……パーティーの件で何かあったわけじゃないのね。



騒動があったことなんて、対処を全て他人任せにしたのですっかり忘れていた。

不快さが喉元を過ぎた今になって思えば、引きこもる丁度良い言い訳ができてむしろラッキーとすら思っていたので、反省。


もうすぐ開かれる陛下の誕生日パーティーはブランカプレゼンツだし、私もフローラもその準備のことばかり考えて過ごしていたので、てっきりその件だと勘違いしてしまった。



そういえば、ブランカには騒動の原因になった彼女の恋人たちの処遇について任せていたのよね……。



王妃である私に対して、お姫様の名前を出して喧嘩を売ってきた無礼者と、愛人志望の遊び人。

ブランカの七人いる恋人のうち、二人が引き起こした厄介事。


だから彼らを管理できなかった責任を取らせるため、罰としてブランカが自分自身で何があったのか調べ上げ、けじめをつけるように命じたのが……約一か月前。

けじめをつけたら報告するように言っておいたけれど、まさかブランカ本人が来るなんて予想外だった。



私がブランカに会いたくない気持ち以上に、彼女の方が私に会いたくないだろうに、誠意を見せるためにこうして侍女ではなく本人がやって来たのだろう。



「謝罪にいらしたということは……私が命じた件は、全て完了したということでよろしいですか?」

「はい。私の方で、彼らの罪を暴いたうえで処罰しました。不足があった場合に備えて、お義母様が追加で沙汰を下せるよう、まだ王宮内の牢に捕えてあります」



そういえば、そんなことも言ったわね……。


お姫様を丸め込んで罰を軽くしようとする輩が出た場合を想定して言ってみたのだけど、ブランカのこの様子なら私が追加でどうこうする必要は無いだろう。



「……長い報告になりそうですので、どうぞおかけになって」

「ですが……」



椅子を勧めたのに逡巡するブランカを見て、再び首を傾げる。

勧める前にちゃっかり座っているくらいのイメージなのに、なんだかブランカらしくない。


ブランカの連れてきた侍女が紙束を持っているので、詳細を説明するものと思っていたけれど、概要だけならそんなに時間もかからないってことかしら?


すぐに終わるなら、それでも良いかも――



「その、謝罪と自分の不手際を報告に来た身で座るのは、ちょっと……」



いや真面目!!!!



ますますブランカらしくない……ううん、陛下の血を継いでいるなら、そういう部分もあるのかも?

見れば、今日のブランカはいつものリボンやフリルたっぷりの愛らしい軽装ドレスではなく、シンプルで落ち着いた訪問着である。


この子、TPOとかちゃんと弁えられたのね……!


我儘放題のイメージしかないので、意外な発見。



とはいえ、ブランカだけ立たせておくのも居心地が悪い。



「姫を立たせたままにしておくなんて、私が落ち着けませんので、どうぞおかけください」

「お義母様が、そう仰るのでしたら……」



本気で申し訳なさそうにしているブランカなんて、そうそう拝めるものじゃない。


とはいえ……これはこれで、素直過ぎて変な感じがするけれど。



お互い、向かい合わせのソファーに座ると、ブランカは侍女から資料を受け取り――人払いを願い出た。


断る理由もないので、お茶の用意を終わらせた私とブランカの侍女たちがぞろぞろと退室していくのを眺める。

全員立ち去ったのを確認すると、ブランカは再び口を開いた。



「ではまず、あの日起きた出来事について実態調査を行った報告ですが――」



あの騒動で実際何があったのか、ブランカは直接目撃したわけじゃない。


彼女が見たのは、激昂する私と捕えられた恋人たちの姿だ。

説明も面倒だったし、私の説明で納得してくれるとも思えなかったので、ブランカには自分で調べるように言ったけれど、結構本格的に調べたみたい。


私は当事者だからあの場で何があったのか知っているけれど、自分で説明しなかったのは、それ以外の情報で判断するようにという指示だとブランカは解釈したらしい。

私のところにも聞きに来るかと思ったけど、来なかったのはそういうことだろう。



「あえてお義母様が直接ご説明なさるのではなく私自身で調べるように仰ったのは、周囲の者を疑えという、お義母様のご慧眼の賜物だったのですね!」

「んん?」



初っ端から、何を言っているのかよくわからない。


疑うも何も、やらかしたおバカさんが七人いる恋人のうちの二人なんだから、慧眼とかいうレベルではないのだけど……。

ヨイショされているのかと思いきや、ブランカは本気で感心しているようで、再び首を傾げる。


い、一体どうしたっていうの……?

というか、このブランカは本当に私の知っているブランカなの?


別人じゃないのかと疑ってしまうほど、今までと態度が違い過ぎる。

見た目はいつも通り可愛らしい白雪姫……と言いたいところだけど、流石に疲れが滲んで見える。


私がフローラと一緒にパーティー準備に浮かれている中、ブランカは主催としての段取りに加えて恋人たちの不始末の対応に奔走していたのだから、当然と言えば当然か。

後回しでも良かったのではと思うけれど、抱え込んだままパーティーを開催した方が余計に面倒になるので、何とか間に合わせたのかもしれない。



それはそうと、どれだけ思い返してもブランカが私の何に感心しているのか、全く思い当たらない。



「ちょっと、言ってる意味がわからな――」

「まぁ! 私ったら、先走ってしまいました。そうですね、順を追って説明します」



食い気味に言葉を被せるのは、いつものことか。


なんというか、知らないブランカと知っているブランカが交互に出てきて、反応に疲れる。

余計な口を挟まずに、大人しく聞いておこう……。



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