29話 愚かなドラゴン
腹に違和感を覚えたドラゴンは、ダルスへの攻撃を中断し、自らの腹に視線を向ける。
「なっ……なっ……なんだこれは!!」
我が身に起きた事態に困惑したドラゴンは、じたばたと暴れ出した。
ダルスはその好機を見逃さない。
ドラゴンから解放されたダルスは、左右の爪をドラゴンの両腕に向け振り翳した。
すると……
「ぐぁぁぁ!!」
ドラゴンの両腕と両翼が切り裂かれ、地面に落下する。
腹部や両腕、両翼から出血するドラゴンは、涙目になると仰向けに倒れた。
「くそぅ! くそぅ!! ワレが……ワレがこんなにも惨めな目に遭わせられるとはっ……」
「へっ。オイラを甘く見たな。てめぇ、オイラ達の餌になる覚悟は出来てるんだろうなぁ?」
ドラゴンは自身の状況を理解し顔を青褪める。
そして歯を食いしばり叫んだ。
「ぐっ……くっ、殺せ!! ワレはこれ以上……惨めな思いは御免だ!」
「そうか。なら、すぐに楽にしてやるよ……」
ダルスは冷たい視線をドラゴンに向けると、左手を挙げ、ドラゴンの首を目掛け振り下ろそうとした。
「ダルス、そこまでだ!」
俺はダルスの肩を掴み、ダルスを制止する。
しかし、ダルスの腕は既にドラゴンへ向けて振り下ろされていた。
ドラゴンは殺された。
そう思い、視線をドラゴンへ向けると……
「ぐぁぁぁ! ワレはまだ死にたくないいい! 死にたくないよおおお!」
ダルスは、爪をドラゴンの首に当たる寸前で止めていた。
どうやら、元からドラゴンを殺すつもりは無かったようだ。
《ダルス、ドラムの蘇生は成功した。あとは意識が戻るのを待つだけだ。そして、このドラゴンをドラムに謝罪させる。いいな?》
《了解っす!》
※ ※ ※
俺の体内で、ドラムの声が響く。
「うっ…… ううっ……」
「気が付いたか。もう少しで決着する。そこで待っててくれ」
ようやくドラムは意識を取り戻した。
「わ、我輩は…… 何故トール様の体内に?……」
「お前はドラゴンに首を食い千切られ、殺されたんだ。だが、ダルスがお前の仇を討つ為に、ドラゴンと戦っている」
「ダルスが…… そうであったか……」
「ドラム。今からこのドラゴンをお前に謝罪させる。今回の被害者はお前だ。このドラゴンを煮るなり焼くなり好きにすると良い」
俺はドラムにドラゴンの処遇を決めてもらうことにした。
※ ※ ※
ドラゴンは未だに断末魔をあげている。
「ぐぁぁ! ワレはもっと龍生をエンジョイしたかったのだぁぁぁ!」
「「「……」」」
「ぐぁぁ! ワレは! ワレは……」
《なぁ、こいつ気付いてないのか?》
《ドラゴンは力が強いけど頭は弱いんだわさ。だから間抜けな奴が多いんだわさ》
「ワ、ワレは……」
「「「…………」」」
俺達の冷めた視線にようやく気付いたドラゴンは、気まずそうに俺達を見回している。
そして俺は呆れた顔でドラゴンを問い質す。
「な、何故ワレを殺さない!?」
「お前なぁ、何でもかんでも殺すか殺さないかで判断するなよ。死んじまったらそれで終わりだろ?」
「ぐっ……」
「お前は俺達の仲間を殺した。それは、許せることじゃない。だからお前には償いをしてもらう」
「なっ、何? 償いだと?……」
「ああ。お前が殺した俺達の仲間……ドラムに謝罪してもらう」
「しゃ、謝罪だと!?」
「ああ。ドラムが許すと言うまで謝罪しろ。それがお前の償いだ」
俺は腹に手を突っ込み、ドラムを引き揚げた。
そして、ドラムはドラゴンに鋭い視線を向ける。
「なっ、何故お前が生きているんだ! ワレが食ったはずでは……」
「あー、それなんだがな。俺が生き返らせた」
「い、生き返らせただとぉ? そんなこと……あるわけないだろ! あるわけ……あるわけ……」
ドラゴンは困惑した表情で俺たちをキョロキョロと見回している。
その様子を横目に、ドラムは重い口を開いた。
「おいドラゴン。貴様、名はなんという?」
普段とは別人のような空気を纏ったドラムに、俺達は一瞬困惑した。
「くっ……龍人の癖に、ワレを見下した口調などっ……」
ドラゴンは抵抗する素振りを見せる。
しかし、ドラムは容赦なくドラゴンを問い詰める。
「聞こえなかったのか? 貴様! 名は何だ!!!!」
ドラムが叫んだ瞬間、ドラゴンに雷が直撃する。
「ぎえぇぇぇ!」
ドラゴンは悲鳴を上げ、体から煙が昇る。
そして腹から流れ出る内容物は沸騰していた。
ドラムへ視線を向けると、肌が緑青色に輝き、目は青く光っていた。
光の反射により、肌は薄っすらと虹色に見える。
龍神のような神々しさが感じられ、俺は思わず呟いた。
「龍の……神……龍神化か……」
「龍神化……であるか」
どうやらドラムは、龍神化により『雷撃制御』を獲得したようだ。
ドラムは暫し瞑目した後、ドラゴンを無言で見つめる。
ドラゴンは抵抗を続けるが、ドラムに気圧され遂に口を開く。
「ワ……ワレの名は、グドラだ……」
「グドラよ。我輩は貴様を許さない」
ドラムの言葉に俺達は息を飲む。
グドラは目を丸くしながら、ドラムを見つめ続けている。
そしてドラムは言葉を続ける。
「これより貴様に償いをしてもらう。今後一切、他の種族を見下すことは許さぬ! 解ったか!!!!」
ドラムが言葉を終えると、グドラの背後に雷が落ちる。
これがトドメとなったのか、グドラはドラムへ跪いた。
「はっ、ははっ! このグドラ、償わせていただきますっ!……」
グドラの言葉に、ドラムの目は光を無くし、肌は普段の緑色に戻る。
どうやら一件落着したようだ。
しかし、まだ些細な問題があった。
グドラの両腕と両翼、そして腹は未だに裂けたままだった。
普通なら些細で流せる話ではないのだが、俺ならこの程度の傷は体内へ飲み込めば治せるのだ。
早速グドラを治療する為に、炎に飲み込もうとするのだが……
「ちょっと待つっす!」
「ダルス、どうした?」
「ドラゴンの傷ならオイラに任せるっす!」
「そ、そうか? わかった」
ダルスは俺の前に立つと、こう言い放った。
どうするつもりなのかと眺めていると、ダルスは目を瞑り、手を握る。すると……
「ギュルルルルル……」
浴槽の排水の如く音を立て、ドラゴンの腹の傷は元に戻り、地面には沸騰した内容物だけが取り残されていた。
そしてダルスはフォンに視線を向ける。
「フォン、ちょっと手伝ってくれ!」
「わ、わかったわさ!」
「あのドラゴン……グドラの両腕と両翼を元の位置に戻すように持ち上げられるか?」
「やってみるんだわさ!」
フォンは九尾化すると目が金色に光り、グドラの両腕と両翼が持ち上がった。
するとダルスは再度瞑目し、手を握る。そして……
「ギイィィィ……」
テープを剥がすような音と共に、グドラの腕と翼を修復した。
その様子にグドラは目を丸くする。
「おっ、お前ら……一体何者なんだ!?」
「俺はトール、イフリートだ」
「アタシはフォン。九尾……かな?」
「我輩はドラム。龍神……である」
「オイラは!……お、オイラは……」
ダルスは自身の形態に未だ名前がない。
この場で名前が無いのは少し可愛そうに見える。
何より今回の件の功労者はダルスだ。
そんなダルスが困っているのは見ていられない。
だから俺は助け船を出すことにした。
《あー。俺の国には、犬の神のことを真神と呼んでいるんだ。お前のそれは、真神化で良いんじゃないか?》
《真神化……それで行くっす!》
「オイラはダルス! 真神っす!」
よくよく考えると、俺達は随分と出世したものだ。
狐の獣人のフォンは九尾化し、犬の獣人のダルスは真神化し、龍人のドラムは龍神化した。
そして俺は転生し、全身炎化した。
俺達の力を合わせたら小国の軍事力に匹敵しそうだ。
グドラは俺達を見回し諦念を露わにすると、肩を落とす。
「ワレは、とんでもない奴等に喧嘩を売っていたのだな……」
「そんなに悲観することはないっす。オイラ達は喧嘩をしたいわけじゃないっす。困ったことがあれば、いつでもオイラ達を訪ねて来ればいいっす!」
グドラは顔を上げると、ダルスを見つめ頷いた。
俺達はそれに合わせて頷く。
こうして、グドラは俺達の仲間……とは言えないが、協力者となった。
「ところで、お前は何者なのだ?」
グドラはオルガに視線を向ける。
すると、オルガは肩を落とし、重い口を開く。
「俺は、オルガ。ただの……オークだ」
オルガは辛辣な表情で答えた。
考えてみると、オルガ以外の仲間は何らかの能力を獲得している。
そんな中、オルガだけが取り残されているのは、当人にとっては筆舌しがたい苦痛なのだろう。
特にオルガは劣等感を強く覚える性格だ。
きっと自身の不甲斐無さを一人で抱え込んでいるのかもしれない。
俺はオルガの肩を叩いた。
「そんな顔すんなって! オルガは今のままでも十分強いんだ! そんなに自分を責めるなよ!」
「あっ、ああ……」
しかしオルガに俺の言葉は響かず、がっくりと肩を落としていた。
いつもお読み頂きありがとうございます。
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こちらに裏話や設定を描かせて頂いております。
興味がありましたらご覧ください。
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本文に能力名を入れそびれてしまったので
こちらにドラムの能力名を入れておきます。
ドラム『雷撃制御』雷を任意の場所に撃てる。
発動時に目が青く光る。
執筆中に70件目のブックマークを頂きました!
ありがとうございます!
次回は30日更新です。
戦闘力です。
トール310000
フォン120000
ダルス100000
ドラム80000
オルガ53000
グドラ60000
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