72話 歴史博物館と転生者
店を出たオルガとニャイは、次の目的地を決めようとしていた。
「次は何処に行きたいんだ?」
「う〜ん。歴史博物館……いや、今度はオルガさんが行きたいところにするニ!」
「いや、実はオレが行きたい場所は無いんだ。だからニャイが行きたいところへ行こう! 歴史博物館……だったな。それは何処にあるんだ?」
「なんか、ウチのワガママばかり聞いてもらって申し訳ないんだニ……」
「そんな事は気にしなくて良い! オレはニャイと居られればどんな所でも楽しいんだ!」
「オルガさん……わかったニ! 歴史博物館はこっちだニ!」
ニャイはオルガの手を引くと、歴史博物館へ向け歩き出し、繁華街を抜けた。
暫くして城下町の外れに出ると、荘厳な雰囲気の建物へと辿り着いた。
「ここが歴史博物館だニ!」
「こんな立派な建物、オレなんかが入って良いのか?」
「あはは! ここは誰でも自由に出入り出来るんだニ! さあ、早く入るんだニ!」
ニャイはオルガの手を引きながら、小走りで建物の中へと入っていった。
※ ※ ※
一方、オルガとニャイの背後を尾ける人影が二つ……
「これはまた、随分と渋い所に来たのである……」
「あちゃー、もうここに来ちまったのかい。あの子は歴史の話になると止まらなくなるからねえ。オルガの熱が冷めなきゃいいんだけどさ……」
ドラムとラビも二人を追い、歴史博物館の入口へと辿り着いた。
だが、ドラムは相変わらず木の陰に身を寄せ、上半身のみを覗かせている状態だ。
「ところでドラム、アンタいい加減その格好やめなよ! 一緒に居るアタイまで怪しく見えちまうじゃないかい!」
「むむっ!? ラビこそ、そんなに堂々としていたら見つかってしまうのである!」
「なーに言ってんだよ! これだけ離れていれば見つかりゃしないよ! それにここは歴史博物館さ。ニャイは歴史の話になると周りが見えなくなっちまうからねえ。危なっかしくて見てるこっちが心配になるくらいさ。だからね、ここで二人に見つかる事は無いんだよ!」
「うーむ、そういうものであるか……」
「そういうものさ。じゃ、アタイ達も入るとするよ!」
「ま、待つのである!……」
ニャイとオルガが入館して暫く経つと、ラビとドラムも後に続くのだった。
※ ※ ※
「……と、いうことなんだニ!!」
「そ、そうなのか!」
ニャイは館内へ進むと直ぐに、オルガへ展示品や関連する逸話について語り始めた。
だがオルガは歴史に興味が無く、頭をフル回転させてもニャイの話す内容が全く理解出来ずにいた。
その結果、ニャイが定期的にオルガを向く度に、真剣な顔で相打ちをすることで誤魔化していたのだ。
「これは、フェスタ様が沈めた船の残骸の一部とその経緯だニ!!」
「そ、そうなのか!」
「こっちは……」
「そ、そうなのか!」
「オルガさん、さっきから同じ事しか言ってないニ……」
「そうなのか! いや、そうか?」
「もしかして、ウチの話が面白くなかったニ?」
「そ、そんな事ないぞ! 面白い、とても面白いぞ!!」
「顔が引き攣ってるニ……」
「す、すまない……オレにはよくわからなかった」
「むぅ……こうなったら、とっておきの話があるんだニ!」
「とっておきの話?」
ニャイは眼前に指を立てると真剣な表情で語り始める。
「そうだニ! あれは未だ、漁業都市タナトスが今のような無法地帯へ成り下がる前の事。タナトスの外れにある村で、不可解な事件が起こったんだニ!」
「不可解な事件……だと?」
オルガが首を傾げると、ニャイはゆっくりと頷く。
「その事件とは……村人が謎の死を遂げる病が発生したんだニ。生き残った人の話では、住人のおよそ3割が死亡し、村のあらゆるものが、まるで何年も放置されたかのように腐ってしまったらしいニ。その病と現象に恐怖を抱いた村人達が皆一様に逃げ出してしまい、今ではその村は荒廃し誰も住んでいないという話だニ」
「酷い話だな。それ程までに死人の出る病ならば、周りの村にも影響が出ていそうだ……」
「ウチもそれは思ったニ。でも、周辺の村には同様の現象は一切起こってないんだニ。この村の名前は“ポラリス”というんだけれど、ポラリスの情報はタナトス政府によって隠蔽され、闇の中へと葬られてしまったんだニ……」
「何だそれは……まるで国自体がこの事件に関係していると言ってるようなものじゃないか!」
「国もそうだけれど、ウチはこの話に転生者が絡んでいるのではないかと考えているんだニ!
【転生者現れし時、世界は混乱と変革を齎すだろう】
これはこの世界の誰でも知っている言い伝えだニ。ウチ達の暮らすこの世界とは別の反転世界……つまり異世界が存在し、異世界の住人がこの世界へ転生してくるという話だニ」
「ああ、それはオレも知っている。過去の時代の転換点には必ず転生者が現れていたのだと聞いた。だが、何故唐突に転生者の話になるんだ?」
「実は、ポラリスで謎の病が発生した後からタナトスの情勢が悪化し始めたんだニ。今のような無法地帯になったのは転生者が現れた為で、その被害に遭ったのがポラリスの村だったんじゃないかとウチは考えてるんだニ!」
「うーむ。ニャイの言いたい事は解るが、そう簡単に転生者など現れるものなのか?」
「身近な人で言えばトールさんが転生者だニ」
「そうだ、忘れていた! 身近すぎて気にも留めなかったが、トール様は確かに転生者だ!」
「ウチは最初、トールさんが転生者という事は疑っていたけれど、魔王種まで進化した事は世界中の噂になっているニ! もう信じるしかないニ。そして、混乱ではなく変革を齎す転生者であってほしいと願っているニ!」
「ああ。トール様なら必ず世界を良い方向へ導いてくれるとオレは信じている!」
「トールさんは魔王になることで更に影響力を持つようになって、もう世界へ何らかの影響を及ぼすのは間違いないニ。でも、転生者がトールさんだけとは考え難いんだニ。争いがあるから変革があって、変革があるからこそ歴史が刻まれていくとウチは思うんだニ!」
「つまり、この世界に混乱を齎す転生者が居ると考えているんだな?」
「そうだニ! だからウチは反転世界について調べているんだニ! ウチが調べ上げた事が世界の役に立てたら嬉しいんだニ!」
「オレには想像もつかないところを目指しているんだな……頑張れ、ニャイ! オレは応援しているぞ!!」
「うん! オルガさんの応援で益々頑張る気になれたニ! ここまで話したのはオルガさんしかいないけど、話せて良かったニ!」
オルガとニャイは互いに両手を取ると、強く握り合った。
※ ※ ※
その頃ドラムとラビは、展示物の陰からオルガとニャイの様子を伺っていた。
「うーむ。何やら小難しい話をしているのである……」
「ニャイは反転世界の事を調べているからね。それに繋がる情報には目がないのさ。でも、こうなるとオルガが可哀想だねえ。きっと頭の中が真っ白だろうさ……」
「むむ? しかし二人が手を握ったのである! ……これは恋愛というよりも、何かを決意したような顔をしているのである」
「おお、本当だねえ。なにを話したのか知らないけど、あの子達は意外と上手く行きそうじゃないかい! ……おや? ドラム、アンタ浮かない顔してどうしたんだい?」
「い、いや……二人が順調なので我輩が陰から助ける隙が全く無いのである……」
「なんだい、そんな事を考えてたのかい! そんなに人助けをしたいならアタイを助けておくれよ!」
「むむ? ラビは何か困った事があるのか?」
「そうさ、大問題さ! アタイを養ってくれる男が居なくて困ってるんだよ!」
「う、うーむ……それは我輩には助けられないのである」
「なんだい、冷たいねえ……おや? 二人が出て行ったよ!」
「むむ! 我輩達も追うのである!」
「そうだねえ、急がないと見失っちまうよ!」
ラビは照れ臭そうに話を逸らすと、二人はオルガとニャイを追うのだった。
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