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「魔王の終活」   作者: クロネコ
24/60

24話 暗躍と後手 (勇)

〜 ユーズ国立ハイスクール 医務室 〜


目を覚ますと医務室の天井だった。


(はて、僕はなぜここにいるのだろう?


確かラストル君と模擬戦をしていて…)


顔に手を当ててしばらく考えた後、ベッドから勢いよく起きあがる。

甘い匂いが漂っている。


「よう、ケイロン。大丈夫かよ?」


部屋に置かれている丸いテーブルで椅子に腰掛けながら、ラストルはシロップティーを飲んでいた。


ラストルの片手には包帯が巻かれ、顔やズボンを(まく)り上げられた足には白い絆創膏(ばんそうこう)がいくつも貼られている。


「そうか…僕は負けたのか…


いやぁ〜悔しいなぁ〜

最後くらいは勝ちたかったのに…


あ、模擬戦中に品の無い事を言った事は()びるよ。


本心だったけど本気で戦うにはあれくらい(あお)らないと、君はやる気出してくれないと思ってさ。」


ケイロンは同じく包帯が巻かれている自分の片腕を見ながら、すぐにいつもの調子で話をし出した。


「いや本心なのかよ。まぁ、いいや。

煽らなくてもマジで戦ったぞ俺は。


…しかし俺も少し言いすぎた。すまん。」


ラストルは片手でシロップティーを(すす)った。


すると、医務室の引き戸が開いた。


「おぉ!ケイロン君、気がついたようだね!


卒業の日にあまり医務室に来ない怪我人が運ばれてきたり、昔治療したラストル君と再開したり、私は驚きで頭の整理がついていかんよ!」


医務室で担当医をしていたのは、8年前にラストルが教師デューダと共に巨人と戦った際、運ばれた病院で医師をしていたポロだった。


ポロは大きな鼻の下に生えた(しろ)ひげを(いじ)りながら言った。


「外で君達の安否を心配してる大勢の生徒から話は聞いたよ。

随分と派手な模擬戦をしたそうじゃないか?


まったく。卒業くらい楽しく祝えばよいのに…」


ポロはシロップティーを淹れて、ラストルの向かい側の椅子に腰掛けてた。


「どちらが戦闘能力が上か、どうしても白黒つけたかったんです。


そうだよね?ラストル君?」


「俺はお前の口の出任(でまか)せに巻き込まれただけだ…」


同意を求めたケイロンを一蹴(いっしゅう)しながら、ラストルはシロップティーを飲んだ。


「まぁ、軽い怪我程度で良かった。


ケイロン君。

今日は栄養価の高いものをたくさん食べて魔力欠乏を回復させる事。


ラストル君は怪我の程度が少し酷いから安静にする事だ。

いいね?」


ポロは2人に忠告した。


「わかったよポロ先生。

最後に厄介(やっかい)になってごめんな。


んじゃ、俺帰るわ。


またどこかで会えるといいな。

ケイロンも早く体治して、早く偉そうな執政官(しっせいかん)様になりな。」


ラストルは飲み終えたティーカップを置き、帰る準備をした。


「相変わらず感情表現が下手だね君は!

そんなんじゃ君のことを好いてくれる人から見放されるぞ?


…そうだね。

僕も少し休んだら行くよ!


ありがとうポロ先生。

卒業する前に会えて良かったよ!」


ケイロンは爽やかに笑いながら言った。


「あぁ、2人とも社会に出ても頑張ってな!」


ポロは2人に向けて激励(げきれい)した。

ラストルは口元だけニコリと笑うと、医務室を後にした。


ケイロンが動けるようになり、身支度(みじたく)を整え、外で待っていたの女子生徒達と下校する姿を見送ったポロは、医務室で書類をまとめていた。


すると、医務室の引き戸が開く。

コートの男が1人立っていた。


「やぁ、来ないわけないと思っていたけど来たね。」


ポロはコートの男を見ずに書類をまとめている。


「1度目の巨人の襲撃には勇者特有の腹部の発光を確認。


盗賊に襲わせた時には両親は殺害されたが生き残り、返り討ちに。


その後、2度目の巨人の襲撃にはどういう理由かは知らぬが生き残った。


その後幾度(いくど)となく、殺害を試みたが全て失敗。」


コートの男が思い出すようにつぶやく。

ポロはやっとコートの男に顔を向けた。


「…にわかに信じられないが、君の言う通りラストルという少年は伝説に聞く勇者の可能性が高いようだ。


気は乗らなかったが、シロップティーに魔物でも簡単に殺せる劇薬を入れた。

しかし、彼は苦しむこともなく簡単にすべて飲み干した。


劇薬のボトルを確認したところ、製造工場のラベリングミスで中身は栄養剤になっていた。


超大手企業の作る薬品だぞ?

こんなミスはあり得ない事だ。


だが、今の彼にはそれが起こりうる。

(まぎ)れもなく勇者に備わると言われる''世界の加護''というやつだろう。」


ポロは赤い字で劇薬と書いてある中身が栄養剤のボトルを机の引き出しから取り出して見せた。


「彼は我々の想定通りに戦士を目指す。

私も姿は見た事が無いが、確かに存在する魔王に彼が挑む。


既に始まっている人魔大戦。

勇者伝説の再現。


舞台は整っている。

あとは彼の活躍を記録し、保存する。

我々の目的はこれで達せられる。」


コートの男は入ってきた引き戸の方へ向かいながら言った。


「…全く、君の探究心が恐ろしいよ。

勇者と思わしき噂のある地に(おもむ)いては、手を汚さずに殺害を試る。


そうやって君は一体何人の人間を…?」


ポロの問いかけを受け、

コートの男が戸に手をかけて止まった。


「さあな。

両手で数えられなくなってから躊躇(ためら)いも無くなり、覚える事を辞めた。


ポロ。

人を救う仕事をしながら、子供に劇薬を飲ませようとするお前の行為もまた罪深く恐ろしいよ。


気は乗らぬとは言っていたが、お前の顔からは好奇心が(にじ)み出ているぞ?」


ポロは気付かずニヤケていた口元に手を当てて隠した。

コートの男は引き戸を開けた。


「では、引き続き観察と検証、記録を続ける。

また近々連絡する。」


コートの男は去っていった。

口に手を当てたままポロの肩は笑っていた。

にこやかな顔とは打って変わり、その笑顔は邪悪に満ちていた。


「あぁ…こんなに好奇心をくすぐる素体(そたい)は見たことが無いよ。

殺そうとしても運命がそうさせない少年…


実に興味深い。」


ポロは再び書類の整理を始めた。



〜 首都ユーズ 東方面住宅地帯 〜


国立ユーズハイスクールから徒歩圏内の閑静な住宅地帯。


ラストルは夕日の輝く空の下を一人帰っていた。


「くそぅ…

まさか俺も出待ちされてたとは…」


数時間前。


ラストルはケイロンを心配する女子生徒と話した後、校門に出たところを大量の男子生徒に捕まっていた。


「お!

我らが英雄様が医務室からお戻りになったぜ!


お疲れラストル!

昼間は(しび)れる戦いだったぜ!

あのいけすかねぇケイロンに吠え面(ほえずら)かかせてここにいる皆スカッとしてる!」


観客席で生の戦いを見れる事に興奮していた生徒が元気よく話しかけてきた。


「今日はみんなで卒業祝いするんだ!

もちろんラお前もつれていくぜ!

俺ら全員で金出すから主席のラストルはタダ飯でいいぜ!!」


ラストルの肩に手を回しながら別の生徒の一人が陽気に話しかける。


「いや…まて、俺は帰…」


「さぁ!行くぞお前ら!!

(うたげ)じゃあ!!」


ラストルが言い切る前に生徒達は無理やり彼を押しながら、レストランへ連れていかれた。


現在。


「だいぶ遅くなっちまったな…

アイツ先に帰ってるよな?」


ラストルは足早に自宅ではない方向へ向かう。

彼はある人物に会うつもりでいた。


閑静(かんせい)な住宅街を進み抜け、角を曲がる。

オリビアの家があった。


しかし、オリビアは車椅子に乗ったまま誰かと、外で楽しそうに話していた。


その相手は紛れもなくケイロンであった。

自分と同じく怪我をしているケイロンとオリビアが仲睦(なかむつ)まじく会話をしている。


ラストルはなぜか身を隠していた。

曲がり角からオリビアとケイロンの様子を見て、話し声を聞いていた。


「…卒業まで随分待たせたね!

僕はこのまま執政官(しっせいかん)になる道を歩む。


そして、国だけじゃなくオリビア。

君も大事に守ってみせる。

僕と…結婚しよう。」


「ええ!喜んで!

私も助けてもらってばかりじゃなく、貴方(あなた)を支えるいい奥さんになるわ!」


ケイロンとオリビアはお高い手を握りながらキスをした。


ラストルは何をするわけでもなく、静かにその場を去った。

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