変わった地球
運勢美香と如月愛華はどうにもいろいろとあったことがあり生きていたようだが、竜輝はその詳細を知らされないもどかしさを胸に抱いたまま竜輝は緑色のラフなTシャツとズボン――病衣の姿のまま成長した幼馴染の如月愛華と運勢美香の後をついていく。
先刻、病室に現れた二人はやってくるなり、竜輝に会わせたい人物がいるという申し出を行った。
それは竜輝を救出した張本人であるということであり、先ほど本名を知った柚葉雪という彼女を異世界に送った人物であるという話であった。
現在歩いてるのはその病室から抜け出してから別棟に移動した箇所の廊下を歩かされていた。
壁一面は銀色の鋼鉄製の壁で敷き詰められ部屋には金ふちでそれぞれその部屋の名称が描かれていた。
どれもが研究室や第1通信室などいわゆる、政府の秘匿機関らしい所有部屋の名が軒並み連ねている。
足場もずいぶんと豪勢なつくりの高級ホテルさながらの赤いカーペットで周りの配色とそぐわない感じが目立つ。
「ここよ」
数分ほど歩いてちょうど部屋の突き当たりに大きな部屋の扉が構えていた。
その部屋の名称は『軍事顧問室』と書かれていた。
軍事顧問は外国に派遣されて、派遣先の軍隊の組織編成や訓練、戦闘指揮などに協力する軍事専門家のことであったはずなのが記憶にあった。現役の軍人や元軍人が一般的であるのは世界共通の認識であればこの部屋にいるのはある意味でこの組織のトップでもあるのだろうか。
「軍事顧問、運勢竜輝をお連れいたしました」
「通していいですわ」
中からお硬い感じの返答。
緊張に体が硬くなる竜輝は美香が扉を開けたとたんに生唾を飲み込んだ。
部屋の中が見えたときに世界共通の部屋だという実感をもつ。
大きな広間の中の中心にある社長デスクらしい木製の机といす。
その椅子に座るのはダークグレーのスーツを着飾りちょっときつめの印象を彷彿とさせる眼鏡をかけ、艶やかな黒髪を肩先で結わえた美麗の女性がいた。
年は20後半かもしくは前半か。
20代であることはうかがえ軍事顧問にしては随分と年齢が若くそれも女性というところに驚いて竜輝はおもわず目を丸くした。
「その顔、ワタクシのような者が軍事顧問というのは意外という感じかしら?」
手に口をあて上品に笑う彼女の姿に一瞬見とれた。
こんな笑い方をするのは本の中の登場人物くらいであるという認識であった竜輝だ。
「‥‥ン。意外であるのは‥‥確かだ。あんたは随分と若いのに軍事顧問?」
「事実ですわよ。この世界共存同盟軍の日本支部の軍事顧問を務める久遠時楓ですわよ。よろしく」
竜輝も異世界ですら聞かなかったような俗にいうお嬢様口調で挨拶を述べられ一瞬戸惑うもすぐにそののばされた手を握った。
「運勢竜輝って‥‥って‥‥名前を知ってるのか」
「ずいぶんと日本語が達者ですわね。7歳のころに連れ去られたのに」
まっさきに彼女は竜輝にとって苦い記憶をえぐるような一言を突き付ける。
「‥‥あいつらが持ってきた日本のわずかな書物をさんざん読まされたから。日本という国をあいつらはつぶそうと画策していた‥‥そのために俺を扱い日本という国を知ろうとしてた‥‥から」
「つまるところ、あなたは日本の情報源にするために日本教養知識を無理矢理にでも詰め込まされ独学されてたということですわね?」
「まあ‥‥そういうこと‥‥だ‥‥よ」
竜輝のつらく心に痛い過去。
7歳のあの日に異世界へ拉致された理由は竜輝という人間の情報を奴らは得たかった。そして、いずれ世界を侵略するためにも情報は必要不可欠であったが彼らには言語が読めない。
ならばという理由で地球の出身者たる竜輝に読ませたりしたが結果的に7歳であった竜輝に読める言語は限られていた。
彼らが出した決断は竜輝に教養知識をつけさせる。
彼らは人間の知識と異世界人の知識の二つを同時学ばされてきた。
だからといって知識豊富なわけでもなく限度というものは存在していた。
特に竜輝は地球においての数字の概念は疎い。
「ずいぶんと苦労いたしましたわね。ワタクシどもももっと早く救援してあげればよかったのですけれど政治的に落ち着きを取り戻せたのが昨年度でしたのですわ。この軍事施設も出来上がったのも昨年度でしたわ」
昨年度――竜輝にはそれが大体の換算でいつなのかはわかった。
いくら数字に疎くともそのレベルは理解してうなづいた。
「どうしてそこまで遅くなった?」
「政府の間で同盟を結ぶべき派閥と戦争を仕掛けるべき派閥の争いが行われていたからですわ」
「それはこの世界で内部戦争があったか?」
「内部戦争という表現はすこし正しくはありませんわね。正しく言うならば戦争ではなく論争がありました」
「論争‥‥」
「ええ。なかなかにその論争が長びき、いろんな計画がどんどん先延ばしになっていったんですわ。もし、あなたを救援すれば戦争を仕掛けるべきという判断の派閥の題材としてはそのまま世界に火種を落とすという策を、同盟派閥は救出のみで打開策を考えておりましたわ。派閥同士の意見の不一致はこの世界では大きな要因をもたらすんですわ」
政治的概要によって国の政策に大きな問題が生じるのはどの世界でも共通だということが悟れる内容の一言。
異世界たるあそこも各国いろんな国々があり政治であれやこれやとなればそれだけ政策に問題はおこっていた。
「そうか」
「本当に申し訳ありませんでしたわ! 政府もやっと昨年度にあちらがわの同盟派閥というものがこちらの世界へ訪問してきてくれたことで政治情勢の安定が進み協力のもとあなたを救援に向かいだせましたわ」
竜輝はある言葉を思い返した。
共存同盟という彼女たちがさんざん口にしてきた言葉。
「共存同盟‥‥そういう意味か‥‥共存する意味あるか?」
竜輝はいやな気分を味わった勝手に人の人生観をめちゃくちゃにした奴らと同盟を結ぶことは竜輝にとってはあまりにも気分がいい話ではない。
竜輝の表情を見て、読み取ったように楓は焦り出した。
「あちらの世界――フィリアスにも善悪が存在してるんですわ! 聞いてください。あなたを連れ去ったのはこちらと同盟を結んでる国とは別の国であるんですわ」
竜輝は沈黙を貫く。
ただ、そういわれても信用はできずただ、殺意をむける視線だけを流す。
「安全は保証いたしますわ。彼らはこちら側で害をなす行為は絶対いたしません。現在、こちらにフィリアスの情報を提供してくれてますし魔法の技術を教えてもくれましたわ。おかげでこの共存同盟という組織は出来上がり、フィリアスにも共存を望む国が増えていますわ。こちらでも同じですわね」
「――共存なんかやつらとはできはしない!」
彼女の口から流れる共存、共存‥‥という言葉にいらだちがついに爆発した。
竜輝は頭をかきむしり自分がびてきた恐怖を一身に伝えんがために衣服を剥ぎった。
「この包帯の数々を見ろ! 俺はずっと奴らにいたぶられいろんなことをさせられてきた証拠! そんな悪徳非道な奴らと共存なんてできるわけない! あんな世界の住人なんて! それにまだ言わせてもらえばあんんたらはおれを救うのが遅すぎたのにいまさら何が共存か‥‥っ」
傍らで控えていた二人の顔見知りの美香と愛華が悲痛の声で竜輝の名前を呼んだ。
「聞いて、りゅうちゃん」
「竜輝くん、私と美香お姉ちゃんを救ってくれたのはそもそも異世界人なの」
さっと血の気が引いて、青白い様相で二人のほうを振り返る。と同時に二人のほうを振り向いた。
「‥‥どういういみ?」
「軍事顧問しっかりと彼らの来訪時期を伝えてください。正確にはあの来訪事件から1年後だと」
「え?」
軍事顧問たる楓は目を伏せて「そうですわね、わるかったですわ。どうにも説明というものはなれていないんですの」と謝罪の言葉を述べた。
「どういうこと‥‥ですか?」
おもわず今までの口調から一転して儀礼的な敬語を口にして問いただした。
「あの2017年異世界――フィリアスなる世界からやってきた住人の襲撃によってこの地球は大打撃を受けましたわ。当時は大パニックであり最初は何者かの仕業かはわかりませんでしたわ。けど次の年、そのフィリアスからまた来訪してきたんですわ。けどその人物は襲撃ではなく謝罪に直接国会議事堂へ軍団で参ってきましたわ」
「なに‥‥」
「むろん、このことは正式には秘匿とされておりますわ。その時には怒り心頭の政府でしたから彼らを敵視しいろいろともめ事になってしまいましたわ。端的に申せば同盟なんか結べない状況であり戦争勃発していましたわね」
そういいながら突然現れたスクリーン映写に画像が映り込んだ。
各国でおこった戦争後の更地のような絵。
それらは全部記事の題材としては戦後の不発弾の爆破となっている。
「政府はこのことを露見しないように隠ぺい工作をしていたんですわ。パニックを起こさないよう。復興作業中だった地球ですもの。精神的にも参ってる人民が多かったですわ」
しばらくおいてのことが面々と映りだされていく。
戦後のような画像が長くつづく一方で秘匿画像とおもしきものも。
その画像は傍らで結ばれた一部政治家との同盟の画像っぽくあった。
彼らのおかげで事件の被害者たちを真央法で治す映像まで流れた。
政府の新開発薬品による治療で事件の患者たち全員が復活を果たす!
という題材で大きく取り上げられた一面の記事。
この開発薬品の画像はひとつのカプセルであり竜輝には一目で魔法のかかったカプセルだとわかった。
「そして、昨年度過半数以上の政府の役員が同盟に賛同したのですわ。結果、ある作戦のもとあなたの救出作戦を結構いたしたんですわ」
「ある作戦?」
映像がどこかの大きな施設の映像に切り替わる。
「この日本にはもう多くのフィリアスの住人が移住しておりますわ。あの事件があったことでいろいろとありましたがマスコミの助力で彼らにも善人と悪人がいることを伝えてこの世界は現在共存に向かっています。その橋渡しの一つとして新たなプランが今回また始動いたしたのですわ」
「まって。いま、この日本に移住者がいると言ったか?」
「ええ、そうですわ」
そういったとき、部屋の扉がノックされた。
「軍事顧問、防衛大臣が至急、来てくれと連絡が‥‥」
部屋に入ってきた人物の存在を見て竜輝は顔をひきつらせた。
そこにいたのはスーツを身にまとった猫耳の女性。
「バステト族!?」
「もしや、彼は‥‥」
竜輝はとっさに彼女に向け、魔法を放とうとした。
竜輝にとってはいまだにフィリアスの敵味方は判別できない。
だからこその体の恐怖からの脊髄反射だ。
それを見て愛華が竜輝を叩き伏せた。
「竜輝君だめなの! 彼女は味方なの!」
「放せ! そいつはフィリアス人! 俺の敵だぁあああ!」
その行動を見て、楓は息をつく。
「――教育者の件はもう少しおいてから話したほうがよさそうですわね。美香、愛華彼を病室に戻して頂戴。私はこれから防衛大臣と話してきますわ」
そう言って楓はそのままバステト族の女性と軍事顧問室を出て行った。
最後にバステト族の彼女の眼は申し訳なさげな表情が瞳に焼きついた。
「なんだよ‥‥なんだよ‥‥その眼は‥‥」
「りゅうちゃん」
「竜輝君」
竜輝は変わってしまった世界の現状を受け入れられず悲嘆にくれるのだった。




