救援
空中艦隊から数人の人間が降りてくる。
恰好は迷彩柄の衣装、軍服だった。
手に抱えてるのは昔懐かしい小機関銃。
屋根に降り立った彼らは王族騎士団に銃口を向けた。
メスイもこれにはさすがに抵抗をせずゆっくりとユズハを離して毒づきながら逃げ去っていく。
そう思われた。
「なぁんてな!」
彼は振り向きざまに闇色の炎を放出していた。
その炎がユズハに襲いかかる。
「っ!」
彼女も防壁が間に合うそぶりはなく火炙りは免れないだろう。
「そんなことさせないわ!」
彼女をかばうように突き飛ばすや否や火の奔流の前に竜輝は飛び出した。
肌を焼きつく炎の渦。
肌がただれ絶叫を上げる。
「あぐぁあああああああああ!」
「運勢竜輝!」
久方ぶりに呼ばれた名前を聞かされ、竜輝は心臓の早鐘を打つ。
「我が体に火の神たる守り手の力よ光臨し、我が物と散りなせ!」
辺り一帯に響く竜輝の寛大たる響く詠唱。
火の奔流はたちまち竜輝に吸い込まれるようにして消火されていく。
「なにっ!?」
「爆ぜろ! フェニックスカウンター!」
竜輝から火の鳥が生まれた。
その火の鳥は爆炎を吹き出しながらメスイを覆い暴れ焼き尽くさんばかりとなって渦を作っていく。
赤い火柱が空高く渦をまいて熱帯地帯へ辺り一帯を変えた。
「あああああああああああああ!」
メスイの悲痛な叫びが次第に弱まり始め、ドサリと音をたて焦げた人の死体がその場に横たわる。
腐臭がただよい顔をしかめるほどのものだった。
「ぐっ」
さすがの竜輝も体力を根こそぎ削られてしまい膝をつく。
すると、すぐに背後から軍服の男たちが竜輝を肩に担ぎ出す。
「こちら、A班目的の人物を回収した。ただちに撤収する」
彼が手に持ったトランシーバーから雑音が入った後にしばらくおいて返答が返ってくる。
『了解。ただちに戻ってください』
しばらくしてから竜輝の意識は次第に薄れ始め意識を失った。
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ぼやけた思考が次第に意識を取り戻す。
目覚めればすぐに視界に移りこんだのは白いタイル張りの天井。
鼻先ににおうのは薬品のにおい。
首をもたげると自分の腕には点滴薬が通され体には治療の跡らしき包帯が巻かれていた。
「ここは?」
「まったく、この馬鹿。目覚めたみたいね? 二日間も寝てたから死んだかと思ったわ」
ふと、辛辣な声が足元から掛かり体を起こすと鈍く痛む体と脱力症状が襲ってきた。
久方ぶりの感覚に顔がこわばってしまう。
「大丈夫安心して。ここは「日本国共存同盟秘匿軍事施設」東京支部の病室よ」
「病室‥‥」
場所に関してはいまいちよくわからずとも病室というのはどういうところだか竜輝にも察しがつき肩をなでおろしながらベットにゆっくりと横たわった。
「俺帰ってきたのか‥‥」
「ええ、そうよ」
そう、竜輝は彼女の言葉を聞いて察した。
彼女は日本という単語を口にしたのと東京という土地名を口にしていた。
それは帰ってきたことを大きく示唆している。
「はは‥‥はは‥‥ぅ‥‥うぅ‥‥‥やっと‥‥かえって‥‥」
嗚咽が混じり涙が女の前だというのに恥ずかしげもなく流れてしまう。
何十年とこらえてきた涙が漏れ出した。
「‥‥そうだ! メスイ達は!」
涙にくしゃくしゃになった顔を気にせずに反射的に痛む体をまたしても起こしてしまう。
体をうずくまらせ必死で痛みを落ち着かせるように胸元をつかむ。
「落ち着いて。彼らは死んだわ。あなたをとらえた奴らはしっかりとあなたが‥‥」
彼女が目をそらし恐怖に怯えてる瞳がそっとこちらを見ていた。
「そうか‥‥ついに‥‥おれは倒したのか」
夢中で戦った中での出来事だったために実感がなかった。
だが、手に残る感触が次第に感覚となって返ってきた。
記憶も鮮明に蘇り強くこぶしを握った。
「感謝する。俺はあそこにいるままかと思ったが君の登場で機転を迎えられた」
「いえ、お礼を言われることじゃないわ」
彼女は首を横に振ってそう返すだけだった。
なにかに心苦しいような表情が見える。
「でも、なんで今更になって政府が動いて俺を救った? 俺はずっと見捨てられたものだと思っていた。もう、帰れないんだと。この10年間ずっと」
竜輝は7歳のころにあの世界に連れ去られ10年という歳月をあの異世界で過ごす羽目となった。
いろんない世界の技術をたたきこまれ教え込まれ奴隷として育て上げられた。
しかも、いろんな仕事もやらされた。
暗殺、非合法取引――そして、戦争。
いやな思いをしたがそれでも生きるために頑張ってきた。
いずれ、復讐してやる、機会は来る。
でも、次第にそれはあきらめも入っていた。
「やっと、帰れたし復讐も果たせた。だが、なっとくいかないのはなんで今になってだ。それなりの目的があるような言い方を君もしてた。どういうことだ?」
「そのことは軍事長が説明するわ」
そのときだった。病室の扉が開かれ二人の人物が入室してきた。
竜輝は二人の顔を知っていた。
「うそだろ‥‥」
それはお化けでも見てるような感覚。
だって、そこにいる二人は竜輝の目の前で殺されたはずなのである。
いくらか当時より背が高くともわかっていた。
面影はある。
「りゅうちゃんいままでごめんね」
二人の美女は涙を浮かべながら竜輝を強く抱きしめた。
「みかねえちゃん‥‥」
二人の正体は幼馴染と義姉であった。