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愛と復讐を誓って

最終話です。

竜輝の復讐はどう終わるのか。

 外へ戻るとなぜか、楓は元の場所へ戻っていく。

 皆が一様に小首を傾げどういうつもりなのだろうかと考えていた。

 だけど、第1グラウンドには入らずこの広大な敷地内の施設のちょうど中間点。

 第1グラウンドが東側から見えるその地点で立ち止まるや地面に何かを描き出す。

「軍事顧問、何をしているんですか?」

「黙っててくださいな。今道をあけますわ。このまま装置の場所まで案内いたしますわ」

 と、それだけ言ってこちらを放置状態にさせる。

 困惑する中で足元に描かれてく奇妙な幾何学模様。

 まるで、それは魔法陣のような形だ。堅田ではなく魔法陣そのものである。

 これをどうするのかと考えた時には魔法陣が光だしその場にいる者たちを光が包み込んだ。

 数秒後、目の前に大きな球体装置が聳えるように設置されていた。

 光を帯びた立体キューブ。内部には緑色の宝石――魔力鉱石がその光の正体だと証明するように神々しく輝きを放つ。

 球体装置には見れば見るほどに大きくありとあらゆる管がつながれたり電子操作パネルが底の部分に設置されていた。

 この空間にはそれしかなくあたりは真っ暗で魔力鉱石の光が唯一の光である。

「これが供給装置ですかぁ」

「はい、そうですわ」

 九条責任者は軽い足取りで歩み寄っていく。

 立体キューブの表面は防弾ガラス仕様になってるようで中には透明な溶液が入ってるようだった。

 九条責任者が立体キューブの表面に触れ恍惚とした表情を見せる。

「ああ、壊したいくらい美しいですわね」

 金属質な音がわずかに耳をついた。それが長年フィリアスで剣を使い試合をしてきたからこそ竜輝にはその音は『剣を鞘から引き抜くかすかな音』だと把握する。

 だからこそ、蓮杖鈴の様子を見たときに驚愕しグリアスの名前を叫んでいた。

 グリアスはすぐに察知したが少しばかり遅れた回避。わずかに胸元が割かれ血しぶきが舞う。

 地面に飛び散った血。

 即座に竜輝は条件反射で蓮杖鈴を殴り付けた。壁際まで吹っ飛んだ蓮杖鈴を確認しグリアスの容体を確認する。

「大丈夫っすか!」

「ぐぅ」

 胸元を抑え、どうにか致命傷を避けた様子がうかがえた。

 しかし、すぐに治療を施す必要がある。緊急の治癒魔法を行う。

「私も手伝うわ」

「ああ、頼む。九条責任者、あなたも安全な場所へ避難――」

 竜輝がそちらに目を向けた時に彼女の異様な行動が視界に入る。

 魔力を帯びた手でガラス表面へ圧をドンドンかけていく。

 そんなことをすれば魔力装置が壊れるというのに。

 楓が叫んで止めにかかろうとしたが地面から抜き出た手が楓の足首をつかみ転倒させた。

 地面から抜き出た手は次第に体全体を地上へ姿を現す。

 トカゲのような姿をした二足歩行人物。

 フィリアス人のリザード種族。

 三度他の地面からも数十人規模で人の群れが姿を現した。

 同時に、九条責任者が魔力供給装置の破壊をしてしまう。

 砕かれたガラスが散って溶液が地面を満たす。

 この異常事態に動揺が走った。

「いったい何がどうなってるのよ!」

「なんですこれはいったいどういうことですか!」

「何が起こってるなの」

 柚葉、美香、愛華が背を合わせ周りの異様な人たちの敵意に軽いパニック状態。

「やつが、ジョークカ皇女だ。ぬかったんだ」

 グリアスは苦悶の声で九条責任者を見ていた。

 竜輝もあの行動を見れば察しがついてしまう。

 ずっと、彼女は見張っていたのである。

 今か今かと伺い長い間時間をかけてゆっくりと。

「ハァー、やぁっと、装置の破壊を完了したぁ。これでぇ、共存文明は終わりィ」

 手に握る魔力鉱石にとどめをかけようと力を込めに入る。

「させるかぁあああ!」

 氷の魔力を刀に変え、怪訝させ九条責任者に接近し抜刀をした。

 だが、間合いにわずかに入る小柄な少年の姿。

「げひゃひゃ、ボスの命はとらせねぇ」

 全身が黒光りしたスキンヘッドの男。

 ナイアーラトテップ種族の少年は握った小太刀で刀を受け流し竜輝の腹へ蹴りを放つ。

「ぐぅ」

 衝撃を耐え2度目の抜刀を行い病弱な少年を九条責任者ごと斬り飛ばす。

「あぶないですわねぇ」

 刀は少年を斬り飛ばすだけだった。

 後ろの九条責任者は何食わぬ顔でそこにまだ立ち、右手に暗黒すぎる不気味なオーラを放出して眼前にかざしてくる。

「吹き飛びなさぁい」

 ガスバーナーのような放射音が耳をつんざくと強烈な熱が顔を伝い体を駆け巡った。

 一瞬で暗転する視界。だが、わずか数秒間で息を吹き返しやけどを負った顔に治癒魔法をあてがう。

「あはは、自らでぇ治癒をするってぇ人ぉ初めて見たぁ」

「今までだましてたのか。俺たちをずっと」

「そうねぇー、そうなるねぇー。面白かったわよぉ必死で犯人探してぇ、目の前にいるとも知らずにィ。こっちもいろんな情報が聞けたからよかったけどねぇ。この計画のために長い間あなたがたが来るのを待ったわぁ」

「どういう意味だ?」

「だってぇ、供給装置のありかを知るためにはぁその情報を知ってる人がぁ来ないと意味ないしぃそういう状況を作るべきでしょぉ。だからこそぉ、あの最初の事件が失敗した後にィ私はこの計画を考えた。自らが地球に潜伏しィ政府の情報を収集しィそしてぇ、施設の責任者にまでなったぁ。この施設の地に眠る共存の文明の宝を壊すためにィ」

 彼女を守るようにいつの間にか蓮杖鈴が傍らに立つ。

「あんたもだったか」

「ふん、愚かな男だ。お母様に操られて結局最後までお母様の意のままにこの施設にまで行き着いた」

「どういう意味だ?」

「後ろの女にでも聞くんだな」

 背後には久遠時楓がおり、苦虫をかみつぶしたような表情をしていた。

「あなたを潜入調査員に任命したのはほかならぬ彼女ですわよ。無論、あなたのことは政府だって知ってたけど実際もう死んでるものだと思ってましたわ。だからこそ、本当は柚葉に教官を任せる予定だったんですわ」

 教官を柚葉にするという策案に疑問を思ったが確かに彼女は魔法に優れていたというのである意味で納得いく答えである。

 だが、彼女はあくまで後天的に魔法を身に付けた人間であるがそれほどに優秀な部下だったからなのだろうと考えがいく。

 もし、そのまま彼女に教官を任せてれば状況が変わったかはわからない。

 いや、変わった可能性は多重にある。

 竜輝は九条からの口ぶりを察するに彼女が自分が教育施設へくることを待っていたかのような言い分だった。

 しかも、この状況を作り出せたのも竜輝がいてこそなのだとも言ってるように感じ取れる。

「んだよ、それ! じゃあ、こいつが推薦したからこそ、俺が生きてて教官にしたのか!」

「そうですわ。彼女がそういう人なら施設責任者である彼女は許可すると。なにせ、彼女は施設責任者。施設のそういう有無は彼女に権限がありましたわ」

「――っざけんな! まんまと乗せられてんじゃねえよ!」

「知らなかったんだから仕方ないですわ!」

「アハハァ! いがみ合ってもぉもう遅いですわぁ、この共存文明は途絶えましたわぁ。地上では今は大パニックではないかしらぁ。魔法を扱えなくってぇ」

 彼女は例の魔力の源たる鉱石を手で弄び見せびらかす。

 それを握って目の前で砕いて見せた。

 まさに一瞬の寸劇。

『っ!』

「アハハハハハ」

 恍惚とほほに手を当てもだえるように笑う彼女。

 発情しきってもう、興奮極まれりという感じである。

「そんなにおかしいか! 人を操り世界を壊すことが!」

「世界を壊すのではなく奪うんですわ。今日これから、手始めにあなた方は死んでいただきますけど」

 九条カサネという存在はもうそこにはいない。まさにネサ・ジョークカという侵略派の皇女の姿がある。

「最初に気づくべきでしたわ。あの九条カサネはアナグラムでしたわ。妙に引っかかっていましたのに」

「あら、軍事顧問は気付きましたねぇ。でもぉ、遅かったですわねえぇ」

 楓と九条もといネサの話を聞いた竜輝は難の話をしてるかさっぱり見当がつかない。

「『あなぐらむ』ってなんだ?」

「彼女の名前よ。ネサ・ジョークカ。並べ替えて九条カサネよ。そういうことよね軍事顧問」

 楓はうなづく。

 答えをくれた柚葉も実に悔しいとでも言うように「shit!」と口にしていた。

「柚葉、竜輝。あなたがたが彼女の足止めをよろしく願いますわ。私たちは今の状況では魔法を扱えませんので」

 そう言いながらどうにも先ほどから疲労困憊の表情で彼女は膝をついた。

 彼女だけでない。

 美香や愛華に至っては倒れてしまう。

「なっ! おい!」

「軍事顧問!?」

「やられましたわね‥‥私たちは装置を作り共存文明を得る代わりに常に装置と自らの生命エネルギーをリンクしてる状態にありましたわ。その生命エネルギーが途絶えされた今自らの生命エネルギーがうまくコントロールできぬ上に少々脱力気味ですわ」

 言ってることは半分も理解できなかったが魔力装置が壊されたことは共存文明に生きてる人の体にも多大な負荷をかけることを竜輝は理解した。

 自分は共存文明とかした地球で暮らす以前にフィリアスという生命エネルギーに満ち足りた環境下で暮らすことで自らの体内に生命エネルギーを膨大に構築し貯蔵できることができている。

 だが、楓たちはそれを装置に補わせわずかな魔法を習得することで生活してきたのだ。

「まったく、地球人は弱すぎですわ」

「なんで、こんなことをする? なんで俺を拉致した! 答えろ!」

「世界を奪うためです。私は自らの国が滅び絶望しました。ある時、この地球という世界を見つけわがものにするという計画を思いつきましたぁ。それのためには地球を知る必要がぁあった。だからこそぉ、最初の侵略はまず生きのいい地球人の確保。そして、世界の破壊を既存の世界体系を壊すこと」

「っ!」

「おかげであなたと言う存在をフィリアスで育てることで地球という世界がどういうものか理解しましたわぁ。数年かけて理解し、私はぁ政府に潜り込みましたぁ。地球の侵略計画のためにはァ敵の懐に入るのが一番ですわぁ」

 それから語るのは彼女が幾重もの積み重ねてきた努力の功績の数々。

 偽造をした身分で重ねた努力は執念めいたものを感じる。

 彼女の推薦で施設は出来上がり、彼女は軍人をやめ共存文明の地球の未来を担う若者を育成する教育機関の責任者としてなった。

 それもそういう施設には大抵魔力なるものが必要となる。魔力の場を設ける最適の場所をわざとないかと訴えて『魔力供給装置』の場所にわざと施設を建てるように仕向けて見せる。

 そして、数年かけて政府の用人の暗殺計画を企てる。

 3年前のクーデターもその一環でありそれのせいで貴重な人材も減ったとされる。

 共存文明を栄えさせるのも、自らの住みやすい環境をのちに作る事前準備のようなものであると語る。

 そうやってどんどん積み重ねを働き、次第に占めを始めた。

 まず、爆破騒ぎでいらない政府の要人を殺し、世界情勢をあおり教育施設では教官の不足を促す。

 そして、もう捨て駒にする予定であった竜輝をまるで自分は味方だというアピールのために利用し施設へ招き入れる。そうしたのも政府とのコネを継続させる営業目的。

「あなたを教官とし、あとは普通に今までのように時が来るのを待つだけ。この装置の情報はさすがに政府の極秘扱いですから長い長い時間が必要でその計画のためには自分らの掌の上で転がせる人物が必要。それが運勢竜輝あなた。あなたはわざわざ私の施設中で翻弄さえしてくれた。まあ、多少計画に誤差はでました。ハルツハルトが暴走したのは手痛かった」

「それだけか」

「はい?」

「最後の言葉はそれだけかぁああああああああ!」

 燃え上がる火の手。

 竜輝の腕燃え盛り、右手には例のごとく氷の刀が握られる。

 蓮杖鈴が飛び出し刀同士が交差する。

「母さんには手出しはさせない」

「お前が、例の王女の娘だとかってやつか!」

「くっ」

 燃え上がる火は蓮杖鈴み引火し、巻き込んでいく。

 鈴が一瞬の気を緩ませた隙に竜輝は氷の刀を横殴りに振りかざした。

「がふっ」

 わき腹に差し込まれる刀。

「こんなの平気だぁ!」

 腹筋力で刀の軌道を止められ蓮杖鈴が刀身へ肘を打ち込むと砕かれる刀の破片が散った。

 竜輝が武器をなくして持つ手あまたな懐へ鈴の刀が突き刺さる。

 腹部へ刺さる刀。

 柚葉が遠距離から風の砲弾を放つも病弱な少年とハンサムな少年が3名の間に立ち会い砲弾を霧散させた。

 その間に他のメンツもぞろぞろと柚葉と竜輝に迫る。

「お疲れ様でした、運勢教官」

 薄気味の悪い笑みを浮かべネサは闇のゲートへと足を踏み入れた。

 だが――

「そうはさせないだ!」

 横合いから大柄な腕が割り込み彼女を突き飛ばす。

「グリアス王っ!」

「ジョークカ皇女。その首未来のためにもらいうけさせてもらうだ」

 ネサはここで初めての動揺を見せる。

 ゲートはグリアスの放った打撃圧が強制的に閉じたようだった。

 すさまじい魔力を乗せた一撃である。

 ネサもその重い一撃が体に負担をかけたように脂汗を流し腹部をさすっている。

「くくっ、あははは! 未来のためですか。あなたも亡国の王ならわかるでしょ? 現代のフィリアスは領土不足。どの国も。だからこそ、出来上がった体系である土地を奪うのが一番だと感じない? 違う?」

「だからと言って異世界者まで巻き込むのは間違いだ。われらの世界は吾らで解決するのだ。それが世の常だ」

「なぁにがぁ世の常ですぅ? あははは」

 ネサがふらつきつつ、体をゆすると指をパチンとならした。どこからか「ドーン」という爆音めいたものが耳に入ってくる。

「今、地上を爆破させましたわ。時期に地上の生徒たちは死ぬでしょうねぇ」

 さすがのこれには想定外である。

 竜輝らも侵略派は一切生徒に無関心だと感じてはいたのである。

「未来を担うやつらはに最後のフィナーレで殺すほうが味があるでしょぉ」

「なにをわけのわからんことをほざくだぁ!」

 グリアス王が踏み込み強い衝撃波を放つ。

 ドドドドッと地面が隆起し岩肌がネサへ鬼気迫った。

「そのような攻撃――」

サイ

 グリアスが叫ぶと岩肌がネサへ触れる直前に爆散し、石つぶてとなって彼女に殺到した。

 たまらず彼女も悲鳴をあげて倒れこんだ。

「お母様っ!」

「よそ見してんじゃねえぞ!」

「っ」

 よろめく体をはじき起こして彼女の眼前にまで接近し右手に雷光を宿す。

「眠りやがれ!」

「あぎゃぁああああああああああ!」

 腹部に轟く豪雷。

 その雷は龍が荒れ狂うかのようにあたりにまで電流を飛ばす。

 鈴の助っ人に入る者たちまでも飛来し、地に付していく。

 その中で鈴本人は倒れない。竜輝から間合いを取り刀を正眼に構える。

「フゥー、スレン・ジョークカの名において命ずる。部下共、私を守り時間を稼げ」

 何か大技を放つとすぐに察する。

 そのための時間稼ぎのために部下たちが一斉にこちらへ向かってくる。

「柚葉!」

 柚葉に援護を頼もうとしたが彼女は二人の少年を相手取って戦っていた。

「くそぉ!」

 鬼気迫る敵の大群に竜輝は決断するように魔力を高めた。

「おまえらにまけてたまるかよぉおお!」


 +++++


 戦慄する雪は二人の少年を一人で相手にしていた。

 それも相当な力量の二人組。だが、この二人は見覚えがある。銀行爆破の際柚葉を吹き飛ばした二人組である。

「げひゃひゃ」

「死んだほうが楽になる」

「ふざけないでよ! 私はね、あんたらのせいでくだらない人生を送ってきた。母さんもそうだった。でもね、母さんはこの世界で父さんと出会い変った。そんな母さんをあんたら侵略派は殺したのよ!」

「げひゃ、なんの話だ?」

「知らぬ話に聞く耳持たぬ」

 強く打ちつけられた上空からの水球の弾丸により意識が吹き飛ぶ。

 一瞬にして過去が走馬灯のように見える。

 柚葉は生まれたころの当初母親の虐待にあった。

 母親は毎度のことながらひどい仕打ちで柚葉を殴っては叱りつけた。

 だけれど、そんな母親をしかりつける父親は柚葉には優しくかばってくれた。

 ある時、雪は聞いた。

「なんで、お母さんは私をいじめるの?」

「お母さんは病気なんだ。だから、柚葉も大目に見てやってくれ」

 雪の母と父の出会いは何でもあの侵略事件後だったという。

 侵略事件の犯人として捕らわれた母。母は捕らわれた際に重傷でありその母を医者であった父は治療した。それは次第に二人の距離を近づけ恋の物語へと発展させていったという。母は当初、記憶喪失であったらしいが柚葉を生んですぐに記憶を取り戻した。一度は世界に帰ろうとしたが政府の捕縛の身の上のために機関を許されず父とともに暮らすこととなった。父にも記憶を取り戻した母は強く当たり散らしてはいた。

 そう、私と父に対して母の過剰な暴力。だけど、父は別れなどを言いださず必死に自分の愛情をぶつけた愛してるからと。

 それが実ったかのように次第に母は温厚な性格へ変わった。

 周りの共存文明が発達を遂げてきた時だった。

 母は言った。

『こんな世界を壊そうとしてたのは間違いだった』

 きれいな顔で悲しそうな表情を浮かべた母のその顔は今でも忘れてはいない。

 柚葉家が次第に家族の形を取り戻した。

 雪が10歳の時だった。

 政府の役人がやってきて母に協力を申し出た。司法取引をし今後は母を犯罪者として扱わない約束を取りださせた。

 遅すぎる提案だった。

 だけど、これで政府の管轄する寮ではない一戸建ての住宅に住める。

 みんなで笑顔でそんな約束を交わした。

 次の日、母が政府の協力のもとで出立した任務地で母は侵略派と交渉をしようとしたが殺された。

 父と雪は悲しみに打ちひしがれた。

 母を忘れようと努力するために雪は本来のあの長い耳、母の遺伝子特有のその耳を覆い隠すように常に偽造魔法を自分にかけて生活するようになる。

 それと同時に父は酒に溺れ、心不全と死亡し身寄りのなくなった雪のもとへ政府が援助を呼びかけた。それに乗っかった雪は政府のエージェントとなると同時に母を殺した奴を知り殺すことに成功した。

 だが、その裏には大きなやつがいることを知った。

 侵略派――ゆるさない。


「ッ」

「げひゃひゃ」

「死んじまった」

「あっけねえ」

 雪は長いこと眠ってたような気がしたがそうではない様子であることが足元の彼らの言動で分かる。

(お母さん、私に力を頂戴)

 ふつふつと煮えたぎる力。

 まず間違いなく二人はフィリアス人。

 スキンヘッドの男はそれほど強くはないがトカゲの男には注意深く視線を置く。

 彼女は魔力をたぎらせた。

 傍目でそれを竜輝は見ていたらしく言葉が「どういうことだよ」というのが気聞こえる。

「げひゃっ!? エルフっ!?」

「いや、ハーフエルフ」

「なんでっ!」

「最初の侵略で死んだエルフがいた。生きてたのか」

「あなたたちの仲間が殺したのよ!」

 耳の長い、母から受け継いだ特徴的な耳。そして、この容姿と髪。

 それから、体内で貯蔵できる魔力体質。

「もう負けない」

 その言葉どおり一瞬だった。

 彼らに余裕の攻撃を与えることなく、彼女は風のように消え二人組の懐へもぐりこむや風の刃が二人を切り刻んだ。

「がふっ」

「そうか‥‥過去に仲間が少女に殺されたという話は‥‥じじ‥‥つ」

 二人の少年の瞳からは光が失われた。


 ******


 久方ぶりの開放に湧き上がる高揚力。

 雪は竜輝のほうを向く。

 数十人群れが襲ってる。必死で相手してるけど限界は近い。

「今行くわよ」

 疾走する一人の少女はまさにかまいたちのようであり、一気に竜輝の周りにいた雑兵をなぎ倒した。

「柚葉、その姿‥‥」

「ごめん、隠してて。私の母はあなたを苦しめた一人よ。けど、勘違いしないで。母もただあのネサってやつの言いなりになってただけ。だから、母の汚名や母を殺したこいつらへ復讐するために私だって戦ってきた」

「俺に黙ってた理由なら想像はつくさ。どうせ、俺が暴走しないようにとか気遣ったんだろ。まあ、今は冷静であるから大丈夫だよ。もし、おまえがあの母親の娘であってまっとうじゃなければネサ側にいるだろうしけど、違う」

「‥‥‥‥」

「柚葉、いや、雪信じてるぞ」

「くっさい台詞ね。本当馬鹿」

「バカってなんだよ」

「痴話げんかはすんだんだろうなぁ!」

 金斬り音が微弱な振動を周りに当たる。

 鼓膜が破れそうな音に顔をひきつらせる。

「まったくもって最悪だ。お母様の役に立てない雑魚たちめ」

「あなたもその雑魚になるのよ」

「そうだ。今から眠ってもらうぞ」

「ふふっ、あははは」

 鈴の姿が歪んでく幻影にとらわれる。

 幻影は次第に形を帯び、鈴の姿が変貌する。体を締め付けるかのような革製の漆黒ドレス。背から生えた漆黒の翼と額からの二本角。瞳は血のように赤い。

「この姿になるのは久々だ」

「それが本性ってわけ」

「そうだ」

 妖艶な雰囲気を醸し出しくるりと一回転して、魅惑する鈴。

 これが敵でなければ魅了されただろうが竜輝は敵である彼女には魅了はされずただ忌まわしいとすら感じてしまう。

「今すぐその羽をむしってあげるわ」

 飛び出すエルフと悪魔族。

 両方ともフィリアスでは魔力数が優れた種族。その最強の種族同士の熾烈な争いはこの場所で初めて交わされた。

 両者が両腕に宿した魔力の打撃コンボが激しくぶつかって余波が部屋全体に地震を引き起こす。

 電流が弾き、吹雪が舞い、火炎が荒ぶり、風が地を削る。

 すべての災害がここで起きてるかのような現象。

 竜輝が入れる余地などない。

「くそっ、援護しようにもできねえ」

 目で追うのもやっとの攻防戦だった。

 雪の伸びた右腕を鈴が取るとそのまま背負い投げの要領でたたきつけるように地面へ。

 隕石の落下のような衝撃が竜輝を吹き飛ばす。

 雪がクレーターの中すから起き上がる。余裕の表情で油断していた鈴の腹部にむけ手を伸ばした。

「そんな攻撃当たりはしない」

 ――が鈴が顔をゆがませた。

 魔力の防壁を張り巡らしたつもりだがあくまで、それは魔法に対しての防壁に過ぎない。

 魔力も何も通さない素手での接触だと軽々と貫通することは可能だった。

 彼女の腹からは血が滲み地面を赤く濡らしていく。

「あとで母親も送ってあげるわ」

「かあさますみま‥‥せ‥‥ん」

 彼女の瞼は落ちていき眠るように死んでいった。

 その傍らで雪が膝を折り崩れていく。

「雪!」

「あはは、一撃が‥‥効いたみたい」

 盛大な吐血をし疲労困憊の様子で竜輝の手にしがみつく。

「早く、グリアス王とともに――」

 激しい破砕の音が近くから聞こえて振り返る。

 グリアス王が体から多大な出血をし、絶命寸前。その傍らには漆黒のシルクドレスをまとった漆黒の羽と2本角、まさに鈴とそっくりな姿をしたネサの存在。

 彼の首元に鋭くとがった暗黒色の魔力で変形させた針をあてがとどめにかかっている。

 その背へ奇襲をかけとび蹴りをかます。

 背中に目でもついてるのかという勢いで彼女は振り返り竜輝にその針を振りかざした。

 わき腹をかすめるにとどまり後退して一度臨戦態勢を立て直す。

「まったくもって邪魔な奴らばかりですねぇ。それほどまでに私が憎いですか」

「ああ。お前は俺の人生を狂わせた。そして、愛する人たちを傷つけた」

「愛する? あははは。まだここにきて数日の奴が愛を語ろうとはわらわせますねぇ」

「勝手に笑えばいいさ。貴様だって愛を知らない人物だろ。だからこそ、こうして人を殺せる」

「‥‥‥‥ふっ、その口を今すぐ切り刻んであげます」

 もはや、戦えるのは竜輝だけ。

 周りの人たちは倒れ、共存の文明は崩壊した。

 けど、崩壊したけどこいつを殺せばその脅威も去り再興はできる。

 踏み込んできた彼女がこちらの間合いに入り込んだ。

 竜輝はガードし魔力を乗せた拳を振るう。

 彼女の針とぶつかり砕く。

 ネサは毒を吐き、蹴りをかまし拳と交差し打撃同士の技の取っ組み合いが始まる。

「俺はこの世界に来て間もないけどいろんな人を見た。どいつもこいつも楽しそうだった」

「突然なんです? まあ、私は攻撃をやめませんけど」

 蹴りの連撃。数撃が体を打ち、痛めていく。

 吐血を吐き散らしながらも今か今かという心を待ち拳一つで応対し続ける。

「そんな人たちを見て俺は次第に好きになった。そして、愛する人が生きたこの土地を見て安心感を抱いた」

「あーあー、うるさいですよぉ!」

「俺はこの世界で新たな気持ちを知った。それは愛情」

「キモイですよぉ!」

「ある人が悲しんだとき俺はずきりと心が痛んだ。それが愛情だと悟った。俺は愛する人がいるこの世界を捨てされはしない。そして、壊させはしない。誓っていう。俺はこの愛する世界を守る。そして、今こそ、俺は復讐を遂げる」

 ネサの両わき腹を攻める手刀の攻撃を見切っていた。

 竜輝は手刀を氷結化した腕で食い止める。

「つめたっ、なんですぅこれぇ?」

「終わりだよ」

 氷は伝達する感染病のように彼女の腕にまで及んでいく。

 彼女の腕は凍りついていく。

「この氷!」

 火炎の魔力で溶かそうとしても解けない異様な氷。

「絶対魔法だ。それは溶けることはない」

「絶対魔法!? 膨大な魔力を消費するはずのそんな魔法をどうして扱えるんですぅ!?」

「お前らのおかげだよ。俺を魔力を貯蔵できる体質に変えてくれたおかげだ。なにぶん、そのおかげで俺は他者からの魔力を奪い取ってそれも貯蔵できる。さっき、鈴やてめぇの部下とやりあったとき魔力をもらってた」

「そんな」

「自らの操り人形に殺される気分はどうだ?」

「このクソガキィイイイイイイイイイイイイイイイ!」

 体全体を氷結化した彼女へ竜輝は最後の攻撃のために構えを取った。

「あんたの部下が教えてくれた技を披露してやるよ」

「やめろやめろぉおおおお」

 拳から飛び散る雷、火。次第に体は風を巻き起こし台風の目のような状態になる。

 腰をひねり拳を「俺の人生の賠償金だッ」と拳を突き出した。

 サイクロンがネサを砕き散り、火炎が肉片を墨と化させた。

 まさに豪風雷火。頂上的現象の権化の技がネサの存在を消し去ったのであった。



 *******


 数日後――

 世界の魔力電力はすべてストップしたが政府がありとあらゆる手段を講じてトラブルを抑え、一世代前の文明、電子科学の文明に戻すことでなりを抑えた。

 世界中の人たちは不満タラタラだったがそれもあくまで一時的処置に過ぎないことをマスコミを使い公表していた。

 竜輝はあの最初に来た時の病室で上体を越しながらテレビに見入ってた。

「――ですから、魔力電力の復元は現在行っており、復興のめどは立っておりません」

 という報道の繰り返しがどのチャンネルでもなされていた。

 あの戦争後、地上での爆破騒ぎは警察関係者がどうにかしていた。工藤教官の働きかけが大きく、なんでも生徒たちも爆破に巻き込まれずにすんでいた。工藤教官がその爆破の存在に気付いた要因が大きい。

「魔力鉱石はいつ復元できるのでしょうね」

「まあ、あと2,3年はかかるんじゃないかなの」

 ふと、傍らで二人の少女――美香、愛華があきれた表情で文句を垂れ流していた。

 魔力鉱石、世界の魔力電力の供給源となっていた物質。それはネサ、侵略派のトップの存在で砕かれたがその破片を拾い集めグリアス王の助言のもとで復元が可能だとわかり、何年もかけた復元を行おうとしている。

「そんなことより、私は早く帰りたいわよ」

 この病室の最後の住人――雪がみんなの思いを代表した一言を告げた。

「だよな」

 そうして、彼女の横顔をうかがった時ふと、思い出してしまった。あの夜のことを。戦いの前にしたキス。

 あれははたしてどういうことだったのか。

「それはそうと、あんたはどうすんのよ?」

「どうするって何が?」

「そのぉ、施設はもう閉鎖でしょ。あんたは軍人ではないからこんご退院したらどうすんのかなぁって。どっか、大学でも進学するの? それとも就職?」

「あー、そうか」

 言われて気付いたが、この復讐を遂げたあとを考えてはいなかった。

 竜輝は包帯を巻かれた額を抑え考える人のような仕草で唸った。

「まあ、適当に就職かな」

「そう‥‥だったらさ、このまま軍人になりなさいよ。そしたら、また私が始動してあげるわ」

「え」

 顔を赤らめながら彼女はそっぽを向いてそんなことをいう。

「アーそうやってまた、雪はアピールするなの」

「私たちはこれでもりゅうくんのためを思い復讐の邪魔にならず距離を置いたたのにあの夜の時と言い今もそうです。敗北感を味わいます」

「あの夜ってあんたたち見てたの!」

「見てたなの。最初から最後まで」

「そうです、近くにいるのだからこっそりのぞき見れます」

「っ~」

 雪が顔を真っ赤に染め上げ布団に顔をうずめる。

「そういえば、あれってどういう意味なんだ」

「え」

「そのぉ、しただろ?」

「何がよぉ」

 雪は数秒のうち、思い出したのか叫びだした。

「なんで、覚えてるのよ! 忘れなさいよ!」

「忘れろって無茶だろ! あん時から俺はずっと意識して‥‥」

 次第に空気が硬直し始め愛華と美香がジトーとした視線を送る。

「もう、私もアピールしちゃいましょうか。りょうくん、軍に入ったら私が始動しますねー」

「あ、私もなの―」

「ちょっと、あんたたち、私はまじめな勧誘をねー!」

 3人が竜輝のベットに起き上がって集まってくる。

「俺のところに集まるな! ちょっと、怖いっての」

 竜輝が顔をあげた瞬間、むにゅっとしたマシュマロのようなやわ肌を感じて数秒間冷静な思考を取り戻す。

 それが何かは直感でわかった。

「りゅうくん」

「こういうのはまだ早いなの」

「あんたねぇ‥‥」 

「いや、まて、ほら、俺重傷なんだぞ。その右手に宿した魔力ではやめ――」

 病室に一つの爆音がとどろく。

 竜輝にそれは平和が宿ってきた人生の祝宴の爆発の音。

 まさに復讐を遂げた。

 そう確信をできるように煤にまみれた顔で笑いながら雪に胸倉をつかまれる。

「もう、あんたの根性は絶対、軍でたたきなおしてやるわよ!」

「あはははは」

 こんなに晴れ渡っていたんだ世界って。

 そう、確信を持ちながら竜輝は笑い続けた。

完結です。

グダグダ展開でしたが最後までお付き合いいただきありがとうございました。

この作品はすぐに削除される予定です。

削除予定日は4月後半です

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