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50話 ニャイとオルガ

 

 俺は自分のテーブルへ戻ると、メルダとニャイが会話をしている。

 ニャイは手や足を使い何かを力説しているようだ。


「凄い発想ね! あたしはその方向性が疎くって……」

「まさかメルダさんにそんなことを言ってもらえるなんて光栄だニ!」


「ニャイ、あなた普段どこで研究しているの?」

「ウチは昼間スカイラインの家で研究して、夜はここで働いているニ。早く成果が認められて研究に専念出来るようにやりたいんだニ!」


「そうね。あたしも最初は大変だったわ。両親が殺されて……いや、そんなのはどうでもいいわね。頑張って! あたしはあなたを応援するわ!」

「……メルダさんも大変だったんだニ。ありがとニ! ウチも頑張らないといけないニ!」


 二人は手を取り合い、信頼関係を確立したようだ。

 熱く見詰め合う二人を余所に、カウンターからラビの声が響く。


「ニャイー! これお願ーい!」

「わかったニ! うっ、足がったニ……」


 ニャイはラビに呼ばれると、跳ねるようにカウンターへと戻る。

 そして、何か飲み物を持って俺達のテーブルを通過しようとしていた。

 しかし、足取りがおぼつかない。


「うにゃぁ!」

「うおっと……大丈夫か?」


 ニャイは体制を崩して倒れ込み、オルガの巨体に抱きついた。


「パリーン!」


 オルガは倒れて来たニャイの華奢な体を支えている。

 だが、オルガは器の熱湯を頭から被ってしまった。

 そして、ニャイの運んでいた器が宙を舞い、床に落ちて割れてしまう。


「ごごごごめんニ! 足が縺れちゃったニ! あわわわわ……熱湯が。火傷しちゃったニ?……」

「ああ、大丈夫だ。俺には熱いという感覚が無いからな……問題は……ない」


 ニャイは濡れたオルガの顔をハンカチで拭いている。

 しかし、ニャイの身長はオルガよりも低く、無理な体制で拭いていた為に再びバランスを崩し、オルガに抱きついてしまう。


「うにゃっ! ……凄く……落ち着くニャ……はっ! ウチは何を言ってるニ!」

「かっ、可愛い……いやっ、オレは何を……」


 二人は顔を赤らめ、目を泳がせながら俯いた。


「「あのっ!……」」


 二人の声が重なり、再度二人は顔を赤らめる。

 するとそこへカウンターからラビがやってきた。


「何か音がしたけど大丈夫かい? あー、これを割っちゃったんだね! 二人共怪我はないかい?」

「「……」」


 しかし、二人は顔を赤らめ俯く。

 その表情に何かを察したラビが笑みを浮かべる。


「ほう、ほう、ほほーう? これはこれは、二人とも熱いねぇ〜! 」

「なっ!……」

「ニャッ!……」


「いいよいいよ、アタシは“家族”ひとの恋を邪魔するほど野暮じゃないからさ! それじゃ、ごゆっくり〜」


 ラビは足元に散った破片を素早く片付けると、そそくさとカウンターへ戻っていった。

 二人の様子を見ていたフォンが酒を煽りながら口を開く。


「プハー! なんだわさ! あっちはデキてるのに、アタシは……アタシ達は……なんでだわさ……なんで、だわさ……うわぁぁぁぁん!」


 フォンバカが泣き出した。

 その様子を見たダルスがフォンに声を掛ける。


「お、おい、どうしたんだよ? 何で泣いてるんだよ?……」

「……バカっ!」


「なっ、いきなりバカってなんだよ! オイラなんにも・・・・してないぞ!」

だから・・・バカって言ったんだわさ! ……もう知らないんだわさ!」


 フォンは言葉を吐き捨てると、不貞腐れて寝てしまった。

 ダルスは困惑し首を傾げる。


「オ、オイラやっぱりの事はよくわからないっす……」


 そう呟くと、グレインの座るテーブルへと戻っていった。


 ※ ※ ※


 客達が酔い潰れ、店内の空気が落ち着いた頃、俺達は店を出ようとしていた。

 因みにフォンバカは爆睡している為、ダルスが背負っている。

 店頭にはラビとニャイが見送りに来てくれていた。


「俺達はそろそろ帰るよ」

「ああ。いつでも待ってるからさ。また“帰って”来なよ!」


 俺は静かに頷いた。

 するとラビは笑顔で応える。

 ニャイとオルガは熱湯事故以降、常に俯き、時には同時に顔を上げ、目が合うと再び俯くということを繰り返していた。

 二人は特に目立った会話はせず、終始顔を赤らめている。

 そんな二人がようやく口を開いた。


「あっ、あのっ……また来るニ?」

「あっ、ああ。……また来るだろう……」


 しかし、僅か一言で二人は再び俯いてしまった。

 暫しの時が経ち、頃合いを見計らい俺は口を開く。


「オルガ、そろそろ帰るぞ」

「あ、ああ……」


「じゃ、じゃあニャイ、また今度話しましょう。次はあたしの研究を教えてあげるわ」

「そ、そうだニ! メルダさんの研究は凄いから楽しみだニ!」


 メルダとニャイはぎこちない挨拶を済ませた。

 そして俺は全身炎イフリート化すると、仲間達に炎を纏わせる。


「フォンが寝てるからな。今回はみんな俺の中へ入ってくれ!」


 仲間達はラビやニャイへ手を振りながら『空間収納』へと飲み込まれていく。

 その様子にラビとニャイは目を丸くする。


「えっ? 何で仲間を燃やしてるのさ?」

「みんな燃えちゃったニ……」

「ああ、心配しなくていい。俺の体内に収納しただけだ。勿論死んではいないぞ! じゃ、また今度な!」


 二人が怪訝な表情で首を傾げる中、俺は光速でメルダの家へ向けて飛翔した。


 ※ ※ ※


「き、消えたさ……」

「一瞬で居なくなったニ……」


 トールはラビとニャイの眼前から一瞬で姿を消し、二人は驚愕の表情で立ち尽くしていた。

 その様子を店の陰から一体のグールが眺めている。


「グフフ……これは良い物が見られたじぇ……サキ様へ報告だじぇ……」


 グールは静かに呟くと、闇の中へと消えていった。


 ※ ※ ※


 数秒後、俺はメルダの家の前に到着した。

 そして、腹に手を突っ込み仲間達を吐き出す。


「うおっ!」

「ぎゃっ!」

「うげっ!」

「くかー……」

「うわあ!」


 メルダの家の前に仲間達が積み上がった。


「もっと優しく出して欲しいっす!……」

「「「うん! うん!」」」

「くかー!……」

「そんな事言われてもなぁ……ははは……」


 俺は仲間達の抗議に頭を掻き、苦笑した。

 なんとか話題を逸らそうと辺りを見回していると、メルダの家の煙突から煙が出ていることに気付く。


「なっ、なぁメルダ! お前はほんとーに研究熱心だよなぁ!」

「ちょ、ちょっと何を言い出すのよ、急に……」


「だってこんな時にも研究を進めてるんだろ? 煙突から煙がでてるからさ……」

「ちょっと待って! あたし家を出る前に火は全て消したわよ!」


「えっ?」

「やだ嘘! まさか燃えてるの!?」


「「「「!?」」」」

「くかー!?」


 メルダは慌てて扉の鍵を開けると、家の中へと飛び込んでいった。


「キャー!!!!」


 その直後、家の中からメルダの悲鳴が響く。


「なに! なに! 何なんだわさ! 今の悲鳴は!?」


 メルダの悲鳴にフォンが飛び起きた。

 そして俺達は慌ててメルダの後を追い、家の中に飛び込むのだった。


今回もお読みくださりありがとうございます。

ブックマークや評価を頂けると嬉しいです。


1話にフォン、3話にダルスの挿絵を追加しました。


執筆中に121件目のブックマークを頂きました!

ありがとうございます!

次回の更新は31日の予定です。

(24日から変更しました。申し訳ありません)

今後は毎週土曜日の更新へ変更を検討しております。


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