~涙するにもほどがある!13~
「知らない天井だ」
結人は目を開けると見慣れない天井が広がっていて、昔見たアニメのセリフをついつい言いたくなって口にしてみた。俺はどうなったんだ? 魔王の儀の最中にオルクスの結晶が体に入ってきて……そこまで思い出した時、何とも言えない頭痛に苛まれ思わずこめかみを押さえる。
なんだこれ、めちゃくちゃ頭が痛い。そうか、オルクスが暴走したんだ。それからどうなったのか記憶が全くない。頭を押さえている手を見てみたが今回は魔物化しなかったのか、手は普段の結人の手だった。
まだガンガンしている頭を押さえながら、きしむ身体を起こして自分がベッドにいるのだと初めて気が付いた。その横ではティスが木で出来た丸椅子に座りベッドにうつぶせになるような感じで眠っていた。
結人は状況を教えてもらおうと声を掛けかけようとしたところでティスが目を覚まし、ゆっくりと上体を起こした。
「私としたことが眠ってしまっていた」
そこで結人と目が合うなりものすごく安心した表情になる。ティスがここまで顔に出すのは珍しい。余程心配をかけたのだろう。結人は上半身を起こそうと体勢を変えたところで、ティスが今度は勢いよく立ち上がり、体を起こそうとする結人を無理に押しとどめる。
「まだ横になっていた方がいい! あの後結人殿は五日近く眠っていたのだから。待っていてくれ、すぐにラプソディア殿を呼んでくるから」
そう言ってティスは慌てて部屋から飛び出していった。五日……そこまで寝ていたという感覚がなかった。それにしても五日も眠っていたとなると、リアは無事でいるだろうか? 当初の目的であったリアに関する手がかりはなにか見つかったのだろうか?
意識がまだボーっとする中、回らない頭で色々と考えていると、どたどたと慌ただしい足音が聞こえ扉が勢いよく放たれた。てっきりラプソディアが駆け込んできたのかと思いきや、なんだか少し高揚した顔で頬を赤らめたオピスが入ってくるなり結人めがけて蛇のような体躯を生かして飛び掛かってきたのだった。
「ゆ・う・と・さ・ま~♡」
突然ベッドの上から声が降ってきたかと思うとオピスが文字通り飛びかかってきた。今結人は、仰向けに寝転んでいる状態で、奇襲を仕掛けるかのような華麗な飛び込みをかわせるはずもなく、結人はあっけなくオピスに押しつぶされる形となる。オピスは結人の頭を抱え込むようにして自分の頬をすりすりとこすりつけていたが、当の結人はオピスの胸で息が詰まり、柔らかですべすべの感触を楽しむ間もなく死にそうだ。
「う、うるしい」
何とか抵抗しようと声を出してみたが、うまく言葉にならなかった。オピスはたぶん結人の身を案じてすり寄ってくれているのだろうが、ここはもう正当防衛ということにしてオルクスを練り上げまた弾き飛ばすしかないなどと考えていた矢先、これまたどたどたと、しかし先ほどより軽やかな三人分の足音が聞こえ開け放ったままだった扉から勢いよく入ってきた。今度は間違いなくティスとラプソディアだ。それに黄緑色の髪をしたメイド服を着たラビアも一緒だ。
結人は必死に助けを求めて手を伸ばすが、腕ごと抱きしめられているので思ったように動かせない。オピスはまだ胸を顔に押し当てたまま結人の頭をすりすりと頬ずりしているのを見かねたラプソディアが否応なしにオピスの首根っこをひっつかみ力技で廊下へと引っ張っていく。デジャヴだ。
「あー、助かった。危うくもう少しで窒息するところだった」
後ろ手に何事もなかったかのように「パタン」とドアを閉め鍵までかけたラプソディアはいたって涼しげな表情で一仕事終えましたと言わんばかりに白い手袋をぱんぱんと払っている。後ろの扉から「ラプソディア様、あんまりです」だの「ここを開けてください」と何やら騒いでいるようだったが、とりあえず流すことにしてラプソディアに礼を言う。
「ありがとう、ラプソディア。色々心配かけたみたいでごめんね」
「結人様が謝られることではございません。それにお礼ならティス様に。あちらに別室をご用意いたしますと言ってもここを離れようとはしなかったので」
ラプソディアは少し苦笑しながらティスに「ですよね?」と視線で送ると、珍しくティスが赤面し「それは言わない約束だろう」などと話し合っている。どうやら結人が寝ている間にかなり打ち解けられたようで何よりだった。
「あ、あの。ほんとにごめんなさい! 魔王様」
今までラプソディアに半分隠れるように立っていたラビアが結人に近づいてくるなりいきなり頭を下げる。今何か聞こえた気がしたが、あえて聞き流すことにし結人はゆっくりと上体を起こしながらラビアの頭を撫でてやる。
「もう謝らなくて大丈夫だよ。約束通りいろんなことお話ししよう」
「はい。あと、これから魔王様の身の回りのお世話をさせていただくラビアです。どうかよろしくお願いします」
身の回りのお世話? いやまて、それよりも魔王様と言われたよな。さすがに二回も立て続けに言われては聞き流すことなどできない。これまたデジャヴだ。
「あー、身の回りの世話は置いといて、俺魔王になったの? 全然そんな記憶にないんだけど」
ラビアの頭をなでながらラプソディアに確認するとさわやかな笑みで肯定の返事が返ってきた。
「ええ。結人魔王陛下。あなた様は確かに皆に認められる魔王陛下となられましたよ!」
~おもちろトーク~
ラビア「あ、あの結人様」
結人 「?どうした」
ラビア「あの、服が裏表逆な気がします」
ティス(あっ)
今作もお読みいただきありがとうございます♪
知らないうちに魔王になっちゃいましたね(笑)皆さんも朝目が覚めたら社長になっていた!なんてことがあるかもしれませんよ!(笑)
相変わらず花粉と戦っているゆるふわです。最近小説を書きたいと思いつつも、仕事から帰って疲れて頭が回らず結局断念するといった事態が続いているので少し困っているのですが、なんとか週一ペースは崩さないよう頑張っていきますので応援よろしくお願いいたします。
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