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ハルツハルト

 朝の事柄があり、学内はやはり騒然となっていた。生徒一人一人も妙にそわそわしがちで授業に身が入ってない。

 さすがの立て続けに2件もの残虐的事件が起きれば軍事訓練の教育施設の生徒であろうと恐怖に慄き、落ち着いてなどいられはしなのだろう。

 だが、施設側が取ったのはあくまでも平常での授業進行であり生徒を強制帰宅させることはしなかった。

 生徒たちも不満は募っており、その中で竜輝は男子に向けた新たな授業が始まる。

 場所は第1グラウンド。数あるグラウンドでも一番大きめなグラウンドで魔法実技を教えることとなった。

 生徒たちも竜輝に視線を向ける一方で遠目に隣の授業風景をうかがっている。

 隣では女子側が実技を行っていた。

 それも九条責任者が取り立てた策案の一つ。

 今回の事態において生徒や教師をバラ消させるのは危険と判断し学園別で合同授業を行うことが確定された。

 合同と言っても教官は別として行われる。

 今回、竜輝は2学年次男子側で教官を行い、2学年次女子は別の女性のフィリアス人幾鈴教官が担当するという形になっている。

 学年合同という形をとることで一つの場所に1年は視聴覚、2年は第1グラウンド、3年は体育技館というとなっていた。

 それぞれに教官は2名ずつの配置だが、警備教官という配置も入り合計4名の教官が総動員で授業にかかりきりとなる。

 第1グラウンドにも南方にそれぞれ等間隔をあけ2名の教官が監視体制となっていた。

 男子の生徒も女子の生徒も教官のピリッとした感じに気づいてるのだろう。

 目を泳がせながら逐次後ろやら隣やらと落ち着きはなく授業などできる雰囲気などではないのは当たり前。

「おら、落ち着け。今から資料を配るからまわしてくれ」

 そこは教官の見せ所であり、手をたたき男子陣営の視線をこちらに向かせ前列の生徒に資料を手渡して後ろに回し全員にいきわたらせる。

「よぉし、全員に資料は回ったか?」

 竜輝もけど、この際にただ教官としての立場だけではなくちゃんと「任務」、共存同盟軍の潜入調査員としての役割も決行していた。男子陣営の中には爆破事件のかかわりがあり、侵略派メンバーの一人「ハルツハルト」という男がいることがわかってるのでその人物を探す。あの時の記憶を呼び起こし背格好が酷似した生徒がいないかと目をすがめつつ話を進行させる。

「その資料に記載されてるのは、魔法の形状変化の内容だ。魔力の融合性によってどのようなことが起こるか、どのように変化をさせられるかなどが記載されてる。とくに今回教える魔法形状変化の実技演習には集中力と想像力が伴うぞ」

 生徒一人一人の注意はそれてはない。

 だが、苦虫をかみつぶしたような表情ではある。一人の生徒が手を挙げる。

「先生、まだ俺たちここまでできませんよ。先週にやっと、魔力の元素融合ができたばかりです」

「できないと早計にきめつけはいけない」

 生徒の気持ちを考えた発言ではあるがそれが逆に男子世知との反感を買う。

「女子にちやほやされたいがために俺らに上位のことをしえようとしてんじゃないでーすか」

「あははは、ありえるっしょ」

 男子生徒にはどうやら、自分が好かれていないことは明らかに感じ取っていた竜輝は全然、動揺は起きない。遠くでは幾鈴教官が心配そうに見てくる様子がうかがえた。

 彼らの嫉妬心は相当根深いものであるけれどだからなんだろう。

 生徒の一人が魔法を放ち、明らかな威嚇行為をしてくる。

「やめなさい」

 魔法を素手で受け止め粉砕しさえすれば笑いはわき起こり、まるで子供だという認識をしっかりと植えつけた。自分と大して変わらない男に教育をしてもらうなど男のプライドというものが彼らには許せないのだろうことは明白だった。

 だからと言って教育を投げ出すほど愚かな行為はしない。

「運勢教官、こんな授業やってる暇あるんですか? 鏑木教官の事件と今日の事件が立て続けにあったってのにおかしくないですかー?」

「そうだそうだ。俺らの命なんかどうでもいいってか」

「家に帰らせろー」

 あげけは授業のバッシングを言い始め次第に空気は悪くなる。

「君たちは何もわかっていないな」

「あん?」

「君たちを帰らせないのもそれは教官たちが君たちのことを思ってだ。もし仮に生徒を狙った犯行だとすれば帰宅させた途端に狙いを済まし行動を起こすかもしれない。ならば、こうして平常授業を行い教官の監視のもとでいたほうが安全だという考慮だ」

 生徒の沈黙。

 生徒たちの心を動かすような正論にはなりえたと確信したとき、生徒の一人は丸めた資料を投げつけた。

「ふざけんな。守る? 俺らを守れてねえからあんな目にあった女子生徒がいたんだろうが! つか、何新米教官がわかった口きいてんだよ! 俺らと大して年齢もかわらねえのに女子にちやほやされて粋がってるんじゃねえよ!」

 そう言って立ち上がる生徒でイケメン顔で2学年次でもっとも有望だという優秀な生徒でり名前は春津はるつ春人しゅんじんと名簿に書かれていた。

 まさに怒りでむき出しながらの表情も醜悪ながらもジャニーズに出れるレベルのさわやか系の美顔である。たなびく金髪荒れ狂わせながらぜえはあと息を吐く。

「粋がってなどいない。それに守る以外にも今こうやって早期に身を守れる方法を教えておけばいざって時の対応をできるだろう」

「いざって時? だったらよぉー」

 優秀な生徒の目は赤く光る。

 その生徒はフィリアス人であることに気づく。

 種族は悪魔種の吸血鬼の類であろう。まわりの生徒も不穏なオーラを吐き出したその生徒から距離を置き始めた。

「あんたら教官は生徒が犯人だったら生徒を守れるのか!」

 右腕から赤い灯をまとい、火を放出。腕をふるい2学年男子生徒全員へ膨大な火炎放射が放たれた。

 放射は生徒たちに触れることはせず防壁によって守られ霧散していた。

「君か、ハルツハルトわ」

 勢いある炎は明らかに殺傷制度が高めの炎。

 まわりの生徒も動揺し「おい、春人殺す気かよ!」「っざっけんな!」と罵声を浴びてる。春津春人――ハルツハルトはそちらを軽い目線を送った程度で嘲笑い「仲良しごっこは終わりだっての」と害虫でも見るかのように辛らつな言葉を吐き捨てた。

「運勢教官。どうも、昨日は」

「なんで今になって正体を明かしてきたかわからないな」

 生徒たちは危機的状況を悟って一気に非難する。数名の配置していた教官たちがこちらへ駆けてくるが後方で爆発が起きる。

 その爆破に警備教官が二人巻き込まれ生死不明になる。

 煙の中ら何かが殺到し向かってくる。

 煙の中から現れたのはフィリアス人である。

 爆風でなびく銀髪。鋭い目つきに端正な双眸。額からはフィリアス人の龍種族特有の枝木のような2本角を生やしてる30代くらいの女性。

「鏑木教官!?」

 その場にいる誰しもが幽霊でも見たかのように声を上ずらせてその正体をしかとその目に焼き付ける。

「幾鈴教官は生徒の守衛をお願いするっす」

 駆け寄ってきた幾鈴教官は指示に従い、生徒へ合流を促す。ハルツハルトも生徒に用はない様子であり、みすみす見逃すように目線を送り続けるだけだった。

「馬鹿な連中に用はねえ。いいぜ、どこへなりと非難させろ。だけど、運勢教官あんたは俺の獲物だ。そして、柚葉雪あんたもだ」

 背後に回っていた柚葉の存在に気づいていた。

 柚葉が一歩踏み込み、背後から奇襲を仕掛ける。

「甘いな、カブラギィ」

 柚葉に向かい鏑木教官が飛びかかった。重くのしかかる蹴りの一撃。柚葉は腕をクロスさせどうにか衝撃を耐えた。 

 だが、再度打撃が連続で襲撃する。

 正拳突き、膝蹴り、肘当て、ローキック、フック――

 近接技の多彩なコンボに防衛の姿勢も次第に崩れ始める。

「柚葉!」

「おっと、あんたの相手は俺だ」

 援護射撃はさせまいと視線上にハルツハルトは立ちはだかる。

「もう一度聞く、何でこのタイミングで姿を現す!」

「どうにも待つのは性に合わない。だから、姿を現した。そして、あんたら軍人と殺し合い《ヤッて》みたい衝動のほうがまさちまった。それに俺には十分情報の収集は完了したとでも言っておくかな」

 表情から見て取れるは狂気の顔。竜輝がこれまでにあってきた戦闘部族の表情そのものであった。

 にじみ出てくるハルツハルトからのオーラ。

「こい、グラムフィード」

 頭上に高く手を掲げると天空から落ちてくるは一振りの大きな剣。

 赤と黒のコントラストで刀身を輝かせる大剣だ。

「うらぁ!」

 大きな剣を容易に片手で軽々ふるい衝撃波が地面をえぐり波のように迫る。

 迫ってくる衝撃波を観察し、魔法を詠唱した。

「水天、衝動、護壁爆吸、ウォールロック!」

 地上から突然と湧き上がる膨大な水が岩を押し上げて岸壁を形成した。

 岸壁に当たる衝撃波は霧散していく。

「ちっ」

「こっちも魔法に関してはあんた以上に上だ」

 水蒸気で煙るグラウンドを一気に駆け抜ける。

 間合いを瞬時に取りハルツハルトのど元を捕え手刀を叩き込み、相手のバランスを崩す、そのまま一気に間合いを取って掌に集中させた魔力を押し当て――

「バースト」

 豪炎の息吹が荒れ狂うようにハルツの体を射抜き、吹き飛ばす。

「ガァッ」

 吹き飛んでいくハルツハルトはこれにて先頭不能に追い込んで勝利を確信するが、ハルツの体を見事にキャッチしたのは鏑木教官の姿。

 柚葉の姿をすぐに確認すると魔法による擦過傷。

 大きなダメージを受けたことが分かるほどに披露し膝をついていた。

「柚葉!」

 柚葉のもとにかけ酔っていくときに気づく足元が暗黒の光に輝きだす。

 遠くのグラウンドの隅で急ぎ駆けつけて気だろう愛華と美香の姿を見た瞬間、視界は爆炎に包まれた。

「竜輝ィいい!」

「くくっ、これでまず一人だ。ああ、もう少し楽しめると思ったんだがあっけないぜ、ぐふっ」

「しゃべると死にます」

「うっせえ、カブラギ」

「そう言って今回の独断行動は見過ごせませんよハルツハルト。ボスはおこっております。ほかの仲間二人も学内ではおとなしく行動してるというのに」

「血が騒いだんだからしょうがねえだろう」

 勝利の確信の余韻にでもしたるかのようにぺらぺらとこちらの情報になるようなことをしゃべる二人の会話をきちんと柚葉は聞き逃さない。

 今回の行動がハルツハルト一人による独断専行であり、それを見かねて鏑木が動いたということなのか。

 それ以外にも侵略派の意図はわからないまでも残り2名がまだこの施設内に潜伏してるのが会話から読み取れた。

 煙がはれて、クレーターが出来上がる個所を見つめハルツハルトはことさらつまらなそうに眼を細めつつ溜息を吐いた。

「木端微塵かよ。地雷魔法くらいで。過剰な期待を寄せすぎたな。ボスには悪いが俺はここから離れる。外部の任務にしばらく当たってるさ。例の装置を発見したら呼べと伝えておけ」

「ハルツ、待ちなさい。ボスはゆるさ――」

 鏑木と何やらもめごとがあったが一瞬でハルツハルトは召喚させた闇のゲートに消え――

「ぐふっ」

 ハルツハルトの腹部に深々とささる剣がハルツハルトをゲートに通らすことを許可しなかった。

 ゲートを貫通し伸び出る魔力の塊の刀身。

「馬鹿な‥‥おまえいつ‥‥から‥‥」

「ハルツハルトッ!」

 倒れたハルツハルトの体を抱きかかえ、飛び退く鏑木教官。

 鏑木の視線の先には煤にまみれたやつれた焦燥しきった死んだ魚のような眼をした男――運勢竜輝の姿があった。彼の右手には魔力で構築したらしき氷の魔法で造形した刀。刀の周りには雷撃がバチバチととび散ってる。

「いつから? 爆破の衝撃を受けた直後からだ。さすがに衝撃を半減はできど相殺はしきれなかった分結構やられたぜ。おかげでアバラが2,3本イッちまった」

 愛華と美香がすぐに飛来し、竜輝の前に立つ。

「リュウちゃん、生きてて良かったです」

「びっくりさないでなの」

 鏑木とその腕に抱えられ弱り切ったハルツハルトは次第に教官たちにまで囲まれていく。

「さあ、ボスが誰か教えてもらうぜ、そいつには俺はきっちりお礼をしてえんでな」

「ふふっ、あははは」

 ハルツハルトはこわれたとばかりに高笑いを始め鏑木から離れて牙をむく。

「なめるんじゃねえぞ。俺は吸血鬼族だ。この程度の傷すぐに完治――」

「ハルツハルト、あなたはもう用済みだそうです」

「あん? カブラギ今何つ――」

 二度目の衝撃が周りを静寂にさせた。鏑木教官が背後からハルツハルトの心臓を貫くようにわしづかみ、どくんどくんと突き出されて彼女の手に握られる春津の心臓は握りつぶされ赤い液体が周りに散った。

「おまえ‥‥」

「さようなら」

 瞬殺としか言えない所業に一同が釘付けになるハルツハルトの死体へ。

 誰かが言う「鏑木教官はどこだ!」そこにもう、鏑木教官は存在してはいなかった。

 あとに残ったのは無残なハルツハルトの死体のみであった。


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