71話 名誉挽回の尾行
「くっ、まずいのである……このままでは我輩の面目丸潰れなのである!」
ドラムは口元を歪ませながら、海上都市サッティンバーグ上空を飛行していた。
オルガの怒りを買い、どのように名誉挽回を図るのか思案を巡らせているのだ。
「うーむ、やはり二人の動向が気になるのである……そうだ! いざという時に助太刀出来るよう、我輩が密かに見守ってやれば良いのである! さり気なく助ける事が出来れば、先の失敗を挽回出来るかもしれぬ! よし、そうと決まれば二人の後を追うのである!!」
ドラムは己の活躍する姿を思い浮かべながら、オルガ達を追跡する事を決めるとワイバーンタクシー乗り場へと引き返すのだった。
※ ※ ※
一方、オルガとニャイはドラムと別れると、暫しの抱擁を終え、これからの予定について話し合おうとしていた。
「そうだ、ニャイ……これから何処へ行きたい?」
「えーと……か、買い物に行きたいニ!」
「買い物……か。よし行こう! 今日は楽しい一日にするぞ!」
「うん! ウチらの思い出の第一歩だニ!」
オルガは少し戸惑った様子を見せたが、すぐにニャイへ頷くと、二人は天空都市スカイラインの城下町へ向け歩き出す。
二人が暫く歩いていると、ニャイは顔を赤らめながら左手をそっとオルガへ差し出した。
「んっ……」
「ん!? ……んっ」
オルガは首を傾げたが、すぐに意味を理解し右手をニャイの左手に絡める。
ニャイの手はオルガの手に隠れる程、小さくか細い。
オルガはそんなニャイの手を眺めると、ニャイはそれに反応しオルガを見遣る。
ニャイとオルガは目線が合うと、咄嗟に顔を背けた。
そしてオルガは密かに思う。
(ニャイの手は、なんと小さく細いのだろう。なのにこんなにも愛らしい。この世界の何よりも、この手が尊く見える。そうだ、オレはこの子を全力で護るんだ。何があっても、全力で……)
ニャイに対する想いを決め心の中で強く頷くと、より一層ニャイの手を握りしめた。
※ ※ ※
ニャイとオルガは天空都市スカイラインの城下町へ着くと、ウインドウショッピングを楽しんでいた。
だが、そんな二人を影から追う者が一人……
「うーむ、ここまでは良い雰囲気なのである……」
ドラムは先の失敗を払拭する為、ニャイとオルガを尾けながら独り言ちていた。
しかし、眼前の二人に気を取られ、背後から迫る人影にドラムは気付いていない。
人影は怪しく嗤いながらドラムに迫る……
「おや、ドラムじゃないかい! 何してんだい、こんな所で?」
「あわわわわ! ……なんだ、ラビではないか! 脅かすでない! 我輩、今忙しいのである……」
ドラムが振り返ると“人間お断りの居酒屋”の店主ラビが笑顔で覗き込んでいた。
だが、ドラムは面倒臭そうに顔を正面へ向ける。
「なんだいなんだい、ツレないねぇ! アタイが折角声掛けてやったのに、そんな冷たい態度なんてあんまりじゃないかい!」
「シーッ! 声が大きいのである! 二人に見つかってしまったら、また怒られてしまうのである……」
ラビの大声に焦るドラムは口元に指を立てた。
しかし、ラビは御構い無しにドラムの視線の先を眺める。
「おや、あれはニャイとオルガだねぇ。はは〜ん! ドラム、アンタ二人のデートの覗き見してたんだね?」
「覗っ!? ……人聞きの悪い事を言わないで欲しいのである! 我輩はただ、二人に何かあったときに助けてあげられるように見守っているだけなのである!!」
「ふ〜ん。そうかいそうかい。そんならアタイもアンタと一緒に“見守らせて”もらおうかね!」
「むむっ!? ……くっ、仕方ないのである。しかし、くれぐれも見つからぬように頼むのである!」
「大丈夫だって、アタイはそんなヘマしないよ! それよりドラム! アンタこと大丈夫かい? アンタの動きは側から見たら不審者だよ!? もっと堂々としなよ! 堂々と!!」
ラビはドラムに喝を入れると、ドンと背中を叩いた。
「うっ! うーむ、面倒なのが付いてきたのである……」
ドラムはラビをジト目で見遣りながら苦笑する。
「アンタ、なんか言った?」
「い、いや、何でもないのである……あっ! 二人が店に入ったのである! 我輩達も急ぐのである!」
ドラムが正面を向き直ると、ニャイとオルガは店の看板を指差し、店内へ入ろうとしていた。
これ幸いとラビの話を逸らすように、ドラムもオルガとニャイの後を追って店の中へ入っていく。
「ちょっと待ちなよ、あんな狭い店に入っていったら見つかっちまうよ!」
「大丈夫なのである! 意外と中は広いのである!」
「あっ、そういう問題じゃないだろう? アンタ、待ちなって! ……もう知らないよ!?」
そしてラビも不服そうにドラムに続いて入店するのだった。
※ ※ ※
ニャイは衣料品店を指差して立ち止まった。
「えーと、まずは着替えるんだニ!」
「ここに……入るのか?」
オルガは店の看板を指差しながら不思議そうに首を傾げている。
尻尾の付け根を丸出しにした服は、社会の窓を開けているような格好だ。
しかし、オルガの頭にその常識は無く、ニャイの意図が読めていない。
「着替える? ニャイはそのままで十分……か、かわいいと思うが」
「かっ……ち、違うんだニ! 着替えるのはオルガさんだニ! その服はみっともないニ! ウチはオルガさんが笑われるのは見たくないニ……」
ニャイは顔を赤らめながらオルガに返すと、オルガはニャイの考えを理解し二人して顔を紅く染めながら俯く。
「そ、そうなのか……すまない」
「ううん。さあ、入るんだニ!」
二人がゆっくりと店内へ歩を進めると、店員がオルガ達に気付き、揉み手をしながら近付いてくる。
「はいはいはい、いらっしゃいませ! 本日はどういった御用件でしょうか?」
「えーと、この人に合う服が欲しいんだニ!」
二人の前に現れた店員は、突き出た前歯が特徴的で茶色の美しい鬣を靡かせている。
おそらく馬系の獣人だろう。
店員はオルガの姿をチラリと見遣ると、鼻息を荒くしながら頷いた。
「ええ、ええ、ええ、畏まりました! お客様にピッタリの服を持って参りますので暫しお待ちを!」
店員は店の奥へ下がると、二人はまじまじと辺りをを見回す。
外観とは裏腹に意外と広い店内には、所狭しと様々な服が掛けられている。
オルガが礼服を購入した店とは違い、ラフな服が多い。
日本の服と比べれば色彩はやや劣ってはいるが、細部まで丁寧に装飾が施された服が並んでいる。
「あっ、これなんてどうかニ?」
ニャイは掛けられている服を手に取ると、オルガの胸にあてた。
オルガは照れくさそうにニャイに身を任せている。
「ど、どうだ?」
「うーん、もっと離した方が見易いニ……」
ニャイはオルガの胸に服を当てるも、見難そうに体を離そうとしている。
だが、二人の身長差は頭二つ分以上もあり、ニャイは次第に爪先立ちとなっていく……
「うーん、うーん、うにゃっ!!」
「うおっ! 大丈夫か?」
ニャイはバランスを崩すと、オルガの胸に倒れ込んだ。
オルガは咄嗟にニャイを抱きかかえると、ニャイはオルガの胸に顔を埋めた。
そこへ服を持った店員が二人の元へ戻るも、状況を察して笑顔で静止している。
「うーっ、あったかいニ……ハッ!?」
ニャイは我に帰ると、咄嗟に背後を振り返る。
すると店員の生暖かい視線が突き刺さり、二人は恥ずかしそうに姿勢を正す。
「ではではでは、こちらの服をお試しください!」
店員の手には2着の上着が抱えられていた。
色はピンクと水色で異なるが、デザインは統一されている。
「こ、これは、お揃いだニ……」
「ええ、ええ、ええ、お二人にピッタリかと思いますが如何でしょう?」
ニャイとオルガは渡された服を胸にあてて向き合うと、互いに上から下へと視線を巡らせる。
「オルガさんの色、似合ってるニ!」
「ニャイも良いと思うぞ!」
二人は頷くと、店員へ向き直り声を揃える。
「「これで!」」
「では、では、では、金貨1枚になります!」
オルガは金貨を店員へ渡そうとするが、ニャイにそっと腕を掴まれ止められる。
「買い物に行きたいって言ったのはウチだニ! だから、ここはウチが出すニ!」
「いや、オレが出そう。好きな子の為に使う金なんだ。ここはオレに出させてくれ!」
「あ、ありがとうニ……」
ニャイは顔を赤らめると、ゆっくりとオルガの手を離した。
オルガから金貨を受け取った店員は満面の笑みで一礼する。
「毎度、毎度、毎度、ありがとうございます!!」
二人は店員から服を受け取ると、店内の更衣室で着替えた。
「ニャイ、似合ってるぞ!」
「オルガさんも、さっきよりずっとカッコ良くなったニ!」
二人は満足そうに頷き店を後にすると、一件目の買い物を終えるのだった。
※ ※ ※
一方、オルガとニャイが入店し一拍置いた頃、ドラムもラビも続いて店の扉を開ける。
すると、頭に樹木のような二本の角を生やした店員が二人を出迎えた。
おそらく鹿系の獣人だろう。
「いらっしゃいませっ! 本日はどういった御用件でしょうかっ?」
「ああっ、え、えーと……」
勢いで飛び込んでしまったドラムは、店員に返す言葉が見つからない。
ニャイとオルガを尾行してきたなどと言えるはずもなく、目が泳いでいる。
すると、見兼ねたラビが間を割って入ってきた。
「あっ、ああ、今日はアタイの服を買いに来たんだよ! ねっ!?」
「あっ、ああ! そうなのである! この子の服を買いに来たのである!」
「では、お品物が決まりましたらお申し付けくださいっ!」
店員は恭しく一礼すると、跳ねるように店の奥のカウンターへ戻っていった。
二人はホッと溜息を吐くと互いに顔を見合わせる。
「ふう、危なかったのである……」
「ドラム! アンタ何にも考えてないんだねえ! アタイが居なかったらどうなってたか……」
「うむ、かたじけないのである……」
「まあいいさ。服を買ってもらう口実ができたからね!」
ドラムはギョッと目を見開くと、慌てた様子でラビに迫る。
「あっ、あれは勢いで言ってしまったのである……」
「そうだったのかい。なら仕方ないねえ……」
ラビは少し寂しそうに俯いた。
すると、慌てていたドラムの様子が一変する。
「いや、買おう! 好きな服を選ぶのである!」
「おやおや、どうしたんだい? いきなりそんな事を言い出して?」
ラビの口元が僅かに動いた。
ドラムがこのような返答をする事を読んでいたのだ。
ラビの掌で踊らされているとも知らず、ドラムはドヤ顔で胸を張る。
「我輩に二言はない! 仕方ないと言われては男が廃る! 好きな物を選ぶのである!」
「わあ男らしいじゃないかい、嬉しいねえ! じゃ、遠慮なく選ばせてもらうよ!」
ラビは、まるで紙幣を数えるかの如く、店内に掛けられた服を素早い手つきで物色していく。
「まずはこれだね! あとはこれと、これと、これとこれ! あっ、これもいいねえ! あとこれね!」
瞬く間にドラムの手にはラビの選んだ服が積み重なり、10着ほど選び終えたところでラビの手が止まった。
「ホントに良いのかい? 悪いねえ、こんなに買ってもらっちゃって!」
「うっ! だ、大丈夫、なので、ある……」
ドラムは自身の腕に鎮座する大量を服を見て苦笑しながら、ただただ頷くことしか出来なかった。
「ラビは限度というものを知らぬのである……」
「何か言ったかい!?!?」
「い、いや何でもないのである……」
ドラムは渋々ラビの選んだ服を店員に渡す。
「お決まりですねっ! では、お会計は金貨4枚になりますっ!」
店員は満面の笑みでドラムから金貨を受け取ると、商品の入った袋をラビへと渡す。
「ドラム、アンタ意外とカッコイイね! 見直しちゃったよ!」
「そ、そうであるか! ラビが喜んでくれたのであれば良かったのである!」
ラビはドラムの背中をトンと叩くと、ドラムの表情はパッと明るくなった。
「あっ、二人が出て行くよ!」
「むむっ! 我輩達も追うのである!」
こうしてドラムはラビに踊らされ、二人はオルガとニャイの尾行を続けるのだった。
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次回は28日に更新致します。
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