26話 骸骨と遭遇 (勇)
同じ卒業生のケイロンとの激しい模擬戦を終え、足早に足の不自由な少女オリビアに会いに行くが、ラストルが目にしたのはケイロンがオリビアに結婚を申し出ている状況だった。
オリビアが笑顔で承諾しているのを見たラストルは静かに、その場を去り1人郊外の丘を目指す。
〜 ユーズ王国 郊外の丘 〜
夕日が沈む。
太陽が地平線へ潜り込み、空の赤と地の黒の2色が綺麗に分かれる。
「あぁ…
なんか、疲れた…」
ラストルは戦業成績主席卒業者にのみ与えられる、剣を傍らに置き、丘の上でぼんやりと景色を眺めていた。
ふと、足元に見覚えのある青い瞳の黒猫がいた。
「お前!あの時の!?
生きてたのか!!
懐かしいなぁ!巨人から逃げて以来か…
どうやってここまできたんだ?」
黒猫はラストルを見ると小さな声で鳴き、ラストルに寄って来た。
ラストルは黒猫を抱き抱えた。
「なぁ聞いてくれよ。
俺、あいつが笑顔になったり、幸せになってくれることを望んでたはずなんだ。
俺が非力なせいで立てなくなっちまったからだ。
でもな、今日あいつの幸せそうな顔を見て、嬉しいはずなのに…なんか…素直に喜べなくてな。
足を治す為に頑張るって約束したんだけど…
どうしちまったんだろうな、俺。」
ラストルは黒猫に思っていた事を言った。
黒猫は理解してない様子でラストルに黙って抱かれている。
「…戦いに勝ったが恋の勝負には負けたか?
まぁ、よくある話だ。
元気出せよ元少年。」
「!!」
ラストルはどこからともなく聞こえる声に驚き、咄嗟に傍に置いてあった剣を引き抜き構えた。
黒猫は驚いて丘を下り、逃げてしまった。
丘の上には大きな木が1本あり、その枝の上に何かがラストルの方を見ていた。
四頭身程度の小柄。
身体に似つかわしくない程の大きな黒いブーツ。
短い白ズボンに、ワインレッドのジャケットを羽織り、中は丸首のTシャツ。
双眼鏡をぶら下げている。
そして、その顔は骸骨だった。
「魔物…!!
この国の中にだと!?」
結界が張り巡らされ、堅固な壁で囲まれたユーズ王国に魔物が入り込む余地はない。
しかし、目の前にいるこの服を着た骸骨の魔物は確かにそこにいる。
ラストルは頭の中であらゆる可能性を考えながら、剣を構えている。
「おいおい、こっちは双眼鏡だけの丸腰だぜ?
落ち着けって。
別に取って食おうとも、戦おうとも思っちゃいないよ。
失恋した悲しき元少年と話がしたくてな?
よっと!」
骸骨は座っていた木の枝が飛び降り、草むらを踏みしめた。
「物言う魔物は人間の精神を汚染する!
全ての言動は人間を捕食し殺害する為の技に他ならないと学んだ!
お前と話す事など無いッ!」
ラストルは踏み込み骸骨を一刀両断にした。
しかし、斬り捨てたはずの相手の姿がない。
「…やれやれ、そういう偏見を盛り盛りに含んだ教育ばかりするから、いつまでたっても分かり合えないんだよなぁ。
目に見えたもの、聞いたものが全て正しいと思わない方がいいぞ?」
骸骨の魔物はラストルの背後をスタスタと歩いている。
「いつの間に…!
なんなんだこいつは…」
ラストルは振り返り、再び剣を構える。
骸骨の魔物はそのまま草の上に座り込んだ。
「何度も言うけどよ?
俺は戦う気はねぇからな?
ただ、お前さんと話がしたいだけだ。」
「何をだ…?
お前と会ったのは初めてだろう!」
骸骨の魔物は首だけをクルリと回し、ラストルの方へ向ける。
「俺はお前さんが生まれてからずーっとお前さんを見ていた。
お前が巨人を倒した時も、今日こうして学校を卒業する時までずーっとだ。
だからお前さん自身の知らないところまで、俺は知っている。」
骸骨の魔物はニタリと笑う。
「き…気持ち悪りぃ…
魔物にストーカーされてたってわけかよ…
冗談じゃねぇ…
一体何が目的だ!」
ラストルは骸骨の魔物への警戒を解かない。
骸骨の魔物は続ける。
「見るだけだからまだ紳士的だろぅ?
目的か…単純な興味。ただならぬ気配。要は魔物の感?」
「ふざけてんのか?」
ラストルは苛立つ。
「ケケケッもちろん冗談さ。
お前の父親クリストとは昔、戦った仲でねぇ。
結局お互い勝負がつかず、俺もこれだけ喋る魔物だから、色々言葉を交わすうちに仲良くなっちまったのさ。
こうやって服を着て、人間の格好をすれば遠目からは魔物とバレないって教えてくれたのもクリストさ。
目的は何かといえば友人の息子を見守って、然るべき時期に助言を与える為。
こんなところかな?」
ラストルは驚愕した。
「父さんが…魔物と…!?
嘘だ…ありえない…父は考古学の研究者だ…!」
ラストルは主張するが、骸骨の魔物は指を振りながら冷静に返答する。
「考古学ってのは遺跡なんかを探索するだろ?
俺らみたいな絶対魔界領域に住んでない魔物はそういう人の寄り付かない遺跡にいたりするんだが、
その時にバッタリな。
てなわけで、少なからずお前とは無関係じゃないってことさ。
そして、俺はお前の知らない事まで知ってる。
そんな奴と会話ができるんだ。
価値があると思わないかい?」
骸骨の魔物は白い歯を見せながらニタニタ笑っている。
ラストルはしばらく黙っていたが、剣を収めて少し近づいた。
「話すだけだぞ?
要求だとか約束なんかしても無駄だからな。」
「ああ、問題ないぜ?
おっと、名前を言ってなかったな。
俺はヴァン。スケルトンの魔物だ。
よろしく元少年。」
骸骨の魔物ヴァンは再び前を向き、沈む太陽を眺めている。
ラストルはゆっくり近づき、隣に座った。
「俺はラストルだ。元少年じゃない。
お前、父さんと仲良しだったんだろ?
しかも、俺が生まれてから見てたって事は、父さんが死ぬ時も見てたんじゃないのか?
なんで助けに来なかったんだ。」
ラストルはヴァンを見ずに言った。
「あれは、気の毒だった。
だがな、逆の立場で考えてみろ?
お前は自分が魔物と友達だったとして、魔物の友達が別の強そうな魔物に殺されたのを見て助けに行けるか?
双眼鏡一つだけ持っててさ。
死体が一つ増えるだけだとは思わねぇか?」
ヴァンは説明した。
ラストルは納得したのかそのまま黙り込んだ。
「んじゃ、こっちからも質問するぜ。
ラストル、お前の身の回りでおかしな事は起こってないか?」
ヴァンに聞かれ、ラストルは考えた。
そしてすぐにハッとして自分の服を捲った。
ラストルの身体は、深い切り傷跡が無数に付いていた。
「そういや…朝起きたら得体の知れない切り傷跡が付いている事が何度もある。
病気かと思ったが、なんでもない。
痛みも何もないが、たしかに切り傷が回復したものらしい。
コレがいつ付いて、いつ治ったのかはわからない。」
ラストルは自分の身体の傷を指でなぞりながら言った。
「ケケケッ…やっぱり気づいてないみたいだな。
さっき言ったことを思い出せ?
お前の見た事聞いた事が全て真実だとは限らない。
敵は案外近くに。そして確実に居る。」
ヴァンは落ち着いた様子で語る。
「敵…?
敵ってなんだ?
ヴァン。お前は何を知っている…」
ラストルはヴァンに言った。
ヴァンはもったいぶった様子で言う。
「これは助言だぜ、ラストル。
そもそもトローク村は何故巨人に襲われたのか。
何故あの時、盗賊がお前の家に来たのか。
その答えを知るには今晩の行動が大事だ。
誰かに聞かれるとマズイからここからは念話で話すぜ。」
ヴァンの空洞の目で光っていた光が消え、ラストルの頭に直接言葉が渡された。
「嘘…だろ…」
ラストルは青ざめ、そして混乱した。
ヴァンは続ける。
「今の言葉を信じるか、信じないかはお前さんに任せる。
だが俺は真実を話している。
動機は俺も分からんが、あとはお前さんの行動で解き明かしていくしかない。
確かめられたら、また俺のところに来るといい。
次に会う時には俺から一つお願いがある。
なぁに大したことは無いさ、俺もお前さんもその時は目的は一致しているだろうぜ?」
ヴァンは再び白い歯を見せて言った。
ラストルは黙って立ち上がった。
「わかった。
ひとまずお前の言う事が正しいという判断で行動してみる。
もし嘘なら…」
「俺の骨で出汁を取るなり、カリカリに焼くなり好きにしな?」
ヴァンは笑いながら答えた。
ラストルは真剣な目をしたまま、まっすぐ家に帰っていった。




