第四十七話 MotherOne
マザー1の内部は機械だけで、生命を一切感じない。
その全容は知れず、天井はあまりに高く少し霞がかかっている。工場内は果てが見えず、辺りは工作機械ばかりである。それは世界全土を覆うかと思うほどの広大さだった。
ただの生産工場を切り詰め最大効率を発揮するためだけの施設。巨兵製造を目的とされた徹底的に最適化された製造工場がマザー1だった。
そこでアディバイス・アイギスは膝を突き、どうすることもできなくなっていた。
突き刺す痛み、正体をつかめないそれはクイーン型と同じである。宗二は空間断裂フィールドを展開し、攻撃に備えるが、無慈悲にも攻撃を防ぐことはできない。
(何が起こっている? もっと周りを見て現状を把握しろ)
宗二は前後左右を確認、そして上を見ると何かがこちらを見つめている。瞬間、光ったと同時に痛みを感じる。
(これは、レーザー? 工場にあると聞いたが、こうやって侵入者を撃退するようになっているのか!)
レーザーの回避を諦めた宗二は先に進むことを決めた。狙いさえつけられなければ、あまり当たらない。じっとしているよりダメージは少ない。
スラスターを全開にしてマザー1内を駆ける。だが、何処へ行っても製造機械しかない。
(ここは巨大製造工場、だったら壊さないと意味が無い。だが、どうやって壊す?)
たどり着くことはできた。だが、壊す方法が無い。バリアで守ることしかできないアディバイスではどうしようもない。
(何かないのか……壊すことの出来る何かが……)
レーザーから逃げるために工場内を走り続ける。
(アディバイス・アイギスに追加された機能は「空間断裂フィールド」に「空間断裂バリア」)
宗二は思い出す。
『全ての攻撃を無効化せしめる無敵の盾、空間断裂バリア。文字通り空間を切り裂く』
老人は確かにこう言った。
(空間断裂バリア!)
宗二は右手に意識を集中させる。小手が展開してバリアが発生する。それは黒いバリア。空間を切り裂く絶対無敵の盾。だが、それは全てを切り裂く矛でもある。
展開と同時に生産機械が切断され、火花を上げ壊れていく。
(壊せる! これなら)
アディバイス・アイギスは空間断裂バリアを使い、工場を壊していく。その度にディスプレイに写る「警告」の文字がどんどん増えていく。
断裂バリアを使うには少し動きが止まる。その際にレーザーで貫かれ確実にダメージが蓄積していく。
しかも、使うたびに腕が痛む。恐らく、何度も使うことを想定されていない。連続して使うと腕自体が壊れていく。
(このままだ、このままマザー1の内部を壊して回ればきっと機能が停止する!)
宗二は工場内を駆け巡り、次々に工作機械を破壊し続ける。警告の文字を無視し続けた。いずれ、ディスプレイにどこかの景色が写りこんでくる。
それは王都が焼かれた景色。ビショップのレーザーによって城壁が溶けきって、城壁内に巨兵が入ってきている。
それは村が多くの巨兵に蹂躙される景色。赤い銃士、デュエリアルが半壊していた。
次々に各都市が巨兵によって破壊される様がディスプレイに映し出され埋め尽くしていく。
「何のつもりだ! こんなものを見せて! 僕がやっていることは無意味だといいたいのか!」
宗二の怒りは頂点に達し、アディバイス・アイギスの機能をフルに使い始めた。スラスターを使い全力で駆けながら、左右の手を交互に使い、空間断裂バリアで空間を裂いていく。
徐々に限界を超えていくアディバイス・アイギスの装甲が壊れていく。それに従い宗二の全身には激痛が走る。
雑になっていく行動にレーザーが追いついてきた。
「がっ!!!」
右足がレーザーによって切り落とされる。その痛みは足を動かせなくなるほど。痛覚を弱くしたことで、麻痺までいくことはなく激痛で留まっている。機能の緩和により、逆に苦しめることになっていた。
それでも、スラスターで移動するアディバイス・アイギスは前進を続ける。
(この工場は広い。何処まで壊せばいいかわからない)
ひたすらにバリアを張り続け、工場を破壊していく。右手でバリアを発生させ、次に左手、その繰り返し。
あまりにも広いマザー1にはどれだけダメージを与えたか全くわからない。
次にレーザーによって切断されたのは左腕、交互にバリアを張ることはできなくなった。
残ったのは右腕だけ。
(まだだ、まだいける。破壊し続けないと)
バリアを張る時間が少なくなり、ついに左足も切断されてしまう。
(何処まで壊した? いつ終わる? 何処まで持つ?)
限界をとうに超えている宗二は考えすらまともに纏まらなくなる。
そこに、ディスプレイへ矢印が表示される。進むにつれてその矢印は方向を変え。まるで誘導しているように見えた。
(そこにいけば終わるのか?)
何かにすがるように宗二はその矢印に沿って移動していく。
バリアを張りながら、矢印を追っていく。何度も体を貫かれても、残った右腕を頼りに進んでいく。
それは、地獄の責め苦すら生ぬるいほどの苦痛だった。
何処まで行くのか、何をしたらいいのか、いつ終わるのか、まるでわからない。
そして、いずれ酷使に耐えられなくなった右手が動かなくなり、体を貫いたレーザーがコックピットを破壊し、その破片が宗二のわき腹を抉った。
(頼む、まだ動いてくれ)
欠けたディスプレイの端には今でも「警告」の文字が見える。都市が巨兵に蹂躙する様が見える。それは、宗二の意思を決意を奪っていく。
だが、いつしか、矢印は消えていた。
完全に機能を停止したアディバイス・アイギスはその場でくずおれた。
(ここまでか……ここで終わりか……)
かすむ視界が捕らえたのは半壊したディスプレイに映るのは、人が通るような階段だった。
(ここに制御室とかあるのかもしれない。そこに行けば……)
宗二はアディバイス・アイギスから這い出るとその姿を改めて見る。
装甲は完全に割れ、破損し、中の機械が丸出しになっている部分がある。純白だった色も溶けて黒く変色している。両足、左腕はなくなり、残った右腕も亀裂が走り壊れる寸前だった。
(今までありがとう、アディバイス)
これで宗二は本当の意味で1人となった。この先は自分の力だけで進まなくてはならない。
歩き出そうとして、足に激痛が走る。結局、あまりの痛さに動かすことができない。
地面に倒れても前に進もうとする。動くのは右腕のみ、匍匐前進するように階段へと近づいていく。
(痛い、わき腹から血が出てる……)
血の痕を残しながら階段前まで這いずってきた。ここからは一段一段登っていくことしかできない。
「はぁ……はぁ……」
息が上がっていく。限界は既に超えていた。今、宗二を動かしているのは気合だけ。マザー1を倒すその1点のみ。
(これは僕にしかできない。僕がしなくてはいけないんだ)
動く度に全身が痛み顔をしかめる。わき腹か出る血は宗二の意識を削っていく。
どれだけ階段を上ったのか、宗二には全くわからない。ただ、上があるから上っているだけだった。
(この先に行けば、マザー1を止める方法があるはず)
何の根拠もない思い込みだったが、この先に行けば全てを終わらせる事ができると信じていた。
もう、ここが終わりだと縋りつくしかなかった。




