31話 妖艶と結界 (魔)
コンフリクトラインでの戦いは続く。
〜 コンフリクトライン グレモリール領付近 〜
「なぁ…おかしくないか?
俺たちさっきまで荒野で戦ってたのに。
なんで森になってんだ?」
戦士たちは戸惑う。
魔物と戦っていたはずなのに、いつの間にか辺り一面暗く、深い森になっていた。
「広い荒野は方向感覚がなくなるからって、方位磁石持ってきたが、完全に狂ってやがる。」
戦士の一人が持っている方位磁針が手の上で回転している。
「アスモデウルス様から受け継いだ権能''森''。
精神耐性の無いものはこの無間の森からは抜ける事ができないわ。」
戦士たちの前方から、ツバの大きな三角帽子を被り、胸元が大きく開いた紫のローブを着た女性が現れた。
「随分といい女が出てきたじゃねぇか。
魔女か…人間か?
どっちでもいいや。
この状況はお前が作ってんのはわかった。
あとは捕まえて俺たち全員の慰物になってもらうぜ。」
戦士達はゲラゲラと笑いながら女性に言った。
「はぁ…私の事があなた達人間と同じに見えるなんて、心底ヘドが出る。
そして品性のかけらも無い。
人間のオスの頭の中は生殖器でできてるのかしら?」
女性は深くため息をついて呆れた。
「お高く止まってられるのも今のうちだ!
行くぞお前ら!!」
戦士達は一斉に女性の元へ走り出した。
「…本当に。
どうしてこう、低脳ばかりなのかしら。」
女性は持っていた木の杖で床を小突いた。
すると地面には一気にぬかるみにへんかした。
「うぉッ!なんだ!?
足が埋まる!?」
走っていた戦士達の足元は沼のようになり、じわじわと足を飲み込んでいく。
「''森''の権能は、森にあるものすべてを自在に出現させることが可能よ。
あなた達がいるこの空間は''迷いの森''。
一度術中にかかった者は私を倒すか、強力な内外部からの干渉がなければ脱出はできない。
そして、あなた達が沈んでるそこは…
言わなくてもわかるわよね?」
女性は不気味な笑みを浮かべて、自分の前で沈んでいく戦士達に向けて言った。
「まさか…''底なし沼''か!
誰か!誰か沈んでない奴はいないか?」
沈む戦士達は慌てて周りを見渡すが、全員首まで沈んでいる。
「あなた達はこの私、妖艶の魔将グレモリールの作る森の一部になってもらうわ。
品性の無さを森になって悔い改めることね。」
「ぐおぉぉぉ!!ゴボゴボ…」
戦士達は全員底なし沼の中へ消えた。
「ふぅ…私がタイプなのは、美形の可愛い男の子だけよ。」
グレモリールは、長いパイプタバコに火をつけながら美味そうに煙を吐き出し、その場を去っていった。
〜 コンフリクトライン クロセロ領域付近 〜
白い長い髭を揺らしながら、龍の姿をした魔物が立っている。
白いローブに緑のラインが入った緑の服を着ている。
「…ありゃ魔物だよな?
なんであんなところで空を見ながら立ってるんだ?」
龍の魔物は何もする事はなく、ただ空を見上げている。
「おい!何をしている!」
戦士は叫ぶ。
すると龍の魔物は非常にゆっくりと顔を下ろす。
そして同じくゆっくりな口調で話した。
「私は…結界の魔将…クロセロ…
汝らは…すでに私の…掌の上にいる…
と言っても、すでにその肉体の箍が外れているだろうがな?」
クロセロの声が途中からスムーズに聞こえるようになった。
「あれ?なんで俺が見えるんだ?
血を流して倒れているぞ!?!?」
戦士たちは口々に言った。
身体に穴が空き、血を流し、倒れた自分の姿が見える。
まるで自分が空を飛んでいるように、その姿を確認した。
ほかの人戦士たちも口々に言い、驚く。
「感謝するが良い人間よ。
生物の死とは少なからず苦痛を伴うが、
''死んだ事に気づかなければ''、如何様の苦痛も無い。
汝らが私の声を水が流れるように滑らかに聞こえた時、すでに汝らの命は終わっている。」
クロセロは再び、魂を天へ送るように空を見上げた。
〜 コンフリクトライン ダンタリオン領域 〜
魔王ルシフェウスと同じ形の角を持つダンタリオンは静かに荒野を見ていた。
従者はおらずただ一人、敵も味方もいない大地を眺める。
「…」
その沈黙の表情には、かすかに憤りが垣間見えていた。




