表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/90

52話 孤独の魔導師

 

 フォンは無言で頷いた。


 ※ ※ ※


 暫くすると、兵士達がメルダの家へ駆けつける。

 その中にはフェスタの姿もあった。


「すまないな、フェスタ。騒がせてしまって」

「何があったんだべか?」


 俺達の会話を聞いたハワードはガタガタと震え始める。


「おっ……お前何者なんだ!? な、何故フェスタ様と対等に話している?……」

「何故って、俺も一応魔王だからな」


「なっ!?……う、嘘を言うな! お前のような奴が……はっ! 最近妙な噂を聞いたぞ。イフリートが魔王になったと……まさかっ!」

「ほぉ〜。もう噂になってるのか。広まるのは意外と早そうだな」


「お前の纏っているその炎、魔法の質ではない……ということは本当に……」

「ああ。俺はイフリートのトール。数日前に魔王になった」


「……クソッ! なんでメルダの周りには、こんな奴等ばかりが集まるんだ!」

「なぁハワード。俺だって最初から魔王だったわけじゃない。メルダと出会った時はただのイフリートだった。だがな、メルダや仲間達と助け合う事でここまで来れたんだ。ハワード、お前に足りないものが何かわかるか?」


「何って、実績だろ!?」

「いや違う。この前メルダも言ってただろ? お前に足りないものは相手を思う気持ちだってな。仲間の為に頑張る。仲間が居たから乗り越えられた。実績ってのは目指すものじゃない。進んできた結果として残る副産物なんだよ……」


「足りないものは……相手を思う、気持ち?……そんなもの、何の役に立つ?……」


 ハワードは静かに呟いた。

 すると、フォンがハワードを睨みつける。


「コイツは……人の痛みなんて感じないんだわさ!!」


 フォンはハワードに指差し、啜り泣きながら叫んだ。


「フォン、それは違うわ!!」


 だが、メルダはそれを否定する。

 俺とフォンがメルダへと視線を向けると、メルダは涙を流しながらフォンの肩に手を伸ばす。


「ハワードはね、本当はとても優しいのよ。でも、あの事件から変わってしまったの……」


 メルダがハワードについて語り始める。


 ※ ※ ※


 ハワードとあたしは子供の頃から同じ街に住む幼馴染だった。


 あたしはまだ魔女に成り立てで、薬草の採集なんて一人で満足に出来なかったわ。

 そんな時、ハワードはあたしの研究を手伝ってくれた。


「ハワード! 大丈夫よ、そんな危ない所に登らなくても……」

「だってこれ、必要なんだろ? 父さんはお前の才能を認めてるんだぜ! お前は将来、世界を担う魔女になるだろうってな!」


 ハワードの父親は有名な魔導師であり、あたしの先生でもあったの。

 そんな人から認められて、あたしは嬉しかった。


「……ほら、採れたぞ!」

「ありがとう……」


 この頃から、復讐の為の研究から人の為の研究を目指すようになったの。


 その後もハワードとあたしは危険な森の中を一緒に歩いた。

 あたしが転びそうになった時はハワードが支えてくれたわ。

 ハワードが居なければ、あたしはこうして研究を続けられなかったかもしれない。

 そのくらいハワードに助けられたの。


 そんなある日、事件が起きる。

 街の人々が、関節が痒いと言い出したの。


「最近、関節が妙に痒いんだ……」

「俺もそうなんだよ。でも、どうせ虫刺されだろ? そのうち治るさ……」


 街に謎の病が発生した。

 最初はみんな虫刺されだと勘違いし、特に気にも留めなかった。

 でも、次第に病魔が牙を剥くようになる。


「おい、お前顔色悪いぞ……」

「お前だって……待て! お前、目が……」


 ある一定の症状を超えると、病の進行が著しく早くなり、一時間も経たずに最悪の事態へ陥る。


「目? う、うおぉ! なんで俺の目が地面に落ちてんだ!?……」

「うわぁ! お前、体が……ドシャッ!」


 痒みを伴いながら体を蝕み、関節から順に腐敗していく。

 そして最期は体が崩れ落ち、死に至るという恐ろしい病よ。

 ハワードの父親は、その病の原因を探る研究をしていたの。


 でも、病は瞬く間に街中へ広がり、人々は病の恐怖に怯えていく。

 免疫力の低い子供や老人を中心に、街の人の3割がこの病で命を落としたわ。

 そんな中、突如仮面を付けた男が現れ、街の人達にこう言ったの。


「この病は人災だ。犯人は研究者を装ったあの夫婦。奴等が“研究”をしている限り、この病が収まることはない……」


 平時なら、こんな男の言葉なんて誰も信用しない。

 ただ、この時は違っていた。

 人々は遣り場の無い不安や憤りが溜まり、限界を超えていたの。

 それが男の一言で爆発してしまった。


「犯人はあの魔導師だ!」

「殺せ! 災厄の種である魔導師を殺せ!」

『『魔導師を殺せ! 魔導師を殺せ!!』』


 当時の事は鮮明に覚えているわ。

 街のみんながハワードの家に押しかけた。

 ハワードの父親は、誤解を解こうと必死に説得を試みたけど、人々の心にそれは届かなかった。

 やがてハワード父親は人々によって引きずり出され、殴る蹴るの暴行を受けた後、首を切り落とされ殺された。

 母親は意を決してハワードを裏口から逃がした後、逃げ遅れて殺されたの。

 遠目から両親が殺されるのを目の当たりにしたハワードの顔は、絶望の一色に染まっていた。


 あの時のあたしは非力で、その様子を眺めることしか出来なかった。

 その事を今も後悔しているわ。

 もっとあたしに力があれば、二人を助けることが出来たかもしれないって……


 それ以降、ハワードは人を見下すようになり、心を閉ざしてしまったのよ……


 ※ ※ ※


 メルダは説明を終えるとハワードの手を取った。


「ハワード、あんたの居場所はあたしが作ってあげる。だからあんたは罪を償って。あたしはいつまでも、あんたを待っててあげるから……」

「なんで……お前はそんな事が言えるんだ……ボクはお前の家を燃やしたんだぞ? 何故恨まない? 何故見捨てない? お前の生き甲斐の研究を潰してやったのに……」


「そんなもの、あんたが味わった苦しみに比べたら大した事無いわ。それよりも、あんたが人を殺してしまう前に、こうして止める事が出来て良かった。もしも誰かを殺してしまったら、あんたも街の人達と同じになってしまうのよ。そうなってしまったら、もうあんたの心を助ける事は出来ないの。そうならなくて本当に良かった……」


 メルダは涙を流しながらハワードの手を強く握る。

 ハワードも涙を流し俯いた。


「クソッ! メルダ……お前って奴は……本当に……本当に……大嫌いだっ!……」


 ハワードは叫ぶと、メルダの手を強く握り返した。

 そして顔を上げると、鋭い眼差しで空を睨む。

 その顔は、何かを決意したようだった。


 ハワードが兵士の元に歩み寄り、両腕を差し出す。


「頼む……」


 すると兵士はハワードを拘束し連行した。

 俺は連行されていくハワードの後ろ姿を一瞥し、メルダに視線を向ける。


「メルダ、やっぱりお前は優しいな……」

「あたしはハワードに沢山助けられた。今度はそれをあたしが返す番なの。それだけよ……」


「そうか……」

「そうよ……」


 メルダは小さくなっていくハワードを見つめ、静かに溜息を吐いた。


前回の更新から期間が空いてしまい申し訳ございませんでした。


今回もお読みくださりありがとうございます。

ブックマークや評価を頂けると嬉しいです。


142件目のブックマークを頂きました!

ありがとうございます!

次回の更新は3日の予定です。


広告の下にあるリンク

【小説家になろう 勝手にランキング】

をクリックお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ