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十九話 ウワサって本当に迷惑

「怖くない?」


「俺としては、空閑の方向音痴のレベルの方が怖いぞ」


 翌週の月曜日。文芸部の活動を図書室で行いながら、長崎に先週あったことを話していた。


 今日は僕と長崎の他に、二年生の女子部員、中野(なかの)日菜(ひな)って子が一人だけ来ている。やたら分厚い本立派な本は、どうも英語で書かれているようで、タイトルからして読めない。


 話してみると思ってることをはっきり口に出すタイプで話しやすいのだが、本の話だけは合わない子だ。ただ、一度どう見ても表紙に、なんかこう……、二人のイケメンが色々やってる系統の本を読んでいるのを見かけたことがあるので、全くオタク会話についてこれないってわけじゃないと思う。

 そんな系統の本の話、男子としては全力で遠慮させてもらうけど。


「自分でも、それはわかってるけどさぁ……」


 迷子って言うより、遭難だもんなぁ。


 自覚はあるのだが、自覚があるだけで方向音痴が治ったら苦労は要らない。


「治す努力をしろよ」


「してる! してるんだよ! 効果ないだけで!!」


 進む道全部RPGよろしくマッピングしたり、写真に撮ったりしたけどダメだったのだ。自作の地図は方向音痴な僕が描いたせいで縮尺とか微妙な方向とかめちゃくちゃだし、写真に撮ったら撮ったで全く同じ風景を探すのに固執し過ぎて先に進まないうえに現在地見失うし……


「げふんげふん!!」


「ご、ごめん」


 後ろで読書をしていた中野さんにわざとらしい咳払いと共に睨まれ、縮こまる僕。ここは図書室なので、本来読書するのが正しい。文句とか言えない。


 話なら他の場所ですればいいと思うかもしれないが、教室は残ってる人がいて居づらいし、空き教室はここから遠い。ここは図書室の他に理科室や調理室、音楽室なんかがある特別授業棟だが、この時間に空いてる教室は教室棟なので全然違う場所だ。

 教室にいたんだから本当だったらその教室の方が近かったんだけど、今日は図書室にどうしても返さなくちゃいけない本があったからここで話しているのだ。それに、長崎だっていたし。


 なので極力声をひそめながら話を続ける。


「どうやったら迷子にならないと思う?」


「GPSでも使えばいいんじゃないか?」


「学校にケータイ持ち込むの禁止じゃん」


「そんなの律儀に守ってるの、お前くらいだぞ?」


「え、ホント?」


 校則なんだから、持って来ちゃマズいだろ。あ、でもゼクスも持って来てたし先週学校にいた時に村上さんからメアド訊かれたりしたな……ってことは、校則があるから大っぴらに許可は出来ないけど、授業中に鳴らなければ黙認してくれるってことなのだろう。


「じゃあアリかなGPS……ダメだ、山の中圏外だった」


「あー、あそこアンテナ立たないよな」


 山の中だから、仕方がないと言えば仕方がない。


「けど一本なら立ったかも。腕思いっきり上に上げれば」


「……」


 長崎が腕上げてやっとってことは。上げても腕の位置が少なく見積もって二十センチほど低い僕ではどうにもならないということではないでしょうか。


 頭を過った自虐を脳内で蹴り飛ばし、もうケータイの話題はやめようと最初に話を戻す。


「それで、そんな感じの男の子が最近、いや昔でもいいけど死んだとかある?」


「ないよ。不吉なこと言うなよな。確かに山近いけど、普通は迷子になるような奥深い山じゃないんだぞ? 山の事故なんか聞いたことねえよ。死亡事故があったとしたら大通りだけど、方向真逆じゃん。それにギリ隣町だし」


「そうだよね。じゃああの子は幽霊とかじゃないよね!?」


「いるわけないだろ、そんな非科学的な存在」


 長崎は幽霊否定側だったらしい。


 僕的には、いないなんて証明は出来ないんだから、いるもんだと思って行動した方が断然良いと思ってる派だ。悪魔の証明は証明不可能だからこそ、理論として成り立っているのだから。それにいないよりいると思って過ごした方が、人生少しは楽しそうだ。だからって出逢って呪われるのはごめんだけど。


 幽霊話に飽きたのか、長崎ははいはいいるかもねーと適当に流しつつ、より声を小さくして訊いて来た。


「まあそんなもんはいいんだけどさ、お前って村上と付き合ってるんだって?」


「あー、まあ……」


 隣のクラスだし、それくらい知っていても不思議ではない。ここはどっちかと言えば田舎寄りなので、噂の広まり方はそこそこ早いのだ。それに、学校っていう閉鎖空間は噂が特に広まりやすい。


 正面切って訊かれるとすごく恥ずかしい話なので口ごもる僕に、長崎は何とも言えない表情を浮かべていた。


「そっか、村上と……じゃあ、原とも付き合ってて二股かけてるってのは?」

「ぶごぁっ!?」

 なんじゃあその根も葉もなか噂はぁっ!?


 待て、落ち着け。落ち着くんだ僕。驚き過ぎてどこかよくわからない地方の方言になってるぞ!!


 驚愕のあまり咽込む僕を、長崎は困った目で見ていた。背中さすった方がいいのか、それとも弁明を聞いた方がいいのか決めあぐねていると見える。


 長崎には手で大丈夫だと示してから、大きく深呼吸した。何も口の中に入っていなくてよかった。もしも何か入っていたりしたら、そこら中が大参事になっていたところだ。


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