9話 魔将と構想 (魔)
生き返り続ける黒猫フェネクスの昔話を一通り聞いた女剣士ルーナは、魔王ルシフェウスに魔将の集合を報告する。
そのまま一緒に魔将の集う会議室へと向かう。
〜魔王城会議塔 集会室〜
「みな、よく集まってくれた。」
魔王ルシフェウスは女剣士ルーナと共に集会室の扉を開き、言った。
長い机に魔将と呼ばれる者たちが、既に座っている。
その数8体。ルーナとルシフェウスでちょうど10席が埋まる。
ルーナはルシフェウスに近い角の席へ座り、ルシフェウスは長机の先端にある一際大きな席に座った。
「ルシフェウスよぉ。あの話は本当なのか?
啓示で死ぬってのはよぉ?」
ルーナの横に座っている、
ひときわ身体が大きく筋骨隆々な身体を持つ、魔将ヴォーラスは信じられないという様子でルシフェウスに尋ねた。
「同世代とはいえ不敬だぞ、ヴォーラス!
口を慎め!」
ヴォーラスの向かい側に座っている、鳥の頭と羽を持つ魔将。
フォーカスロールは怒った。
「心配せずとも良い。フォーカスロール。
すでにあの演説を行ってから余と諸君らの間に差など無くなったも等しい。
ここからは余も一人称を私と、変えることにする。
さて、諸君ら魔将には''蛮声の角笛''にて既に周知している事だが、この場にこうして全員集まったという事は、私が考える人間との和解の策に同意したと…
考えて良いか?」
ルシフェウスは各々の顔を見た。
座っている、魔将のほとんどが頷く。
「俺は…ッ!!」
一番奥の席を立ち上がったのは、長い槍を持った魔将。
アーミーだった。
「納得してねぇッ!
あんたがそんな葬式みたいなムードになってやがるのが、俺は許せねぇ!
王なら王らしく、最後まで毅然とした態度でいやがれよ!
そんな弱気ならこの国は、俺がもらうッ!」
アーミーは持っていた禍々しい模様の槍を勢いよく振り下ろし、ルシフェウスに向ける。
「おい!それ以上は見逃せんぞ、アーミー!!」
横に座っていたアーミーに向かって、持っていた剣を向けたのは、赤い鎧と赤い髪をした男性の魔将。
ゼパルだった。
遠くに座っているフォーカスロールとルーナも身構えている。
アーミーは構わずルシフェウスに槍を向け続けた。
「双方とも、武器を収めよ。
アーミー。
おまえの言う事はよく分かっている。
だがな、治政の権能を持たぬ者が王国を統治したならば、その国は程なくして滅び、魔の物も人間達に残らず蹂躙され尽くすであろう。
結局真の意味で魔族は滅ぶ。
私は可能な限り少ない犠牲で、多くの魔の民を救いたいだけなのだ。種の根絶は何としても避けたいところである。
それでも尚、私に挑むというのであれば、
後ほど魔将全員の立会いの下、私と決闘をしてもらう。
王になりたくば、その力を示してみよ。
これで文句はあるまい?」
ルシフェウスは、アーミーに提案した。
アーミーはしばらくルシフェウスを睨みつけ、ゆっくり槍を下ろした。
「…わかった。
王の座は力で奪わせてもらう。」
アーミーの殺気が消えたのを確認し、
剣を向けていたゼパルも刃を鞘に収めた。
「…物騒だなぁ…暴力反対の僕がここにいるのが不思議でしょうがないよ…」
手に持っているカードを弄びながら、向かいの席に座っている少年の姿をした魔将。
シーレは、小さな声で呟いた。
「あなたはもう少し余計な事を口走るのを控えるべきね。
生意気さが出るとせっかくの可愛い顔が台無しよ?」
シーレの隣に座る大きな帽子を被った、胸の大きな女性姿の魔将。
グレモリールは同じく小さな声で言った。
シーレは頬を膨らませてグレモリールを睨んだが、グレモリールは不敵な笑みを浮かべている。
「…さて、話を続けてくれないか?ルシフェウス」
ルシフェウスに一番近く、ルーナと反対側に座っている白い龍の顔をもつ魔将。
クロセロは自分のヒゲを触りながら、呆れた様子で促した。
「各々、様々な思いはあると思うが、納得できぬ者、意を唱える者がいる場合は遠慮なく申し出でよ。
去る者は許す。
挑む者は全力で相手をしよう。
そして、私の意に賛同する者はどうか協力してほしい。
今一度、我が構想を確認してもらう。」
ルシフェウスは指をパチンと鳴らした。
魔将達の頭にイメージが流れ込んでくる。
「私が考えるのは、
私自身を完全悪とする事だ。
全ての人間、魔族。
全ての敵意を私に集中させる事。
人間達はもれなく私を憎み、挑みに来るだろう。
魔族達には、私を敵意の対象としている事を洗脳、もしくは演じてもらう。
これにより、魔王ルシフェウスという共通の敵が人間と魔族両方にできる。
敵の敵は味方。
双方は手を取り合い、打倒魔王を掲げる事になる。
勇者が私を倒した後は、人間と魔族の生き残りは和解する。という流れである。
しかし、私だけではこの作戦の成功はありえない。
私の道連れとなる、魔将クラスの魔族が必要だ。
暴君とそれに仕える悪将。
それを打倒するために立ち上がった勇者達、そして元々敵だった魔の者達。
この構図こそ世界全土に散る魔族を救う方法である。
諸君らには本当に心苦しいが、完全なる悪役を演じてほしい。
…ということだ。」
魔将達は静かだった。
すでにルシフェウスから聞いていた内容であったので理解している事ではあったが、
すでに大半は覚悟を決めていたからだ。
「でもよぉ?
多分一番最初に啓示にあった勇者が来るとしたら、俺のとこだろぅ?
倒せたら、倒しちまってもいいんだろぅ?」
筋骨隆々の魔将ヴォーラスは、 ニヤリと笑いながらルシフェウスを見た。
「ああ、倒す事が出来れば…な。
だが勇者には世界の加護がある。
傷は負わせられても、返り討ちにされる可能生の方が高い。
その場合は各々が必ず死を覚悟しなければならない。
生き残りたければ、戦闘中の逃亡も良しとする。」
ヴォーラスに応答した後、
ルシフェウスは再び魔将達の顔を見た。
「この身はすでにルシフェウス様に捧げてございます。
戦えと仰せならば、喜んで戦いましょう。
死ねと仰せなら、喜んで死にましょうぞ。」
「ゼパルに同じく!
私、フォーカスロールも同じ意見であります。」
赤い鎧の魔将ゼパルと、鳥の頭の魔将フォーカスロールは協力に同意した。
「洗脳であれば、私の魔術を応用すれば弱い魔族なら簡単に洗脳できますわ。
私もルシフェウス様と運命を共にする覚悟はできてございますわよ?
シーレちゃんもそうでしょ?」
長い睫毛をなびかせ、片目をウィンクしながら魔女の魔将グレモリールは言った。
名前をいきなり呼ばれた少年の姿の魔将シーレは、驚いて背筋を強張らせた。
「えっ!?
えぇ…僕まだ死にたくないんだよなぁ…
でも、まぁ、ルシフェウス様にはいろいろとお世話になっちゃってるし、僕の力も何かと役に立ちそうだから、控えめにOKかな?」
シーレの目が泳いでいた。
その様子を見てグレモリールは笑っている。
「私もこの身は魔王ルシフェウス様に捧げております!
この身にかけて、魔王様に最後までお仕えいたす所存でございます!」
魔将の女戦士ルーナも意志を高らかに表明した。
「ケッ…」
ルシフェウスと決闘をする事になっている長槍の魔将アーミーは不服そうにそっぽを向いていた。
「さて、私もルシフェウス様に協力するが、約1名だけ全く口を開いておらん魔将がいるな?
お前さんはどう思っているのかね?」
龍の頭の魔将クロセロはルシフェウスの反対側の端に座っている魔将を見た。
黒く長い髪に、黒い服を纏った魔将。
ルシフェウスと同じ形の角を持ち、足を組んだまま沈黙していた。
「ダンタリオン…力を、貸してくれないか?」
ルシフェウスも魔将ダンタリオンを見た。
ダンタリオンはゆっくり顔をあげた。
「…仰せのままに。」
無表情のまま、ダンタリオンは同意した。
その眼光は鋭く、ルシフェウスを見つめていた。
「皆の硬い意志、感謝する。
そして、協力を得たのは良いが、先にケジメはつけねばなるまい。
なぁ?アーミーよ。」
そっぽを向いているアーミーに、ルシフェウスは語りかけた。
アーミーは目を釣り上げながらルシフェウスを睨み返した。
「言っとくがよ?
俺がアンタを倒したら、今までの話は全部無しだ!
悪意を集めようが何をしようが、俺は人間達とわかり合うつもりはねぇし、敵にヘコヘコするような結末はまっぴらごめんだ!」
アーミーは再び怒りを露わにしていた。
横に座っているゼパルは剣の柄に手をかけている。
「よかろう。
では早速、決闘場へ移動するとしよう。
諸君、転移の魔法を使い、移動してくれ。」
ルシフェウスと魔将達は、各自一瞬で席から居なくなった。
長机の端に座っていた魔将ダンタリオンだけが最後に残っていた。
「ルシフェウス…許さんぞ…」
ダンタリオンはそう呟いた後、
転移の魔法で席から消えた。