第三十四話 宣言
宗二達はおなじみとなった会議室に集まっていた。
ドゥメジティを筆頭に、キシリエ、リフォーシャ、レン、宗二、ファル、ドッドの7名である。
最近の会議には出席していなかったリフォーシャまで参加していた。
急ぎ集まってもらったと、ドゥメジティの言葉があった。これは当然、先日遭遇した杖のように長いライフルを携えた巨兵についてだろうと、宗二は考えた。
「分かっていると思うが、ソージ殿が出会ったという新種の巨兵についてだ。報告があった後、巨兵の調査を行ったが、期待できる結果は得られなかった」
それは当然だと、宗二は思っていた。ビーム兵器なんて、現代でも有効な兵器として実現していない。その理論はあれど、それは机上のものだ。それを中世程度の知識しかない人達にそれが何なのか理解できないだろう。
当然、宗二自信もまるで理解していない。空想上のものでしかない。
「ここは実際に調査を行ってもらったリフォーシャに話しを聞くことにする。手短に頼む」
「お呼びに預かったリフォーシャだ。本当は小一時間ほど話したいが、そこは自重しておく」
会議室の中央にある机に地図を広げる。宗二と巨兵が戦った山岳辺りが記されおり、筆で何かしらの文字が書かれている。宗二の読解力ではただの文字の羅列でしかなく、まるで成長していない。
「この度現れた巨兵はビームという奴で強力な攻撃を放ったそうです。その攻撃の射程を測ってみた結果、計測不可能だった。あまりにも長すぎて、今の単位では表せない。だが、あの巨兵の位置から王都を狙撃する事が出来たのではないか、とうい予想が出来る」
そこまでのものだったのかと、宗二は戦慄した。そんな攻撃をアディバイスのバリアは弾いたのだ、最初は巨兵の剣を受けるのも難しかったのが嘘のようだ。
だが、実際にそこまでの威力がないことも宗二は知っていた。彼らは減衰を考慮していないのではないかと考えていた。そこのところは誰にも分からない。
「それと、爆発した巨兵のかけらを調べていたが、全く成果は得られなかった。起動不能になった巨兵からデータと同じくその構造は全く理解できていない。それでも大まかな体型は判明した。ソージ殿からの証言を元にしたものなので、なんとも不甲斐ない」
リフォーシャの内容は宗二が目にした巨兵の情報と殆ど変わらなかった。杖のような長い武器を持ち、巨大な物を背負っており、足が短く歩行に適していない。そのため、今まで瞬間移動を繰り返してきたのではないかと推測されていた。
その姿から、ビーム兵器を搭載した巨兵をビショップと呼称されることになった。(命名:ドゥメジティ)
他に分かったこともあった。
巨兵のビームは明らかにアディバイスを狙ったものであったということだ。今まではただ壊すだけの存在だったが、今回は守護者、もしくは人工物を壊そうとしていた。
何故なら、その巨兵の攻撃はその戦闘以外で使われた形跡がない。あの出力のビームなら今まで以上に壊せるはずだが、使った様子が一切なかった。
攻撃があったのは3回、ザインズ・サイレスの右腕を吹き飛ばした1回目、宗二が正面から受けた2回目、最後は強引に上に逸らした3回目。
それだけだった。
「今後はどうなるか分かりませんが、唯一つ確実に言える事があります。これは我々にとって脅威になるということです。あの攻撃はソージ殿の守護機装が使うバリアでしか防げません」
ザインズ・サイレスの状態を見ればバリア以外で防ぐことは出来ないと結論付け手もおかしくない。
撃たれる前に討つ、しかし、相手の射程は無限に近い。
すでに人類は詰みの一歩手前であった。
「ありがとう、リフォーシャ。この報告で君たちも理解できたと思うが、もう、守っていても勝ち目はないということだ」
それは宗二はともかく、他の参加者にも切実に伝わっていた。
「そこで、我々は巨兵の本拠地を叩く方を選ぶことにした。その為に、巨兵拠点攻略部隊を結成しようと考えている」
会議室は固唾を呑むように静かな雰囲気になった。皆がドゥメジティを言葉を待つ。
「部隊はソージ殿の守護機装を中心にキシリエの守護誓祈、レン殿の守護刀剣の3機で拠点を強襲する。我々にはもう時間が無い」
宗二は手をぐっと握り締めた。
拠点強襲。
もし、成功したらこの戦いも終わり、世界は救われるのだ。ようやくここまで来たのだと、宗二は緊張を強めた。
「この後、王による宣言が執り行われる。それまでは自由にしていてください」
言うことだけ言って、ドゥメジティは会議室を後にする。彼にはとってこれは前哨に過ぎない、本当の執務はこれからなのだ。
「ついに主役だってな! やるじゃねぇか、宗二!」
「そうですね、最初はこんなことになるとは思いませんでした」
レンはアディバイスの力を褒めていたが、キシリエはむしろ軽んじていた節があった。
宗二がここまでこれたのは一重に皆の力があったが故である。
「俺たちもついていくからな」
「ソージくんは馬も乗れないし、誰かが荷物を持ったほうが役に立つでしょ?」
この5人なら、どんな困難も乗り越えられる気がしてくる。
巨兵と戦い続けていたレンとキシリエ。いつも傍らで助けてくれるファルとドッド。このメンバーがいれば敵はいない。
「はい、よろしくお願いします」
宗二、ファル、ドッドの3人は会議室を出ると医務室へ赴いていた。それは、寂しくしてるであろうファーテチカに会うためだった。
ザインズ・サイレスが右腕を失ってからそれなりに時間は経ったが、その傷は癒えきっていない。
「ファーテチカ、元気にしてましたか?」
宗二の声にファーテチカは笑顔で応える。
まだ、本調子ではないのか、いつものように元気な声で応えるのは難しいようだ。布団からはみ出ている右腕は痛々しく包帯が隙間無く巻かれていた。
宗二の右手にも同じように包帯が巻かれている。アディバイスも同じように右手首から先を失っていた為だ。アディバイス自体は修復されており、問題ないように思えた。
だが、乗り手のダメージは深い。痛む右手には鎮痛作用のある薬草が塗られているのだが、痛みが引くことは無い。これは怪我ではなく、ただの痛みなのだ。治療の施しようが無い。ただただ痛くなくなるのを待つしかない。
「あ、お兄ちゃん……ごめんね。今日も会議があったんでしょ? サボっちゃった」
「もう、ファーテチカちゃんはそんな事、気にしなくていいから! 私たちがやってきたから安心してね」
宗二とファルは笑顔で彼女と遊んでいたが、無言だったドッドが口を開いた。
「ファーテチカ、俺たちは巨兵の本拠地を叩く。一緒に来ようと思うか?」
宗二はドッドがわざと断りやすいような質問をしていることに気が付く。
宗二もドッドと同じでファーテチカにはここにいて欲しかった。本拠地強襲は多くの巨兵と戦うことになるだろう。ファーテチカはまだ精神的に幼い。そんな彼女を戦地へ行くべきではないと思っていた。
「うん……留守番してるわ。お兄ちゃんがいないのは寂しいけど……悪い巨兵を倒してくれるって信じてかるから」
少し眉根を寄せて今にも泣きそうだったが、それをぐっとこらえているように見えた。見た目が成人女性なので、妙に艶やかで宗二はドキドキしてしまっていた。
「ははは、もうそろそろ時間だから、玉座の間に行ってきますねー」
ファルはその強大な力で宗二の頬をつねり上げながら引っ張っていく。ドッドもこれは仕方ないと思ったのか、特に何も言わずに付いて来る。
「ふぉれほゃーふぇ、ふぁーふぇふぃふぁ(それじゃあね、ファーテチカ)」
5人の戦士は誰もいない玉座に傅いていた。国王から宣言を受けるためにこの玉座にいる。もう決定したことではあっても、儀礼は必要である。
静かでピンと空気が張り詰めるこの場にファー付きの赤いマントをはおい、頭に金の王冠、手に金の杖を携えて国王がゆっくりと入室してくる。その隣には大臣であるドゥメジティが付き添っている。
尊大な様子で玉座に座ると一息つく。
「新たな巨兵が現れ、我が王国は未曾有の危機に立たされている。これを打破するため、ここにいる戦士たちに命を下す」
次に国王は手の杖を掲げる。
「今、ディフェト7世は宣言する! ここに巨兵拠点攻略部隊を結成する! 巨兵が来るとされる汚染地帯へ赴き、巨兵の本拠地を殲滅するのだ! 必ず巨兵を打ち倒せ! 行け! 戦士たちよ!」
「「はっ!」」
宣言を終えると、国王はさっさと退場していく。ああ見えても国務で忙しいそうだ。
それに付き添い、ドゥメジティも玉座の間を後にした。