表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/41

十話 なんでだろう

「ちなみに言っておくと、うちの学校の創立記念日が五月八日だから、普通の学校よりも休みが一日多いわよ。ラッキーよね。だから、間違えて登校しないように気を付けた方がいいわよ」


「え、そうなの?」


 それはすごくラッキーで、ありがい情報だ。少ないと思っていた休みが、一日とは言え増えたのだから。学生としてはかなり嬉しい。これは有意義に過ごさねばなるまい。有意義と言ったところで、結局アニメ見るか漫画読むかゲームするかの三択なんだけど。

 漫画描く練習は……出来たらしたいけど、道具を売ってる店がなさそうだよなぁ。あんまりインクがないから、清書がなあ。それに漫画描く道具って、けっこうたかいんだよねぇ。それなら鉛筆で描けばいいだけの話だけど、うーん……


 それにもし仮に売っている店が近所にあったところで、僕が一人でそんなところまで行けるとは思えない。どこだかわからない場所に辿り着き、下手をすると警察のご厄介になりかねないのだ。ていうか実際、前にやってすごく怒られたし。


 だから多分、いつも通りののんびりとした変わり映えのしない休日だろう。


 そんなことを話していると、なぜだた突然ゼクスがぴたりと立ち止まった。


「どうしたの?」


 訊いた瞬間、ゼクスの顔に浮かんだのは、百パーセントの呆れだった。


「どうしたも何も、ここあなたの家でしょ」


「え」


 言われて目の前の建物を見れば、確かに僕の家だ……と、思う。つい最近、具体的に言うと昨日の午前中まで入院してたから、あんまりここが我が家だと言う実感がなかいんだよね。一泊しかしてないわけだし。


 小さな平屋の一軒家の借家は、どことなく他人行儀にそこに建っている。どこにでもあるような特徴に欠けるこの場所が自分の家だと思える日が、来るのだろうか。来たとしても、一年と経たずに元の場所に戻るんだけど。


「ちゃんと流くんちに着いたわけだし、私はもう帰るわね」


「そっか。ちなみにゼクスんちって、ここから近いの?」


「近いわよ。この道を道なりに真っ直ぐ行った突き当たりの、二階建ての家。表札がかかってるから、すぐにわかると思うわ」


 ゼクスの指さした方を見て見るが、ここからだと見えなかった。ただまあ、結構近いことはわかった。というかここ、ゼクスの帰り道の途中だ。ならわざわざ自宅まで道案内してもらった罪悪感も、多少は薄れる。僕が勝手に思ってるだけなので、ゼクスには関係ないけど。


 遠回りさせるよりはよかったけど、そこに住んでる本人がわかっていない家まで送り届けてくれたのだ。ならば、言うべきことがある。


「ありがとう、ゼクス。助かったよ」


「ど、どういたしまして……」


 ? なんで目を逸らすんだろう? ていうか横顔がすごく赤いけど……もしかしてもしかしなくても、照れてるの?


 お礼を言われ慣れていないのか、向こうを向いてしまったゼクスは、どことなくくすぐったそうだった。


 こうして話してみると、ものすごーく変な子ではあるものの、悪い子ではないと思う。ちょっとばかし二次元が好きすぎるだけで、異常ってほどでもない。周りとしては、かなり迷惑だろうけど。そこらへんに気を付けられるようになれば、きっと友達だってたくさん出来るはずだ。


 顔を赤くしたままゼクスはおざなりに「じゃあね」とだけ言うと、足早に歩いて行ってしまった。よっぽど恥ずかしかったのかもしれない。


「あれ? そう言えば……」


 遠ざかるゼクス背中を見送っていると、ふつふつと疑問が湧いて来た。


 僕をここまで送ってくれる最中、ゼクスは一度も二次元っぽい質問をしなかった。転校生に対しての真っ当な質問を、いくつかしていただけだ。あんな質問でよければ、いくらでも答える。

 不思議なのは、そんな日常会話しかしていなかったことだ。ゼクスが一緒に帰ろうと言うくらいなのだから、てっきりまた


「実は地球侵略を目論む、宇宙人だったりしない?」

とか

「あなたの知り合いに、世界を股にかけるような偉大な魔法使いとかいないかしら?」

とか、そんなことを訊かれてると思っていたのに。蓋を開けてみれば、ただの転校生に訊きたいことを訊いたみたいな、平凡な質問だったのだ。これは僕じゃなくても、ゼクスのことをほんのちょっとでも知っている人なら疑問に思うはずだ。


「だったら、何のために僕と帰りたがったんだ……?」


 本人に直接訊こうにも、ゼクスの姿はもう完璧に見えない。僕が考え事をしている間に、折れ曲がった道をずいぶんと進んで行ってしまったようだ。ここからだと見えるのは、ズラリと立ち並ぶやたらと立派な生垣だけだった。


 ゼクスの家はかなり近いみたいだから行こうと思えば行けるけはずど|(いくら僕でも、道なりに真っ直ぐは迷いようがない……と、思いたい)、今から追いかけて訊くほどの疑問でもなかった。


「まあ、明日にでも訊けばいいか。どうせ明日も学校なんだし」


 そう言えば恩人の男の子について訊くのも忘れたと気付いたのは、自宅の玄関の戸を潜ってからだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ