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「魔王の終活」   作者: クロネコ
37/60

37話 遠吠と接近

絶対魔界領域に足を踏み入れたラストル達は、魔族のワーウルフと戦闘になり、これを撃破する。

ダガーは毒に、ラストルは魔力欠乏を起こしていた。


〜絶対魔界領域 ヴォーラス領〜


朦朧(もうろう)とする意識の中で、致命傷を受けた指揮官のワーウルフは辺りの惨状を目の当たりにしていた。


「グッ…全滅…数ノ有利ハ、コチラニアッタノニ…」


吐血しながら、もう目の前の景色はボヤけて分からない。


「なんだ?

このケダモノ野郎まだ息があるのか?しぶとい奴だ。」


髪の毛の無い人間の声がする。

おそらくあの大きな斧で、私は首を斬られて絶命するのだろう。


指揮官ワーウルフは心の中で思った。


(…シャクな話だが、この毛の無い男は大した事は無かったのだ。

私の注意が別の男に向いていたせいで(すき)をつかれたのだ。


一番の問題は1人で17体の仲間を(ほおむ)ったあの男。

まるで草を刈る様に、武装した鎧ごと破壊…


ザギ、マグ、ボムはあの中でも弓の名手、アルは私と同じく腕の立つ剣士。

そう簡単に殺されるようなワーウルフではなかった。


人間の戦士にも強者は居る。Sクラスとかいうとんでもない力を持った人間だ。

見ただけで圧倒的な威圧感がある。


しかし、そこに倒れている男にはそれが無い。

普通の人間の気配なのに圧倒的な戦闘力。

そして磨かれきっていない(あら)さ。

雰囲気が何か違う…


これは、可能性がある…

伝えねば…!!勇者が来たと…!!)


瀕死(ひんし)にもかかわらず、指揮官ワーウルフは頭が()え渡っていた。

ワーウルフは最後の力を振り絞り、息を吸った。


「ギャオォォォーッ!!!」


ワーウルフの非常に大きな遠吠えが響き渡る。


「こいつ!また仲間を呼ぶ気か、そうはさせるか!!」


ジャックの斧が勢いよく振り下ろされた。


〜ヴォーラス城〜


夜の月を眺めながら、ヴォーラスは城の最上階のテラスにいた。


「どうした?何を怯えてんだケルベロス?」


ヴォーラスは小刻みに震える魔犬のペット、ケルベロスを大きな手で抱き抱える。


すると遠くの方から狼の遠吠えが聞こえてきた。


「!?


ありゃ、周辺警護させてたワーウルフのギルの声か!?」


ヴォーラスは遠くで聞こえる声の方角を見た。

すると、ドアを激しくノックする音が背後で聞こえてきた。


「ヴォーラスの旦那ぁ!

失礼するぜ!」


入ってきたのは、武装した緑の身体のハイゴブリンだった。


「旦那。今の遠吠え聞いたか?

ありゃギルの緊急を伝える声だぜ!」


ハイゴブリンは焦った様子で答える。


「緊急だって!?

ギル達ワーウルフ部隊は結構強いはずだが、どんな状況だ?」


ヴォーラスは魔犬のケルベロスを鎖で繋いで聞き返す。


「おそらく…巨人が暴走したか、勇者が現れたか。」


ハイゴブリンは腕を組みながら言った。


「前者である事を願うぜ…

ちょっくら行ってくる。」


ヴォーラスは戦鎚を取り出し、テラスから飛び降りて走った。


〜 絶対魔界領域 〜


ラストルは全身の激しい消耗でその場から動けずにいた。


「出だしからかなりやられたな…

戦闘不能者を2名も…


舐めてたぜ魔界領域。」


ジャックは汗をかきながら周りを見渡して言った。


「はぁ…はぁ…でも分かった事がある。

魔界領域は危険だと言われるが、イマイチどれほどの危険度か測りかねていた…


…しかし、今回の戦闘でハッキリした。

この領域の敵は戦いに慣れている。

毒を使った弓の使用、遠近距離対応の小規模部隊を編成し、それを指揮する指揮官までいる。


おまけに、ワーウルフならとてつもない嗅覚の優位(アドバンテージ)を持っている。


最初に俺たちの初動(しょどう)を伺うという、不可解な行動はあったが、先手を打たれていたら全滅だった…」


ラストルはかろうじて動かせる右腕で、腰の袋から小さなビンを取り出しながら言った。


「…ダガーの毒が解毒されるまでに時間がかかりそう。


ここにいたら血の匂いとさっきの遠吠えで、魔物達が集まってくるわ。

早く移動しないと…」


ペティは(うめ)きながら横たわるダガーを魔法で解毒していた。


「幸い、まだユーズ王国の門から遠く離れてないはずだ。


担いで1人は背負って行けそうだが…

ん?…ラストル…?」


ジャックはラストルの方を見た。

ラストルは魔法の詠唱を唱えていた。


「お…おいおい!

お前そんな身動きできない身体でまだ何をしようってんだ!


死んじまうぞ!?」


ジャックは焦っている。

しかしラストルは詠唱の最後を読み上げ魔法を発動した。


隠蔽ヴェール!!」


瞬時にラストルの姿が消えた。


「おう!?消えた…!

ど…どこだラストル??」


ジャックは周りを見渡して探した。

どこからともなく、ラストルの声がする。


「…すまん。皆は先にダガーさんを連れてユーズ王国の門の前まで帰ってくれ。

門まで行けば、結界が張られているから安全なはずだ!


俺は少し調べたい事がある。

2時間後に門の前に現れなかったら、死亡したって事にして欲しい。」


「ばっ…馬鹿野郎!そんな事ができるか!

こんなところで1人で残るって??

それこそマジで死ぬぞ!


それに、お前今動けなかっただろうが!」


ジャックは声を荒げて叫んだ。


「そうよ!

身体を隠しても魔力欠乏状態じゃ数分ももたないわ!


帰るなら一緒に…!」


ペティもラストルをさ叫ぶ。


「俺は魔力欠乏を一瞬で治す薬を持ってるから大丈夫だ。…先に行ってくれ。頼む。」


ラストルの声は申し訳なさそうだった。

ジャックもペティもしばらく黙っていた。


「…わかった。お前には命を救われたし、前殴っちまった詫びもしてねぇ。


これ以上は何も言わねぇ。

でも、必ず戻って来いよ!いいな?」


ジャックは青ざめたダガーを背負い走った。


「あ!ちょっとジャック!いいの!?」


ペティは走るジャックを追いかけながら言った。


「アイツはこの中でおそらく一番強い。

バケモンみたいなセンスの塊だ。


1人でも大丈夫だ!」


ジャックはペティに言った。

走る2人をラストルは静かに身送った。


空になった小ビンをポケットにしまいながら、ワーウルフの残骸が残る現場にラストルは1人息を潜めた。


(…ヴァンから貰った万能リンゴの果汁を絞ってきてビンに詰めてきた。


解毒作用はないが、自然治癒能力を爆発的に高めるうえ、魔力欠乏症が一瞬で治る。


…さて。

問題はここからだ。)


ラストルは周りを見渡した。

辺りは鎮まりきっている。


「居るんだろ?デューダ!!」


姿を消したままラストルは岩のそびえる辺りに向かってに叫んだ。

すぐに静寂に戻る周囲。


ラストルは再び叫んだ。


「もう、わかってんだよ!

ワーウルフは集団行動を得意とするが、最初に遭遇してから、俺たちを囲むまでの準備が良すぎるんだ!


誰かがこの場所に人間が来る事を伝達してなけりゃ無理だ。

そんな事をしそうな奴はアンタしか考えられねぇんだよ!」


ラストルの叫び声に、どこからともなく笑う声が聞こえてきた。


「…クククッ。大した考察力だね

君の目まぐるしい成長を喜ばしく思うよラストル。」


突然デューダがその姿を現した。

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