35話 サイゴニ タ タカワン
文字数が5500文字と大変なことになってしまいました。
今編のクライマックスということで、どうかご容赦ください。
三柱の額からは汗が流れ、じっとトールを見つめる。
「うぐっ!」
すると、トールの体が大きく跳ねた。
そして、魔王フェスタが叫ぶ。
「メルダ! 最硬度の結界の用意をするだ! トールだけを包み込むやつだべ! 何が起きるかわがらねぇ! 場所を動かせるやつにするだ!」
「フェスタ様!? わ、わかりました! でも、これは一体!?」
「……トールは人間を一万人殺したそうだべ。それは、魔王種への進化を意味するべ。これがらの数分間、トールは破壊衝動に支配されるべ。見境無く目に付くもの全てを……その間、オラ達はこの国を護らなければならないんだべ!」
魔王フェスタの言葉に“人間達”は騒めきを止め、顔を蒼褪める。
トールの能力はこの場の全員が把握していた。
総てを燃やし尽くす劫火。
それは、兵士や国王という身分を超え、生物としての危機を感じ取るものだった。
メルダはトールへと視線を向けると、詠唱を開始する。
「????????????」
すると、球形の膜のような結界がトールを包み込んだ。
結界の中のトールは、宇宙空間を漂うように浮かんでいる。
その様子を横目に、魔王シェリーはトールの仲間達へと声を荒らげる。
「お主達! ここを守れねば、進化後のトールの居場所は無いぞ! 覚悟はよいか!!」
「「「「「はいっ!」」」」」
「……はいっ」
魔王シェリーはオルガに一瞬視線を向けると、メルダへと声を発する。
「メルダよ! お主の結界が破られれば、妾達は全員焼き殺される。結界が破壊されると感じたら、直ぐに知らせい! その時は妾がトールを上空まで吹き飛ばす!」
「わかりましたわ!」
そして、トールの体に変化が起こる。
結界内は真っ赤な炎に満たされ、やがて炎が青く変化すると、結界内から叫び声が轟く。
「燃えろぉぉぉぉ!!!!」
『『!?』』
突然の叫びに一同が驚愕する。
そして、巨大な爆発音と共に、結界の直径が一瞬、数倍にも膨れ上がった。
最硬度の結界とは、街を覆い圧縮すれば握り潰せる程に強力なものだ。
「燃えろぉぉぉぉ! 燃えろ燃えろ燃えろ燃えろぉ!」
「なっ!……なんて威力なの!? 最硬度の結界が歪むなんて……非常識よ!」
結界がいとも簡単に歪められた事で、メルダは苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。
その様子に、魔王シェリーは思考を巡らすと、窓に視線を向ける。
「このままでは結界が保たぬ! この窓を吹き飛ばすゆえに全員下がっておれ!」
魔王シェリーは腕から翼を生やし、窓と壁を吹き飛ばそうと腕を振り上げた次の瞬間。
「ちょーっと待つっす!」
その声に、全員がダルスへと視線を向けた。
「オイラに任せるっす! オイラなら衝撃無く壁を壊せるっす!」
「……そうか。ならばお主に任せよう」
ダルスは壁の前に立つと真神化する。
体が白銀色に輝き、目が白く光ると、左手の爪を伸ばして窓へと振り翳した。
「ドゴーン!」
凄まじい轟音が響き、壁が遥か彼方へと吹き飛んでいく。
しかし、室内に爆風が吹き込むことは無かった。
状況が理解出来ない様子の、鉱山都市サルマトラン王国の国王サルマトラン・マインは額に汗を流しながら問う。
「なぜあの爆風が儂らに来ぬ……」
「あ〜。それは、オイラが壁と一緒に空間を切り裂いたからっす!」
「く、空間を切り裂いたじゃと!?」
「そうっす。オイラが立つ位置を境に、空気の流れを止めたっす!」
『空間断裂』による空間操作を飄々と語るダルスに、人間達は驚愕の表情を浮かべる。
そして、ダルスは左手をぐっと握った。
「ギュルルル……」
すると、テープを剥がすような音と共に微風が室内に流れ込む。
「し、信じられぬ……空間を操るとは……」
人間達の反応をよそに、魔王シェリーはメルダに指示を出す。
「メルダよ、トールを上空へ飛ばすのじゃ! 出来るだけ高く、地上との距離を取るのじゃ!」
「わかりましたわ!」
メルダは跳ねるように、嘗て窓のあった位置に立つと、杖を振り結界を上空へと誘導する。
結界の上昇と共に内部の温度が高温となっていく。
そして、結界が対流圏を抜けるかという位置に迫ったその時。
「溶けろぉぉぉぉ! 溶けろ溶けろ溶けろ溶けろぉ!」
再びトールの絶叫が木霊する。
結界内の温度は一万度を超え、風船の如く膨張すると内部から溶け始める。
「もっ……もう、結界が持たないわ!……」
「よう頑張ったのぅ。あとは妾がなんとかするのじゃ!」
メルダが声を上げ、魔王シェリーが天空へと飛翔した、次の瞬間。
「バゴーーーーン!!!!」
結界が破裂し、地上を熱波が襲う。
しかし、魔王シェリーは翼を大きく羽ばたかせると、熱波を空へと押し戻した。
だが、爆発の影響は熱波だけでは収まらない。
爆音と共に爆風が地上へと吹き荒れる。
これには魔王シェリーは成す術なく、落下せずにその場を凌ぐ事しか叶わない。
爆心地から10km以上も離れた地上にまで達する爆風は、爆発の威力の凄まじさを物語っていた。
しかし、この国の不幸中の幸いは、トールの怒りが結界内へ上乗せされていなかった事だろう。
もしも上乗せされていたならば、結界内は一万度に留まらず、この国は一瞬で蒸発し巨大なクレーターと化していたのだから。
そして、結界という檻を解かれた破壊の化身は、その姿を露わにする。
全身に緑の炎を纏い、天空から直立不動で降下していく。
その光景は異常であり、神々しい。
誰もがその様子に見惚れている。
だが、破壊の化身はそれを許さなかった。
「消えろぉぉぉぉ! 消えろ消えろ消えろ消えろぉ!」
怒号が上空に響き渡り、人々は我に帰る。
※ ※ ※
――何も無い闇の中で、トールは辺りを見回している。
(なんだここは……)
すると、一人の男がトールの前に現れる。
(……)
トールは訝しそうに口を開く。
(お前は……俺?)
男の姿はトールと瓜二つだった。
だが、その表情はトールとは相反する程に歪な笑みを浮かべ、狂気を感じさせるものだった。
そして、男が叫ぶ。
(……燃えろぉ!!!!)
(……!?)
突然の怒号にトールは驚き目を丸くする。
(燃えろぉぉぉぉ! 燃えろ燃えろ燃えろ燃えろぉ!)
(おい、落ち着けよ……)
トールの反応をよそに、男は嬉々として絶叫を続ける。
(溶けろぉぉぉぉ! 溶けろ溶けろ溶けろ溶けろぉ!)
視界が鮮明になり、眼下には鉱山都市サルマトラン王国の街並みが広がる。
そして、トールは現状を理解する。
(おいまさか、この国を……)
(消えろぉぉぉぉ! 消えろ消えろ消えろ消えろぉ!)
(やめろ……)
(殺せぇぇぇぇ! 殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せぇ!)
(やめろぉぉぉぉ!!)
トールは叫び、男の元へ走ると手を伸ばす。
すると、男は頭を抱えて蹲った。
(クッ、クソがぁぁぁぁぁぁ!!!!)
そして、男の体が黄色く光り始める。
(死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!)
――トールは男と重なり、二人の体が一つとなった。
※ ※ ※
天空から降下するトールの怒号で人々が我に帰る。
この事態に逸早く動いたのはフォンだった。
フォンは九尾化し全身が黄金色に輝くと、静かに目を開き天空へと昇っていく。
そして、目が金色に光ると、トールの前で手を翳した。
「トール様。まだ、降りてきてはいけないんだわさ……今降りたら、アタシ達の居場所は無いんだわ……さっ!」
フォンが目を見開くと、トールは縛られたように停止する。
だが、トールの手からは数千度にも及ぶ火球が放たれた。
「殺せぇぇぇぇ! 殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せぇ!」
このままでは火球が地上に直撃し、数万人が蒸発するだろう。
「させねぇっす……」
火球を目にしたダルスは嘗て窓だった場所へと立つと、目を瞑り、静かに左手を振りかざした。
すると、空間が斜めに断裂し、火球はその隙間へと吸い込まれていった。
その様子にメルダは焦り、口を開く。
「ちょっと! あの火の球をどこにやったのよ!?」
「あ〜……他の世界っす。詳しくはオイラにもまだわからないっす」
「あっ、あんた、あんなに危ないものを適当に処理するんじゃないわよ……」
顔が引き攣るメルダを余所に、ダルスは左手をぐっと握ると、排水口の如く音を立てて空間の断裂が塞がっていく。
「ギュルルルル……」
一連の流れを見たトールは不満気な表情を浮かべると、空一面に炎を這わせた。
トールの身体から湧き出す炎は轟々と音を立て、真っ青な空を赫く染め上げる。
一千万人が見上げる空は、この世の終焉を表すかの如く、異様な光景を醸し出していた。
――森林
「あっ、兄貴ぃ! 空が燃えてるよぉ!」
「そんな訳……嘘だろ!?」
――市街地
「はい、麻婆豆腐。いつもありがとうございます〜……ん? なんか赤いな?」
「銀貨5枚ね〜……何よこの空! こんなこと、あるわけないわ!」
――工場地帯
「親方ぁ! 空から炎がっ!」
「バッキャロォ! んなことあるわけ……嘘だろぉ……」
――鉱山
「ヒャッハー! この世の終わりだぜぇ!」
「ヒャッハー! 世紀末だぜぇ!」
「ヒャッハー! これ全部食らったら……死ぬぜぇ! ヒュー!」
――城内
「国民を避難させろ! 急げ!」
「避難って、何処に避難させるんですか?」
「ぬぅ……とにかく避難だ! 急げ!! あんなのが地上に燃え移ったら、この国は終わりだぞ!」
その光景に人々は混乱し、或いは絶望し、或いは狂人と化す。
地上の大混乱を余所に、炎を地上へ降らせようとトールが手を振り上げる。
「チッ、あいつを黙らせないと危険だな……」
その様子に、魔王グラハムは上空へ飛翔しトールの眼前に立ちはだかると、目を怪しく光らせた。
「クッ、クソがぁぁぁぁぁぁ!!!!」
すると、トールは叫び、炎がトールの体内へと吸い込まれていった。
やがて空は元の青さに戻り、人々は平静を取り戻していく。
しかし、トールの体が薄っすらと黄色く光り始める。
「あっ、あれは……まずいっす! あの光りを直ぐに止めないとみんな死んじゃうっす!!」
「なにやら、まずそうだべ……」
ダルスの動揺を察した魔王フェスタは、嘗て窓だった場所から身を投げた。
『『なっ!』』
魔王フェスタの行動に人間達は目を丸くするが、その直後。
「ドーン!」
地上から爆音が響いた。
人間達が慌てて外を見下ろすと、魔王フェスタは上空へ飛翔しながらリヴァイアサン形態へと変化し、10m、100m、1kmとみるみるうちに巨大化していく。
やがて10kmの巨体へ変化すると、トールを飲み込んだ。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
そして、魔王フェスタの体内からトールの怒号が響く。
「ピカーッ!」
その直後、魔王フェスタの体が一瞬黄色く光り、トールが吐き出される。
「グエェェェ……」
そして、魔王フェスタの口から滝のように血が吹き出した。
地上へと降り注いだ血液は、轟々と音を立てて森を赤く染めていく。
「危なかったっす! あの光は放射線っす! オイラ達以外の耐性のない生物は、あの光でみんな死ぬっす……」
「なっ、なんて非常識な能力なの!? あたし達は助かったけど……でも、フェスタ様が……」
魔王フェスタは一撃で満身創痍となり、ゆっくりと地上へ向けて落下していく。
「このままじゃ、この国が潰れるんだわさ!」
フォンは魔王フェスタへ向けて手を翳すと、目を見開いた。
すると、魔王フェスタの落下が止まり、血液のみが地上へと降り注がれていく。
「うぐぐぐ……」
だが、フォンの目からも血が流れ始める。
現在の魔王フェスタは全長10kmの巨体であり、その重さは計り知れない。
フォンは能力で小島一つを持ち上げていることと同義となる。
その負担は急激にフォンを蝕んでいく。
そして、魔王グラハムは魔王フェスタの元へ飛翔すると、口から流れる血液を掬い飲んだ。
その様子を魔王シェリーが訝しむ。
「おい蝙蝠、こんな時に何をしている?」
「うるさいぞ! 我は今フェスタの血液を解析しているところだ。早く薬を打たないと手遅れになるぞ!」
魔王シェリーが固唾を飲んで見守る中、魔王グラハムは静かに目を瞑る。
暫しの後、目を開くと魔王グラハムはゆっくりと口を開いた。
「くっ……体内の至る所が破壊されている。これでは延命しか出来ん……我が体内で血液を循環させる。トリよ、後はお前に任せる」
「なんじゃと? フェスタは……助かるのか?」
「わからん。だが、最善を尽くす!」
「わかったのじゃ……頼んだぞ!」
魔王グラハムは魔王フェスタの背中に噛み付くと、二本の牙を伸ばした。
片方の牙から血液を吸い出し、もう一方の牙から血液を流し込む。
ドクドクと魔王グラハムの体内に血液が流れ込み、次第に体が膨らんでいく。
まるで透析の如く、血液を浄化する作業を行う。
それを横目に、魔王シェリーはトールの元へと飛翔する。
「トールよ、まだ終わらんのか……」
魔王シェリーが焦りの表情を浮かべて呟くと、トールの体から再び炎が湧き出る。
「くっ、もう一度か……」
苦虫を噛み潰したような表情をする魔王シェリーに、トールが静かに呟いた。
「ド……ラム……俺に……雷を……撃て!」
「……!?」
その声を魔王シェリーは聞き逃さなかった。
「ドラムよ!! トールに! 雷を撃つのじゃ!!」
「……うむ!!」
魔王シェリーの怒声に、ドラムは跳ねるように立ち上がると、嘗て窓だった場所から上空へと飛翔する。
そして、龍神化し、体が緑青色に輝くと槍を天へ向けて掲げた。
「何も……失わせないので……」
目が青く光り、空に一筋の光が現れる。
「あるっ!」
そして、一筋の光は雷となりトールへ直撃した。
「「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!」」
二人の声が重なるようにトールが絶叫し、肩を落として俯いた。
人間達が、獣人達が、そして魔王達が固唾を飲んで見守る中、暫しの時を経て、ゆっくりとトールが顔を上げる。
「……すまなかった。もう、大丈夫だ!」
『『うおぉぉぉぉぉぉ!!!!』』
その言葉に、各国の王や兵士達、そして仲間達が安堵し歓声が巻き起こった。
今回もお読み頂きありがとうございます。
よろしければ、ブックマークもお願いします。
こちらに裏話や設定を描かせて頂いております。
興味がありましたらご覧ください。
https://ncode.syosetu.com/n1248fm/
2話に分割しようと考えていたのですが
上手く切れそうな場所がなかったので
今回はこのように長文となりました。
読み疲れはありませんでしたか?
次回は今編最終話です。
物語はまだまだ続きますので
最後までどうかお付き合いください。
執筆中に95件目のブックマークを頂きました!
ありがとうございます!
次回の更新は24日の予定です。
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